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おどり場の中条さん  作者: 只野透四郎
190/343

第190話 桃太郎の宿

夏合宿で小さな温泉旅館に泊まった文芸部員たち。

全員が風呂から上がり、夕食となる。

畑の野菜の天ぷらと、何かの肉がたっぷり入った鍋物。


「季節によっては山菜も出るんですよ。肉は猪とか熊とかも」と宿の老婆が説明。

住田が鍋物の具のひとつを箸でつまんで「この肉は鶏ですか?」

「雉です」と宿の老婆。


「こっちは獣肉ですよね?」と桜木が問う。

「猿ですよ」と宿の老婆。

戸田が驚いて「猿って食べるの?」

桜木は「ジビエでもかなり旨い部類らしいよ」


「これで犬があれば桃太郎だな」と芝田。

「中国では食べるけどね」と村上。

「犬は山に居ないけど、これは狸肉です。犬科ですから」

「本当に桃太郎鍋だな」と真鍋が笑った。


根本は「桃太郎って、三匹の動物に黍団子を食べさせる話で、食べる話じゃないけどね」

「だからさ、桃太郎は三匹に黍団子をあげる。もっと食べたかったら家来になりなさい。そうすれば、食べられます・・・って」と真鍋。

桜木は「それって宮川賢一の"注文の多いレストラン"じゃないか」


斎藤は「このフワフワしたのって、つくねですか?」

「キビ餅ですよ。この土地では昔は雑穀が主食みたいなものでしたから」と宿の老婆。

「ますます桃太郎だな」と鈴木が笑う。



食事が終わって論評会になる。

各自の作品が次々に俎上に乗った。


真鍋の番だ。

「昔話のパロディにSF要素を加えてみました」と真鍋。

村上が「SF要素って、どんな?・・・」

「人工子宮とか」と真鍋。

住田が「昔話は何を使ったのかな?」

「桃太郎です」と真鍋。

「犬猿雉は家来だよね? 食べるんじゃなくて」と渋谷が心配そうに聞いた。


みんなで真鍋の作品を読む。



その世界は戦闘用自立型AIロボの反乱によって科学文明が滅亡し、人類は野生化したAIロボによって支配されていた。

人々を苦しめるロボの人型汎用タイプは鬼と呼ばれたが、他に様々なタイプのロボが鬼とともに世界を支配していた。

ある科学文明の遺跡が崩壊し、胎児を宿しながらも凍結されていた人工子宮が流出した。

川を流れ下る人工子宮は老夫婦に拾われ、その中で生まれた子供は桃太郎と名付けられ、育てられた。

桃太郎は、自分のルーツを求めて遺跡を探り、犬型・猿型・雉型の戦闘用AIロボを手に入れた。

そして人類を鬼から救うため、三匹の動物型ロボを連れて、鬼たちの拠点である鬼ヶ島に向かった。

だが、犬型ロボと猿型ロボは仲が悪く、鬼と戦いながらも内輪もめを繰り返して仲間の足を引っ張り、ついに猿は鬼側に寝返って鬼ヶ島の幹部となった。

桃太郎は猿に恨みを持つ蟹型ロボの協力を得て、猿を降参させて鬼ヶ島を占領し、そこに住む島鬼たちを支配した。

一方、足柄山要塞に住む山鬼の女王山姥に育てられていた金太郎は、島鬼一族が人間に支配されたと知った。

彼は山姥から山鬼の支配権を譲られ、山鬼たちと、熊型などの動物型ロボを率いて鬼世界の統一に乗り出す。

さらにその頃、竜宮城基地を拠点に海底の海鬼を治めるセクサロイド型の乙姫は、亀型タイムマシンロボを使って過去の科学文明から招いた浦島太郎を愛人としていたが、島鬼一族と山鬼一族の動きを知ると、支配権を浦島に譲って鬼世界統一の戦いの指揮を委ねた。

こうして三人の若者に率いられた鬼たちの天下統一を巡る戦いは始まった。



読み終わった部員たちが好き勝手に感想を言い合う。


「人類を鬼から救う・・・って話はどうなったんだ?」と村上。

「それは、桃太郎が天下取りに夢中になって、忘れちゃう訳ですよ」と真鍋。

「そういう残念要素って訳ね?」と斎藤が笑う。

「それとさ、こういうロボ物って、視覚に訴える部分が大きいんだよね」と桜木。

「そうなんですよね」と真鍋。

「漫画やアニメの方が向いてるんじゃないのかな」と住田が言った。

真鍋は「そうですよね、また考えます」



次に鈴木の番。

「真鍋のSF作品を原作に漫画を描きました」

全員、前のめりにコケる。

「それを早く言え!」と先輩たち。



気を取り直して、次へ・・・。

「戸田さんと根本さんのは両方とも女性主人公の異世界転生って訳ね」と斎藤。

「どちらも美貌と魔力に恵まれた魔法世界のヒロインとして転生する訳か」と住田。


先ず、根本の作品をみんなで読む。



美貌と魔力に恵まれた貴族令嬢として転生し、聖女と認められた主人公。

だが、彼女を転生させた女神のドジで、その強力なスキルが抱える様々な欠陥により失敗を繰り返す。

魔物の大群に襲われた町を救うため、僅かな兵とともに出撃した聖女は、強力な爆炎魔法で多くの魔物を倒すが、炎属性の魔物は爆炎魔法では倒せない。

聖女は彼らを水魔法で倒すつもりだったが、爆炎魔法は強力な分、魔力消費が激しく、聖女は魔力が枯渇して動けなくなる。

兵たちは聖女を担いで炎魔たちに追われ、ボロボロ状態でようやく逃げ延びた。

次に、物理攻撃で倒せない闇の魔物の大群が現れ、聖女は光の呪文によってそれを封印した。

光の呪文は強力で、魔物は結晶の中に封じられる。だが、その結晶は極めて脆かった。

聖女は結晶を町の聖堂の地下に保管しようとするが、町に運んだ所で結晶が壊れ、魔物たちが復活して町は大混乱に陥った。



読み終わって好き勝手言う部員たち。


「相変らずの残念系だね」と住田が笑う。

根本は得意げに「期待されてハイになってから盛大にコケる人って、見てて面白いじゃないですか?」

村上が笑いながら「根本さん、発想が睦月さんみたいになってない?」

「何か言った?」と秋葉が口を尖らせた。



「次は戸田さんだね」と住田。

戸田の作品をみんなで読む。


庶民の家に転生して魔力を認められ、王子に認められて並み居るイケメン貴族たちのマドンナに・・・


読み終わって論評タイム。

斎藤が笑いながら「戸田さんの作品って・・・」

戸田は「女と産まれた以上は世界中の男性の心を射止める高嶺の華として無双したいじゃないですか?」

村上が笑いながら「言ってる事が住田先輩みたいになってない?」



最後に渋谷は短歌をいくつか披露した。

「里山の 低き峰に咲く 花たちを 美しからじと 誰ぞ言うらむ」



「高嶺の花じゃなくたっていいじゃん・・・って訳だね?」と桜木。

「何だかほっとするね」と戸田。

「私みたいな可哀想な子でも、ちゃんと価値はあるんだ・・・って事よね?」と秋葉。

「秋葉さんがそれ言うと嫌味にしか聞こえないんだけど」と根本が言った。


「けど、こういう台詞って、むしろ男性に言って欲しいって思わない?」と戸田がぽつり。

芝田は「いや、俺もそう思うよ。普通の女の子万歳だ」

村上も「昔、"隣のお姉さん!っていう言葉があったんだよね」

鈴木が「ってか大体、恋愛対象のステータスを気にするのって、むしろ女性の側じゃないのかな?」

「王子様とか売れっ子のタレントとか人気作家とかじゃ無きゃって。そうじゃないモブ男なんて誰が相手にするもんかぁ・・・みたいな」と真鍋。

戸田と根本が口を揃えて「真鍋君、私たちに喧嘩売ってる?」


住田が笑いながら仲裁しようと「まあまあ。それに、女子っていざ好意を持たれると、自分は特別だから求められたんだよね?・・・とか言って、自分のどこが特別かを言わせたがるよね?」

「あったなぁ。褒める所を十個とかノルマ課されたりして」と村上。

「いや、それ言わないと、誰でも良かったのか、って事になるでしょ?」と戸田が口を尖らす。


「それで、先輩たちは、中条さんと秋葉さんの好きな所を十個、言ったんですよね? 何て言ったんですか?」と根本は興味津々顔。

村上と芝田は顔を見合わせて「何だっけ?」



夜も更けて寝ようという話になる。

宿は男子部屋と女子部屋のつもりで二部屋を用意していた。


そんな中、渋谷は遠慮がちに言った。

「先輩たちはその・・・するんですよね?」

「いや、別に、必ずやってる訳じゃないし」とバツの悪そうな顔で村上が言う。

「無理しなくていいです。新歓合宿の・・・」と渋谷が言いかけた時、戸田が大声でその言葉を遮った。

「忘れなさい。先輩命令よ!」


斎藤は不審顔で「新歓で何かあったの?」

「何でもないです。そうよね?」と戸田が後輩たちを威嚇。

真鍋が「はい、何も無いです。戸田先輩が桜木先輩の上で腰振ってたなんて俺たち見てないですから」

戸田はハリセンで真鍋の後頭部を思いきり叩いた。


村上は溜息をついて「いや、戸田さんは悪くないぞ。二人がそういう仲だってみんな知ってるし」

鈴木も溜息をついて「ってか、俺たちがあの部屋に行ったのって、住田先輩がヤクザの情婦引っかけて女の旦那に見つかって、俺たちの部屋に逃げ込んで始めちゃったからで・・・」

住田は慌てて「何で俺の所に話が回って来るんだよ!」

斎藤はあきれ顔で「住田君、そんな事やってたの?」



結局、上級生八名で一部屋、一年生四人で一部屋。


「先輩たち、やってるかな?」と鈴木。

「いいなぁ」と真鍋。

渋谷は笑って「やりたい?」

「いいよ。渋谷さんは中川が居るでしょ?」と真鍋。


「鈴木君はやりたい?」と根本。

「桜木先輩が好きなんでしょ?」と鈴木。

すると根本は「先輩、相手してくれないし。それに鈴木君、童貞でしょ? 卒業したくない?」

「その気持ちだけで充分」と鈴木。

そして渋谷が「真鍋君、そっち行っていい?」と言い出す。


二組の布団の中で二組の男女が寄り添う。

鈴木と根本、真鍋と渋谷。互いの体温とともに伝わって来る何かが、自分を満たしていくのを、四人の男女は感じていた。

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