第187話 ポセイドンの祭典
佐藤が春月の夏祭りに村上達を招待した。
秋葉の車で、四人で春月市住宅街にある佐藤の実家へ向かう。
佐藤家に迎えられ、お茶を飲んで話を聞く。家族は両親と姉。その姉は祭りが大好きで、朝から出かけているという。
佐藤家を出て町を歩くと露店が並ぶ。買い食いしながら神社に向かう。
お参り客で賑わう中、ナンパした女性を連れている住田と鉢合わせになった。
住田はバツの悪そうな顔で「斎藤先輩には言わないでくれよな」
住田と別れてすぐ、浴衣を着た斎藤と鉢合わせになった。
「住田君、見なかった?」と斎藤。
「あっちに行きましたよ」
そう言って村上は、住田が向かったのと反対の方向を答えた。
斎藤は「ありがとう、村上君」と言って、村上が答えたのと反対方向へ向かう。
「村上、読まれてるじゃん」と芝田は言って笑った。
経済学部の学生と頻繁に鉢合わせになった。
「秋葉さんじゃん」
秋葉は笑って「たまには彼とお祭りデートよ」
「どっちが彼?」
「両方」とドヤ顔の秋葉。
「いや、彼はこいつだから」と村上は芝田を指さす。
すると秋葉は拗ねて「真言君は私が嫌いなのよね?」と言って涙ぐんでみせめ。
「いや、そんな事は」と慌てる村上。
「泣かせちゃったよ」と芝田。
中条もふざけて「真言君、いけないんだぁ」
村上は「里子ちゃんまで・・・ってか睦月さん、この手に持ってるの、目薬だよね?」
秋葉は「てへ」
経済学部の学生、あきれ顔になる。そして彼は思った。
(こいつらって・・・)
芦沼が理学部の男子数人を連れているのと鉢合わせになった。
村上が笑って「芦沼さん、相変わらずの逆ハーレムだな」と声をかけた。
「村上だって女連れじゃん」と理学部の学生が笑う。
そして芦沼が「それより村上君たちも行くんでしょ? 割引セール」
「いや、お祭りに来てバーゲンに行くかぁ?」と村上。
芦沼と別れると、中条は言った。
「芦沼さんでも、主婦みたいな事するんだね」
村上はあきれ顔で「違うと思う。今日はラブホが割引なんだよ」
神社には多くの参拝客が居る。
拝殿で五人並んで柏手を打つ。お御籤を引き、神社前の公園を歩く。
向こうから島本が来る。浴衣姿で男性を連れている。かなりのイケメンだ。
「あら、佐藤君、今日は中条さん達と一緒なのね?」
「誰?」と男性が島本に聞く。
「友達よ」と島本。
男性は佐藤に「よろしくな」と言って右手を差し出す。
佐藤も「こちらこそ」と言って握手を返す。
佐藤はそっと島本の彼氏の耳元で囁いた。
「その人、かなりとっかえひっかえしますから」
男性は「うまくやるさ」と言って笑った。
島本が行くと、佐藤はみんなに言った。
「山車が出るのは夕方だが」
「じゃ、近くの海水浴場だな」と芝田。
海水浴場は人出が多い。住田が水着の女性を連れて歩いているのに鉢合わせた。
村上が「さっきと別の人ですよね?」と聞く。
住田は「祭りはナンパのために設けられたイベントだからな」
「違うと思いますけど」と村上。
その時、背後から声をかける者が居た。
「住田先輩は一人ですか?」
早渡が二人の水着の女性を連れている。
「さっき一人居たんだよ。斎藤さんに追い払われたけど」と住田は口を尖らせた。
だが早渡は得意顔で「俺、さっき別の人と居たんで、三人目です」
「甘いな、お前等」と背後から声をかけたのは二人組の水着の女性を連れた角田だ。
「俺はさっき別の二人組と居たから、四人目だ」
「ナンパの競争ですか?」と村上はあきれ顔で言った。
その時、背後から斎藤の怒り声。
「住田君、こんな所に居たの? さっさと水族館に戻るわよ」
この有様を見た女性たちは「何だか馬鹿らしくなっちゃった。行こうか」と言って、散って行った。
「住田、戦線脱落か」と角田が笑う。
住田は「すぐ復帰しますから」
「そうはさせないわよ」と斎藤は言って、住田の耳を引っ張って行った。
彼らを見送った角田は「じゃ早渡、勝負再開だ」
「負けませんよ」と早渡。
佐藤は「こいつら、何のためにこんな事やってるんだ?」とあきれ顔で言った。
荷物を置き、服を脱ぐ。五人とも下に水着を着ている。
人の多い中を水に入って遊ぶ水の中で二人の男子にじゃれる中条。
秋葉は笑って「里子ちゃん、平泳ぎ、だいぶ上達したんじゃない?」
中条は「まだ顔を水につけられないけど」
「それが平泳ぎのいい所だよ」と村上が笑う。
秋葉が「向こうまで競争しない?」
芝田が「人が多くて障害物だらけなんだが」
「障害物競走だな」と佐藤が笑った。
水から上がる。
「水族館にでも行こうか」と佐藤。
「それじゃ、浜茶屋のシャワーを浴びて着替えるとするか」と芝田。
中条が困り顔で言った。
「どうしよう、下着忘れてきちゃった」
「それは・・・」と男子三名、絶句。
秋葉が「着替えたら近くのスーパーに行って現地調達ね」と彼らを促す。
市街地に入り、五階建てのスーパーを目指す。
「なんかスース―する」
「買うまでの我慢よ」
スーパーに着いて衣服売り場へ。
秋葉と中条で下着売り場に入る。男子は離れた所で待機。
「買ってきたよ」と嬉しそうな中条。
「じゃ、行こうか」と村上。
その時秋葉が「その前に買い物したいんだけど。向こうに可愛い水着があるの。今のは古くなってるし」
「えぇーーーー?」と村上・芝田。
佐藤はあきれ顔で「いいじゃん、お前等の彼女だろ?」
「お前は女の買い物の恐ろしさを知らんのだ」芝田。
「けど、秋葉さん一人だから品物選びで対立する相手も居ないし」と佐藤。
「それはそうか」と村上・芝田。
水着売り場の秋葉はしばらく品物をあれこれ手に取るが・・・。
「真言君、拓真君、どっちがいいと思う? これは派手過ぎな気がするし、こっちは地味過ぎな気がするし」と言い出す秋葉。
「睦月さん一人でもこれかよ」と村上・芝田はあきれ顔。
「で、どうなの?」と秋葉は返事を迫る。
村上が「ここはひとつ、新しい知見という事で、佐藤の意見を聞いたらどうかな?」
佐藤は「いや、俺、秋葉さんの彼氏じゃないし」
「私、可哀想な子なの」と秋葉が拗ねる。
佐藤は溜息をついて「どこがだよ。十分恵まれてると思うよ」
夕方が迫る。
「そろそろ山車が始まる時間だ」と佐藤が移動を促す。
「神社に戻ろうか」と芝田。
神社前の道路では、船の形に車輪のついた山車に、半被を着た女性が乗って、大きな団扇であおぎながら囃す。
村上は笑いながら「もしかして、あれが佐藤のお姉さんだったりして」
「そうだよ」と佐藤。
大勢の男性が山車を綱で引いて進み、お囃子とともに練り歩く。
佐藤の姉が山車の上で佐藤を見つけて小さく手を振った。
「商売繁盛」「海上安全」と書かれた旗が何本も続く。
「いかにも海の神ってところだね」と中条が笑った。
秋葉が「お腹空いたし、ファミレスにでも行こうか」と移動を促す。
五人でファミレスに入り、席に座る。
「俺だけ熱いラーメンってのは止めろよな」と芝田が言う。
「というか、カレーが食べたくない?」と秋葉が言う。
ウェイトレスが注文を取りに来ると、秋葉が「ビーフカレー四人前に・・・」
そう彼女が言いかけた時、芝田が口を挟んだ。
「激辛カレーというのも止めろよな」
秋葉は「ビーフカレー五人前で」
ファミレスを出ると、民謡流しが始まっていた。
踊りは、かなり単純だ。
佐藤が踊り方を教え、五人で民謡の列に加わる。
中条は佐藤を見ながら身振りを真似て踊った。
空では花火が始まっている。




