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おどり場の中条さん  作者: 只野透四郎
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第185話 それでもコミケは廻る

前期の授業が終わって前期試験も終わり、夏休みが始まる。

斎藤は教員採用一次試験に合格して、時々部室にも顔を出すようになった。



そんなある日、文芸部の部室に漫研の櫛木が乗り込んできた。


「斎藤さん、余裕そうね」と嫌味を言う櫛木。

「おかげ様でね、櫛木さんはどうかしら?」と斎藤は笑って受け流す。

「私はもう内定が出て就職戦線勝ち組決定よ。そちらは二次がまだなんでしょ?」と櫛木はドヤ顔。

だが斎藤は「こんな所まで自慢しに来るって事は、今まで相当苦しかったのかしらね?」と鼻で笑う。


「大きなお世話よ。それよりもうすぐ夏コミよね?」と本題に入ろうとする櫛木。

「春コミだけどね」と斎藤。

「呼び名なんていいのよ。あなた達も文字オンリーの古臭い体質をようやく悔い改めた事で、ようやく同じ土俵に立てたって事で、どちらが優れたサークルかをはっきりさせようじゃない?」と櫛木。

「断ると負けを認めたとか陳腐な勝利宣言言いたくてうずうずしてるって訳ね?」と斎藤。

櫛木は「つまり勝負を降りて負けを認めたと?」

「相変わらず幸せな選別聴力ですこと」と斎藤は笑う。


「で、勝負は受けるの? 受けないの?」と櫛木

「いいわよ、で、何で競おうと? 落とした男の数でも競ってみる?」と無理やり得意分野に引っ張ってみせる斎藤。

痛い所を突かれたかのように櫛木は「マーケットなんだから売り上げ冊数に決まってるじゃないの!」と声を張り上げた。

「質より量で商品の種類だけは多いものね?」と斎藤。

「部員数はサークルの魅力の現れよ」と櫛木。

「代表作と呼べるような輝ける作品を出せない漫研らしい言いぐさね」と斎藤。

櫛木はムキになって「輝ける名作なら、いくつもあるわよ」

斎藤は「本当かしら?」とあざ笑い口調。

「いいでしょう。何か代表作を決めて、その売り上げ冊数で勝負よ」と櫛木。



鼻息荒く立ち去る櫛木を見送ると、村上は心配顔で斎藤に言った。

「大丈夫なんですか?」

「うちにはポトマックが居るじゃない。桜木君原作で鈴木君がコミカライズ。余裕でしょ?」と斎藤は笑う。

桜木は心配そうに「ポトマックの名前を出すと、俺がここに居るのがバレるんですけど」

「ネットで知り合って使わせて貰った・・・って事で行けるんじゃない?」と斎藤。

「なるほど、それならリアルバレにはならないか」と部員たち。


「けど、もうひとつ問題が・・・」と村上が指摘する。

斎藤は「何よ」

村上は「俺達、小説コーナーですよね? 来る客自体が少ないんですけど」

「あ・・・」



そんな中で芝田が言った。

「俺は当日はそっちには行けないんだ」

「どうしたの? 拓真君」と秋葉。

「アニメ絵作画システムのデモをコンピュータ研究会でやるから、榊たちと一緒に、そっちに詰めなきゃならん」と芝田は言った。



コミケ当日、部員達は住田と秋葉・真鍋の車に分乗して現地に向かった。

ロビーで漫研と鉢合わせる。芝田は刈部と示し合わせてコンピュータ研へ。

「時々様子を見に来るよ」と芝田は村上に声をかけた。

「俺も後でそっちを見に行くから」と村上。


向こうでは斎藤と櫛木が、例の如く、やり合っている。

「代表作は一番売れた作品って事でいいわよね?」と櫛木。

「代表作がどれかも言えないのよね?」と斎藤。

櫛木は顔を赤くして「そう言える作品がいくつもあるって事よ」



小説コーナーに行って、自分達のブースを設定する文芸部員。

各自の作品とともに、鈴木によって漫画化された作品が並ぶ。


「去年より売れると思うよ」と住田が笑う。

「けど、漫研の作品って、どれだけ売れるのかな?」と渋谷が心配そう。

村上は「ま、どうせ斎藤先輩の個人的な喧嘩だから」

秋葉は「私たちの喧嘩・・・じゃないからね」

「聞こえてるわよ」と斎藤が口を尖らす。



開場とともに一年生四人に先輩たちが言った。

「コミケ初体験として会場を廻って来たらどうだ。上級生で店番してるから」

すると鈴木が「ありがとうございます。けど、美術大の漫研の所だけ一緒に行きませんか? 実は田中が会いたがってて、連絡したら、新境地を開いたから先輩にも見て欲しい・・・だそうですよ」



一年生たちと一緒に村上・秋葉・中条が美大のブースへ。

田中と高梨が彼らを見つけて手を振った。


「こんにちは、先輩。藤河さんは廻ってて留守ですけど」と田中が懐かしそうに言う。

「久しぶりだな、田中。それに高梨さんも」と鈴木が笑う。

「そっちが県立大の仲間か?」と田中。


鈴木は三人の同期を紹介する。



「で、田中が新境地を開いたって?」と村上。

田中が何か言う前に、高梨が不満顔で訴えた。

「そうなんです、先輩たちも言ってやって下さいよ」


「何を始めたんだ?」と村上。

田中が自信顔で「レディースコミックですよ」

「はぁ?・・・」

村上たち、唖然。


そして秋葉が笑って言う。

「田中君も男の子・・・って事かしらね?」

「女性向けですよ」と田中が口を尖らす。


「けど、何でまた・・・」と不審そうな村上に田中本人が説明。

「去年、上坂の漫研のみんなが合格祝いしてくれて、八木先輩たちも来たんです。その時、八木さんが言ったんです。男子だからこそ女子の世界を描きたいんじゃないのか?・・・って」

「けど、男も出るんだろ?」と村上。

「主人公の彼氏は出ますけどね」と田中。


「それより、ホラーバトルはどうしたの?」と秋葉が口を挟む。

田中は「学生として自分の作品を提出するのに、いつまでも合作って訳にはいかないじゃないですか」

「それでか」と村上。


「だからって、こんな過激なのを書かなくてもいいと思いません?」と高梨が口を尖らす。

村上は「過激に、あんな事とかこんな事とか?」

「バットもって相手集団に突っ込むんですよ」と高梨。

「道具使って集団プレイは問題だろ」と村上があきれ顔。

「最近のレディースってそこまでやるの?」と秋葉もあきれ顔。


「大学に出す作品として何か言われない?」と中条は心配顔。

「そりゃ言われますよ。教育上の配慮を・・・って」と高梨。

「そりゃ、エロだもんなぁ」と村上。

「何だか話が噛み合ってない気がするんですけど」と、何かに気付いたように高梨が言った。


田中が「とにかく作品、見て下さいよ」と言って、自分が書いた漫画の冊子を差し出す。



田中の作品を読んでみる。

村上たち、唖然。


それは、特攻服で身を固めた女性暴走族どうしの壮絶な集団抗争を描いていた。

村上は頭を抱えて「ツッパリ物の女版じゃないか!」


「レディースってこういう人達の事ですよね?」と田中。

そして高梨は「あんな目に遭ってツッパリ漫画止めるって言っておいて、たった一年でこれですよ。先輩たちも言ってやって下さいよ」



村上が溜息をつきながら説明する。

「あのなぁ、田中。レディースコミックって、大人女子がイケメン彼氏をゲットして、やりまくったりする漫画だぞ。レディース=ヤンキー女じゃないから」



その時、藤河がブースに戻って、村上たちに声をかけた。

「あら、あなた達、来てたの?」

村上はあきれ顔で「藤河さん、田中のアレ、知ってた?」


藤河は笑いながら言った。

「私は後輩の作品には口出ししない主義だから。エロだろうが暴力だろうが」

「けど、レディースコミックが何かくらい教えてやったらどーよ」と村上。

「だって面白いじゃない」と藤河。



村上は溜息をついた。そして話題を変えて、言った。

「ところで、例のブツの売れ行きはどうだ?」

「順調よ」と藤河。

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