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おどり場の中条さん  作者: 只野透四郎
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第184話 海だ!キャンプだ!温泉だ!

四人の後輩たちの相談を受けて、互いに距離を詰めたいという想いを知った村上たち四人。

温泉のある海辺のキャンプ場に行く計画を立て、後輩達を誘い、日程を決める。

テントはワンゲル部から、部員で経済学部の秋葉の友人でもある時島を通じて二つ借りた。

車は二台必要だ。秋葉の車に二年生四名。一年生四名は真鍋の車に搭乗。



現地についてキャンプ場の駐車場に車を止め、テントを二基建てる。


根本が「男子用と女子用ですか?」と確認。

「私たちはこっちで一緒するけど」と秋葉が応える。

「じゃ、っこっちは一年用・・・って事はこいつらと?」と根本。


それを聞いて鈴木と真鍋は溜息をつくと「俺達、外で寝るから」

「蚊がいるよ」と渋谷。

真鍋は「大丈夫。俺の血、不味いから」

「あちこち刺されてるけど」と渋谷し真鍋の腕を見て、言った。


すると芝田が「お前ら、俺達のテントで寝るか?」

秋葉が笑いながら「私の寝袋で三人で寝る? 胸のあたりが窮屈だと思うけど」

「必要ありません。この二人も私達のテントで寝るんで」と根本は言った。

渋谷はそんな根本を見て笑いながら痒み止めを出して「真鍋君、痒み止め塗ってあげるね」



全員、上着を脱いで水着になり、八人で海に入る。

真鍋は中条を見て「そーいえば中条先輩って、泳ぎは?」

「平泳ぎなら、少しは」と中条は笑って答える。

「気にするんなら同学年女子を気にしなさいよ」と根本が口を尖らせる。

「二人とも泳げるでしょ?」と真鍋が渋谷と根本に確認。

すると渋谷が「私、泳げないよ」


芝田は真鍋の肩を叩いて「じゃ、真鍋、しっかり教えろよ」

真鍋は不安顔で「泳ぎを教えるって、どうやって?」

「両手を握って水に浮かせて、バタ足させながらゆっくり引く」

「バタ足より平泳ぎの方がいいんじゃないかしら。里子ちゃんですら出来るくらいだし」と秋葉。

村上が「睦月さん、何気に酷い事言ってない?」


しばらく砂浜で泳ぎ、はしゃぐ八人。

そのうち渋谷が「向こうの磯に行ってみない?」と言い出す。

海水浴場の砂浜の端は背後の山が迫る海蝕崖。岩場が続く磯の浅い底に様々な生物が居る。

「蟹が居るぞ」と芝田。

渋谷が「食べられるかな?」

「全部の種類が食える訳じゃないと思うぞ」と村上。

「こっちはヒトデ」と真鍋。

「これ、ナマコだよね? 食べられるかな?」と渋谷。

芝田が「料理の仕方、知ってるのか?」

真鍋が「村上先輩は何でも刻んで煮物にするんですよね?」と真顔で言う。

芝田は笑って「おい村上、お前の料理、魔女が大鍋で作る煮込み薬みたいに思われてるぞ」



昼食時になり、八人で浜茶屋に入った。


芝田が後輩たちに「具の少ないラーメンと粉っぽいカレー、どっちがいい?」

「それ、昔のアニメのネタですよね? そんなメニュー無いですよ」と鈴木があきれ顔。

「何で知ってるんだよ」と芝田。

村上が笑って「そんなのに騙されるのは芝田だけだ」

「お前、俺を馬鹿だと思ってるだろ」と芝田は口を尖らす。



食後、砂浜に出てビーチバレーをやる。


芝田と真鍋が組む。村上・鈴木組は手も足も出ない。

「お前等、ダメダメだな」と芝田が笑う。

「お前は肉体派だろ。勝って当然だ」と村上。

「肉体派って何だよ。俺を馬鹿だと思ってるだろ」と芝田が口を尖らす。

秋葉が笑って「交代よ」


秋葉・根本組に手も足も出ない村上・鈴木組。

「負けたのは相手が肉体派だから・・・じゃ無かったの?」と秋葉が笑う。

すると真鍋が「秋葉先輩も肉体派ですよね?」

根本が真鍋の後頭部をハリセンで思い切り叩く。



ビーチバレーに飽きた一年生が「スイカ割がやりたい」と言い出す。

秋葉が「それよりスイカチャンバラやろうよ。ハリセンもあるわよ」

「睦月さん、いつもそんなの持ち歩いてるの?」と村上があきれ顔。

すると渋谷が「それより、スイカチャンバラって何ですか?」


村上と芝田が目隠しされ、ハリセンを持って向かい合う。

「根本さんか渋谷さん、指示役やってくれ」と芝田。

根本は「芝田さんの彼女は秋葉さんじゃないですか?」

「この人、冗談で変な指示出すんだよ」と芝田。


芝田相手にダメダメな村上。鈴木と真鍋が張り合う。そんな男子達を見てはしゃぐ女子達。



日が出ているうちに・・・と日帰り温泉に入る。

湯舟の中でくっつく二年生。それを羨ましそうに見る一年生。


鈴木は秋葉に訊ねた。

「秋葉先輩は、こういう温泉によく来るんですか?」

「温泉巡りやってるの」と得意げな秋葉。

「観光経営をテーマにしてる訳ですね?」と鈴木。

「あ・・・そ、そうね」と秋葉は口ごもりながらもドヤ顔を見せる。


そんな秋葉を見て鈴木は「もしかして単なる趣味ですか?」

秋葉は慌てて「ま・・・まあ、こういう水着前提の混浴というのは、戦略として優れモノだと思うわよ。普通の温泉が男女別々な中で、カップルが一緒に入れる事で、そういう人達の需要に応えている訳だからね」


鈴木は「尊敬します、秋葉先輩。他の先輩たちが言ってるんです。秋葉先輩はすごいって」

秋葉は得意げに「まあ、それほどでもあるけど」

「経営技術研の隠れた女帝って」と鈴木は続ける。

秋葉は調子に乗って「ほーっほっほっほ」と高笑い。


それを脇で聞いて、村上と芝田がひそひそ。

「女帝だってさ」と芝田。

「言葉の響きがいかにも睦月さん」と村上。

秋葉は「聞こえてるわよ」と言って口を尖らせた。


そして秋葉は「鈴木君、今度、一緒に研究室に来る?」

「はい、是非」と、鈴木は子犬が尻尾を振るような表情。

「鈴木君、可愛いなぁ」

そう言って上機嫌で鈴木の頭を撫でる秋葉。目の前の秋葉の胸に赤面する鈴木。

そんな鈴木を抱きしめる秋葉。

鈴木は焦り顔で「秋葉先輩、胸、胸・・・」



そこに根本が割って入り、「ちょっと鈴木君、こっちに来なさい」

根本の目が怖い。

「どうしたの?」と怪訝顔の鈴木。

「いいから」と言いながら鈴木を引っ張っていく根本。


そんな根本を見て真鍋は「あれって焼きもち?」

「けど、根本さんって桜木先輩が・・・」と渋谷。

「何だろうね?」と真鍋。



夕食にキャンプ場の竈でカレーを煮る。だがカレー汁が余る。

秋葉が「ご飯が足りないね」と言い出す。

「インスタントラーメンを買って来ようよ」

村上がお金を渡して鈴木と真鍋をお使いに出す。


買って来たインスタントラーメンを鍋で煮る。

「スープは別鍋だよね?」

そう言って中条は小鍋でスープを加熱するが、その小鍋を落としてスープをぶちまける。

「ごめんなさい」と中条。

芝田は「いいさ。それより、せっかくカレー汁が余ってるんだから、カレーラーメンにしないか?」



外でわいわいやっているうち、あちこち蚊に刺される。

芝田が「そろそろテントに入ろうか」と言い出す。


三年のテントで八人が環になって、お菓子と飲み物を手に、住田や斎藤・森沢の曝露話で盛り上がる。

それぞれの研究室の話、芦沼の話や人工子宮の話題も出る。

「そういえば、春月県大の女アルキメデスって、芦沼さんの事ですよね? 凄い人だったんだ」と真鍋が話題を振る。

秋葉が笑いながら「あれはね」

「睦月さん、噂話にも節度ってものがあるよね?」と村上が慌てて話を切る。

「村上先輩、何焦ってるんですか」と根本が不審顔。



夜も深まり、一年生が自分達のテントに戻った。

四人並んで横になる。根本は隣に居る鈴木に、渋谷は隣に居る真鍋に、そっと寄り添う。


渋谷が「あのね、真鍋君」

「何?」と真鍋。

「いや、何でも無い」と渋谷。


根本が「あのね、鈴木君」

「何?」と鈴木。

「いや、何でもない」と根本。


真鍋が「あのさ、渋谷さん」

「何?」と渋谷。

真鍋は「何だか変な音、しない? ぷーん・・・って」


根本が「蚊が入って来てる!」と叫び、四人は跳ね起きた。

明かりをつけて、四人は蚊を潰そうとパチパチやる。

あっちに行った、こっちに行ったとテント内は大騒ぎ。

根本が「こういう時はどうするんだっけ?」

「蚊取り線香だよ」と鈴木。

「先輩から借りて来る」と言って渋谷がテントを飛び出す。

それを見て真鍋は残念そうに「あの・・・俺、持ってきたんだけど」

根本が残念そうに「それを早く言いなよ」


蚊取り線香に火をつけて、ほっと一息つくと、渋谷が戻って来た。

「先輩達も持って無かったよ。向こうにも蚊が入ってて、大変な事になってるよ・・・って、それ、蚊取り線香だよね?」

「半分折って、持っていく?」と真鍋が言った。



キャンプから戻って後、秋葉は鈴木を連れて経営技術研に来た。

須賀教授に農業経営について質問する鈴木。


「日本は土地が少なく農業に向かないと言われているが、実は広大な農地が余っている。そして経済の成熟で需要が飽和する中、一定量の農産物を自給に切り替える事で経済拡大の余地が生まれる。要はやり方次第なのさ。しかも高級品への指向が成功しているから、輸出も増やせると同時にグルメ観光にも使える」と教授が弁を振るう。

「観光戦略にも繋がる訳ですね?」と鈴木。

「そうだよ。観光農園というのもあるからね。体験型や自然志向の観光はブームでもある。経済が成熟すると、成長するのは、そういう娯楽分野だからね。高級食材で味を楽しむのも、娯楽の一部なのさ。観光は旅行先進国として外国からの収入も期待できる。日本はかつて、海外旅行で外国にお金を落とす一方だったからね」


そう言うと、須賀は研究室の奥の書架に居る学生を呼んだ。

「栃尾君」

「何でしょうか、教授」と言いながら栃尾が出て来る。

須賀は鈴木に彼を紹介する。

「彼の実家は温泉旅館でね、それを立て直すために観光戦略を勉強しているのさ。いろいろ教わるといいよ」

「君も観光がテーマなのかい?」と栃尾は鈴木に言った。

鈴木は「漠然と、企業が客を集める戦略って何だろうって考えてたんです。農業経営はここに入る後輩が勉強したい事なんですけど」


そして須賀は、鈴木の隣に居る秋葉に言った。

「ところで秋葉君、君のテーマは決まったのかい?」

「あ・・・」と戸惑う秋葉。

鈴木は不思議そうに「秋葉先輩も観光じゃなかったんですか?」

「そうなの? 秋葉さん」と怪訝顔の栃尾。

秋葉は焦り顔で「いや・・・その・・・。栃尾君、一緒に勉強しようね」と、作り笑顔で栃尾の両手を握った。


そんな秋葉を見て鈴木は呟いた。

「もしかして、温泉巡りは本当に単なる趣味だったのかな?」

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