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おどり場の中条さん  作者: 只野透四郎
182/343

第182話 女教師斎藤千鶴

春合宿が終わり、斎藤の教員採用試験が近づく。受験勉強に追われる斎藤。

そんな中、斎藤は受験勉強の気晴らしにと、文芸部に顔を出した。

「久しぶりに様子を見に来たわよ」と斎藤。

文芸部員の面々、そして佐藤と佐竹と芦沼も居る。



「試験勉強はどうですか?」と戸田が訊ねる。

斎藤は「順調よ。強いて言えば、心配は教育法規かしら」

「倍率は高いんですよね?」と根本が心配そう。


「それに、今時の高校生とかもアレだから」と村上が笑う。

「あなた達は去年まで、その今時の高校生だったのよね?」と斎藤。

「だから心配なんですよ」と村上。


斎藤は笑って言った。

「去年の教育実習は楽しかったわよ。男子校だったから、ちょっと優しくすると・・・DKってチョロいわよね」

「DKって何だっけ?」と佐藤。

「男子高校生だろ?」と佐竹。

「俺を誘った時もそういうノリだった訳ですよね?」と村上。

「まあね。村上君、可愛かったわよ」と斎藤。



桜木が「けど、そんな事言っていられるのも二十台半ばまでですよ」

「私は永遠に二十台よ」と斎藤はしれっと言う。

根本はあきれ顔で「今21でしょうが。あと十年経ったら何歳ですか?」

「トゥエンティ・イレブンね」と斎藤はしれっと言う。

桜木は「日本語で言って下さい」



「けど若い子っていいわね。男子高校生のイケメンで将来有望な子を捕まえて卒業後に結婚するのが夢なの」と斎藤。

渋谷が「住田さんはどうするんですか?」

すると住田は「俺がいつまでも一人の女に拘ると思うか?」

「そういう事よ」と斎藤は笑った。


そして更に斎藤は「佐藤君と佐竹君も教員志望よね? まさか女子高生との恋愛とか期待してないわよね?」

佐竹は「一昨年まで男子高校生として現実の女子高生見てましたからね。あんなのに幻想持つのは馬鹿ですよ」

「一昨年まで私達が、その"あんなの"・・・だったんだけど」と芦沼が口を尖らす。

佐竹は「まあ、それはそれとして・・・ってか斎藤さんがそれ言います?」


「女はいいのよ。女教師はナース・ミニスカポリスと並ぶ大人女子三大ブランドよ」と斎藤ドヤ顔。

桜木はあきれ顔で「婦警ですよね? ミニスカポリスって何ですか? 警察の人が聞いたら怒りますよ」

「ってか三大ブランドならスチュワーデスかと」と真鍋。

斎藤は「あんなの過去の遺物よ」


「真言君はどう思う?」と秋葉が話を振る。

村上は「AVにはよく出ますけど、女教師って制服が無いですからね」

「真言君ってAVに詳しいんだ(笑)」と秋葉。

村上は焦って「ネタとしていろんな所に出て来る話題だから話に聞いてるだけだよ」



試験は七月後半だ。試験日が近づくにつれ、次第に斎藤は受験勉強のイライラが募る。

そんな中、部室に来た住田を見た戸田が「住田先輩、どうしたんですか? その瘤」

「斎藤さんの所に陣中見舞いに行ったら・・・」と困り顔の住田。

「ストレス溜まってました?」と桜木が言った。


その後日。

部室に来た住田を見た秋葉が「住田先輩、どうしたんですか、その痣」

「斎藤さんの所に陣中見舞いに行ったら・・・」と困り顔の住田。

「ストレスかなりヤバい事になってません?」と芝田が言った。


更にその後日。

部室に来た住田を見た中条が「住田先輩、どうしたんですか、その・・・」

あちこち包帯やら絆創膏やら、満身創痍の住田。

「斎藤さんの所に陣中見舞いに行ったら・・・」と困り顔の住田。



「ストレス末期症状じゃないですか。こういう時こそ彼氏がしっかり支えなきゃ」と村上が言った。

「そうなんだが、すぐヒステリー起こして、帰れとか言うんだよ」と住田は頭を抱える。

「それで帰っちやうんですか?」と戸田。

住田は「帰らないとヒステリーがもっと酷くなりそうで・・・」

「何か投げつけたりする訳か」と芝田。


「女性はそうやってストレスを発散するんですよ」と戸田がフォローを試みるが・・・。

「戸田さんってそうなの?」と鈴木。

「桜木、大変だな」と芝田。

「こんな彼女を持つ彼氏は命がけだ」と村上。


戸田は慌てて「わわ私はそんな事しないからね、勘違いしないでよね」

「そうなのか桜木?」と男子たちは口を揃えて桜木を見る。

困り顔の桜木に、戸田は言った。

「桜木君、彼女の名誉は彼氏の名誉だって解ってるわよね?」



そんな中、中条が自分の体験を語った。

「私、この大学に四人で入る時、私だけ一般推薦に落ちたんです。それで一般入試のために勉強したんですけど、辛くて。そしたら真言君がついててくれて、勉強教えてくれて、一緒に居てくれて、私、真言君の膝の上で勉強したんです。触れていると、安心するんですよね。それで頑張れたんです」

住田は中条の頭を撫でて、言った。

「なるほどね、中条さん、解ったよ。いい彼女を持ったな、村上」



住田は斎藤のアパートに行く。

住田を見て「何しに来たのよ」と毒付く斎藤を、いきなり抱きしめる住田。


「どうしたのよ、離してよ」と斎藤は抗ってみせる。

住田は「離さない。受験まで俺、ここに居る」

「こんな彼女、重荷でしょ?」と斎藤。

「それがいいんじゃないか」と住田。

「私達、あと半年で別れるのよ」と斎藤。

「今はまだ解れてない」と住田。

斎藤は「とにかく離してよ。勉強しなきゃ」

「そのために来たんだ」と住田。


住田は強引に部屋に入る。机と椅子。住田はいきなり椅子に座る。

「あなたが座ってどうするのよ」と斎藤。

「この上に座って」と自分の膝を叩く住田。

斎藤は苦笑して「どんな甘えん坊さんよ」と言って、その上に座って机に向かう。

住田は「こうすると安心するんだ。俺、斎藤さんがどうなっちゃうんだろうって不安で」

「これは私の採用試験なんだけど、あなたが不安がってどうするのよ」と斎藤。

「俺の不安は斎藤さんの不安、斎藤さんの不安は俺の不安・・・だろ?」と住田。



斎藤は落ち着きを取り戻す。そして七月。


「七夕やらない? 斎藤さんも呼んで」と秋葉が提案した。

「いいね」と部員たち。

芝田が「笹はどうする?」

真鍋が「うちの農場から取って来ますよ」と請け負う。


部室に笹を飾り、合格祈願を書いた短冊を全員で飾る。

斎藤も呼んでお菓子と飲み物を持ち寄り、宴を開く。

出だしに森沢が一席ぶつ。


「七月七日は元々は五節句という年五回の儀式の一つだった。それが織姫と彦星の説話によって、この日に空が晴れて二人が再開した時、短冊に願いを書いて祈ると願いが叶うという・・・」

「今日は雨ですけどね」と真鍋が茶々を入れる。

森沢は頭を掻いて「いいんだよ。星々が浮かんでいる大宇宙には、雨雲なんて無いんだから」

「そういうものですか?」と真鍋。


ここで渋谷が一首詠む。

「七夕の 夜降る雨は 天人の 願い成就の 嬉し涙か」



住田が乾杯の音頭をとる。

「とにかく斎藤さんの合格を祈って乾杯だ」

みんなで「乾杯」

「みんな、ありがとう。本試験、頑張るね」と斎藤は嬉しそう。


わいわいやりながら、斎藤は笹に下がった短冊を見る。

「これ、みんな私の合格を祈ってくれているのね?」と斎藤。

「そうでも無いみたいだけど・・・」と戸田。


戸田は短冊の中に異物を見つけたのだ。そして言った。

「桜木先輩と結ばれますように、だってさ」

戸田はあきれ顔で「根本さん!」

「いいじゃないですか。一つくらい」と根本が抗弁。

「桜木君は私のものなんだけど」と戸田。


森沢は笑いながら「まあ、全部同じ願いだと、織姫も彦星も読んでくれないかもね?」

「そういうものですか?」と戸田。

「じゃ、俺も」「私も」と、部員たちがそれぞれ白紙の短冊とペンを執る。

そして各自が思い思いの短冊を追加する。

そうした短冊に曰く。

「人工子宮完成」「お祖父ちゃんが長生きしますように」「童貞卒業祈願」「千人切り達成」「編集退散」


斎藤はあきれ顔で「住田君、これって私のための企画なのよね?」

「そうだけど」と住田。

「そこで私の彼氏が千人切りは無いと思うわよ。それと森沢先生」と斎藤。

「何かな?」と森沢。

「編集の催促を怖がる前に、きちんと原稿を書いた方がいいと思いますよ」と斎藤。



七月後半に一次試験。その翌月には結果が通知される。

斎藤は合格だった。


「おめでとう斎藤先輩」と部員一同、斎藤を祝福。

「まだ二次がありますけどね」と根本が水を差す。

斎藤は余裕げに「あとは面接だから。それと佐藤君と佐竹君も、二年後にはこれが来るのよ」

佐藤と佐竹は「覚悟しておきます」

そして「来年は教育実習と、他にいくつか資格のための選択授業があるわよ」と斎藤。


斎藤は中条に向き直って「ところで中条さんはどうするの?」

中条は「一般企業で事務とかは私には向いていなさそうだから、何か教職にしようかと思うんです」

「けど高校生相手に中条さんのキャラでは無理だと思う」と佐藤は心配げ。

「中学は?」と佐竹。

「もっと駄目だと思う。あそこはいじめの巣窟だぞ」と芝田。

「小学校ならどうかな?」と桜木。

「今時の小学生は殆ど動物だから、すぐ学級崩壊とかになって収集つかなくなるぞ」と村上。

すると中条は「保育園はどうかな、って思う」

「それはいいかもね」と部員たちは言った。

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