表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おどり場の中条さん  作者: 只野透四郎
181/343

第181話 七月のサプライズ

七月は村上の誕生日がある。

秋葉が学食でその話を出すと、村上は迷惑そうに「やらなくていいよ」と言った。

「何でよ」と秋葉。

村上は「漫画やアニメで誕生日を祝うのは女子キャラだろ。男子キャラの誕生日とか気持ち悪いと思わん?」

「それは自虐が過ぎると思う」と秋葉はあきれ顔で言った。



その夜、芝田と秋葉が中条の家に集合した。

「真言君、本当に誕生日、嫌なのかな?」と中条が心配顔で言う。

芝田は「いや、言葉の裏を読めって期待じゃね?」

「それにしては感情が籠ってたけど。自虐ギャグって感じじゃ無かったと思う」と秋葉。

「まあ、男子キャラの誕生日ってどーよ・・・と言うのは解らなくも無いが」と芝田。

中条は「けど、男性から見ればそうなのかもだけど、私から見れば男性の誕生日も同じだと思う。それに真言君の誕生日だし」

秋葉は「そうよね。私、やりたい。だって誕生日くらい誰かをいじり倒す絶好の機会って、そうそう無いもの」


「睦月さんって・・・」と中条はあきれ顔。

「だから村上、誕生日を嫌がる訳か」と芝田もあきれ顔。

「睦月さんとの付き合いも長いものね」と中条が笑う。

「で、どうする? 本人に言って拒否られるなら、内緒で強行してサプライズって事にしない?」と秋葉が笑う。

中条はあきれ顔で「まるで嫌がらせみたい」



仲間たちが何か企んでいる様子は村上も察知していた。

誕生日は七月前半。当日、村上は桜木に頼み込んで言った。

「一晩、泊めてくれないかな」

「誕生日回避か? まあ、いいさ」と桜木が笑う。


村上はその日の授業が終わると芝田に連絡し、桜木の部屋に泊まった。

二人が部屋で一服していると、戸田が来訪。

「もしかして、俺、邪魔か?」と村上が遠慮がちに言うと、戸田が笑った。

「村上君が来てるって聞いて、面白いから私も泊まりに来たのよ。芝田君たちの誕生日の企画から逃げてるんだって?」

「睦月さん、面白がって何するか解らんからな」と村上。

「それで男二人でお泊り会とか悲しすぎるじゃない。今度ばかりは中条さんも向こう側だし、どうせなら私達が誕生日を祝ってあげようか?」と戸田。

「勘弁してくれ」と村上。

戸田は「せめて御馳走くらいは作ってあげようと思って材料買って来たわよ。すき焼きでいい?」



三人ですき焼き鍋を囲む。ビール缶を開けてわいわいやる。

鍋が空になった所で、桜木が言った。

「お風呂、入ろうか」

「二人で入りなよ」と村上。

すると戸田は「三人で入ろうよ」

「そういうサービス精神はいらないから」と村上。

「何言ってるの。何度も一緒に温泉に入ったじゃない」と戸田。


三人で湯舟に浸かる。さすがに村上は遠慮して詰める。

「村上君のも大きくなるんだね」と戸田。

「生理現象だからな」と村上。

口ごもる村上を見て桜木が笑う。


村上が湯舟を出て体を洗うと、戸田が「背中、流してあげようか」

「さすがに遠慮する」と村上が言うと、桜木が笑って「だったら俺が背中を流すか?」

「いや、俺はホモじゃないから」と村上。


神妙な顔で戸田に背中をゴシゴシして貰う村上を見て桜木はまた笑った。

村上が湯舟に戻ると、桜木が戸田の背中を流した。



風呂から上がり、布団を二組敷いて、枕元にお菓子とジュース。三人で互いの高校時代の思い出話に花が咲く。

寝ようという事になって電気を消す。

一方の布団で戸田が桜木に甘える。


(始まったな)と、村上は微笑ましい気分で思い、目を閉じる。

すると戸田が「村上君、全然反応しないのね」

「お前等のイチャラブはもう日常になってるからな」と村上。

すると戸田は「つまんない。村上君も、こっちにおいでよ」


二人の男子に挟まれて、彼らの感触を満喫する戸田。

(悪くないな)と戸田は思った。

そして三人はそのまま寝落ちする。



翌朝、朝食を食べて三人で大学へ向かう。道すがら、戸田は村上に言った。

「もしかしてこれで切り抜けたと思ってる? けど秋葉さんの時、言ってたよね? 日をずらして週末にやる手もあるって」

「それを言い出したら、きりが無いからなぁ」と村上は言った。


大学に着き、休講を確認しようと学生課前の掲示板に行くと、秋葉が居た。

「おはよう、真言君、ホテル桜木はどうだった?」と秋葉。

「おかげ様で快適だったよ」と溜息まじりに村上が言う。

秋葉は「戸田さんの接待もあったし?」

「伝わってるのかよ」と、あきれ顔の村上。


秋葉は「真言君の誕生日も逃しちゃったし、週末は四人でプールに行かない? 春月の市民プールは大きいわよ。スライダーもあるし」

「流れる・・・ってやつか」と村上。

「まさか真言君、それも行かないとか言わないよね?」と秋葉。



日曜、四人でプールに行く。水着ではしゃぐ三人。村上も観念して、彼らと水遊びを楽しんだ。

食堂で四人で冷やし中華を食べる。

「今日は、熱いラーメンとか言わないんだな?」と言って村上は笑った。


午後は少し遊んで帰路に就く。四人を乗せた車が上坂市に向かって農道を走る。


「ここらでいいかな」と芝田が言い、車を止める。

「どうした」と怪訝顔の村上。

クラッカーを鳴らして歓声を上げる芝田・秋葉・中条。

「ハッピーバースデー村上君」と・・・。


「じゃ、そういう事で」と言って、村上は車を降りようとした。

秋葉は「どこに行くのよ。私の車から逃亡して、バスも通ってないこんな所から上坂市まで歩いて帰る気?」

「図ったのかよ」と村上。

「真言君、観念して誕生日をやろうよ」と中条が甘え事で言った。



アパートに帰ると芦沼・桜木・戸田と小島・山本・水沢が待っていた。

部屋には「村上君誕生日おめでとう」の大きな張り紙と飾り付け。


「お、準備が終わってるな」と満足げな芝田。

村上はあきれ顔で「お前等も来たのかよ。しかも小島達まで」

「発案したの、山本君だから」と中条が楽しそうにに言う。

山本が笑いながら「この前、芝田に会ってさ、お前が誕生日から逃げてるとか、面白過ぎる話を聞いてな」

水沢も「小島君が編入試験で勉強に追われてるから、息抜きも兼ねてね」

戸田も「誕生日から逃げおおせるとか甘いって言ったわよね?」

村上は溜息をつくと「もう、どうにでもしてくれ」


村上は三角帽子をかぶらされ、パーティグッズの鼻眼鏡を付けさせられて上座に座らされた。

そして馬鹿騒ぎが始まる。



秋葉手焼きのケーキにローソクを20本立てて、ハッピーバースデーを歌い、村上が吹き消す。

「それじゃ、プレゼントタイムだな」

次々にプレゼントの小箱を村上に渡す彼ら。

全員、中身はマグカップだ。

「お前等、示し合わせただろ」と村上の溜息。

全員で「何の事かなぁ」としらばっくれる。


「とにかく食べようよ」と秋葉は言うと、村上に手錠をかけた。

「ちょっと、睦月さん」

「私達が食べさせてあげる」

中条と秋葉が村上の両側に陣取って、交代で"あーん"をやる。



「嫁が二人居るみたい」と戸田が笑う。

「っていうか秋葉さんが嫁で中条さんは娘?」と小島が囃す。

秋葉は「それ、いいわね。真言君、一生ついていくわ」

中条は「お父さん大好き」

芝田は「村上君、娘は任せた。泣かせるような事があったら殺すからね」

嫌な予感に村上は「何の小芝居だよ?」と慌てる。


そこに芦沼が「ちょっと待ってよ。村上君は私のものよ」

「出たわね、泥棒猫。私には彼との間に子供が居るのよ」と秋葉が対抗。

中条が「お父さんを取らないで下さい」


芦沼は負けずに「私には彼との子供が二人居るのよ」

水沢が「パパ、その人誰?」

山本が「親父は俺達の親父だよな?」

小島が「村上君、私の娘を弄んだのかね?」

「だから何の小芝居だよ? これは」と村上はさらに焦る。


そこに桜木が「君が村上君だね? 重婚罪で告発状が出ているのだが」

戸田が「当法廷は告発を受理します。被告人村上真言、証言を」

秋葉が「真言君、誰を選ぶの?」

芦沼が「私を選んでくれるわよね?」

全員で「村上君!」



村上、自棄になって「あーもう解ったよ」と声を上げた。

そして中条の手を取って「里子ちゃん、一緒に逃げよう」

中条は「お父さん」

村上は「俺は残りの人生を娘に捧げる」

すると水沢が「ねえねえパパ、私だって娘なんだけど」

山本が「俺だって居るぞ」

「そうだな。里子はこの二人と仲良く暮らせるかい?」と村上。

中条は「私、弟と妹が欲しかったの」

「そうか。四人でどこかでひっそり暮らそう。この子たちは俺の命だ」と村上は言った。



「結局、大人女子の嫁より幼い娘を選んだ訳ね?」と秋葉が笑う。

「やっぱり村上君ってロリコン?」と芦沼が笑う。

小島は村上の手を取り「同志よ。共に世間の抑圧に立ち向かおうぞ」

村上は慌てて「いや、里子ちゃんは・・・」

「小さいし、童顔だし、貧乳だし」と戸田。

「やっぱりロリコンじゃん」と芝田が笑う。


それに対して村上は「俺は小さくて貧乳だからじゃなくて、里子ちゃんだから好きなんだが。芝田だってそーだろーがよ」

それを言われると芝田は反論に窮し、言った。

「まあ、そうだな。俺達は小さくて貧乳だからじゃなくて里子だから好きなんだ」

桜木は笑いながら「芝田を道連れにして、この場を切り抜けたか」



改めて席につき。ご馳走を食べながらわいわいやる。


そんな中で水沢は隣に居る山本に言った。

「山本君は小さくて貧乳だからじゃなくて、小依だから好きなんだよね?」

「当たり前だ。ってか元々俺はガキは嫌いだ」と山本。


そして水沢は反対側に居る小島に「小島君は小依が好き?」

「俺は小依たんのためなら死ねる。キリッ」と小島。

「それは小依が小さくて貧乳だから?」と水沢。

小島は「それは・・・」


水沢はそっと小島に耳打ちした。

「小島君、まだ小依に手を出す気、無い?」

「そ、それは・・・」と小島はまごつく。


水沢は再び山本の方を向くと「で、さっき山本君、小依のこと好きって言ったよね?」

「いや、言って無いぞ」と慌てる山本。

水沢は「けど、小依だから好きなんだよね? って言ったら、当たり前だって言ったよ」

「それは・・・」と山本はまごつく。

「山本君、ちゃんと言ってよ」と水沢。

「ほら、水沢、さっさと食べないと、ご馳走無くなるぞ」と山本は誤魔化しに走る。

「山本君ってば」と水沢。

山本は「ほら、あーん」

水沢は「わーい」



宴が終わり、参加者たちが帰宅した。

アパートには村上達四人と芦沼。


「あー疲れた。あの小芝居の台本書いたの、誰だよ」と村上が愚痴る。

「途中までは桜木君だけど、後はアドリブ」と秋葉が言う。

そして芦沼が「それより、お風呂に入ろうよ。全員で」

「狭いだろ」と村上。

芦沼は「一人が体洗って、もう一人は背中流すから、湯舟に居るのは常時三人よ」と言って笑った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ