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おどり場の中条さん  作者: 只野透四郎
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第180話 マトリューシカの迷宮

人類は滅亡した。地球温暖化により海面が上昇し、全ての陸地は水没した。残されたのは箱舟に乗った数人の女性達だけ。


彼女達のリーダーは、生き残った女性たちに語った。

「この世界が滅んだのは、戦争を繰り返し、環境を破壊した男性の愚かさの結果なの。だから生き残った私達が、新たな人類として女性だけの文明を再建するのよ」

聞いていた女性の一人が疑問を挟んで言った。

「けど友代ちゃん、女性だけで次世代は作れないよ?」

「芦沼さんが残してくれた人工子宮があるわ」とリーダーが言った。

「いや、母胎はあるのよ。けど男性が居ないと・・・」と女性が言った。

「人工授精があるじゃない?」とリーダー。

「その授精に必要な精子はどうするの?」と別の女性。

「PS細胞は髪の毛からでも作れるわ。クローニングは可能な筈よ」とリーダー。

「その技術が失われたんだけど」と、更に別の女性。

リーダーは「大丈夫、この子が居るわ。最後の男性として、母乳を飲んで早く大きくなるのよ」


「できるかよ!」と・・・。

その"この子"と指さされた男子学生、佐竹俊行が、自分を取り巻く生き残った女子小学生たちに、あきれ顔で文句を述べる。


女子小学生たちのリーダー、佐竹友代は兄の不平を却下して言った。

「いや、そういう抵抗は止めてよ、兄ちゃん」

「大学生が赤ん坊の恰好で女子小学生の平な胸に吸い付くとか、どんな変態プレイだよ。怖すぎだ。自分でやっててドン引きだぞ」と佐竹。

「平な胸で悪かったわね。すぐ秋葉さんみたいに大きくなるし」と佐竹妹。

「そういう問題じゃなくてだな」と佐竹。

「ロリ美少女の胸をチュパチュパは男のロマンでしょ?」と佐竹妹。

「自分で美少女とか言ってるし。ってか、それはロマンじゃなくて、ただの変態だ。そもそも何だこの設定は」と佐竹。


「定番でしょ?」と佐竹妹。

「南極の氷が全部溶けて海面が上昇したから全ての陸地が水没だぁ? チベットはどうなる。あそこの標高が何メートルあると思ってるんだ」と佐竹。

「だからそこに移住して・・・」と佐竹妹。

「そこに居る人達も含めて全滅したんじゃ無かったのか?」と佐竹。

「あそこは大寒波で氷に覆われて全滅したの」と佐竹妹。

「地球温暖化はどうした?」と佐竹。

「細かい事はいいの」と佐竹妹。

「で、あそこに移住したとして、お前等、農業の知識はあるのか?」と佐竹。


「それは農業マスターの、この渋谷美乃梨にお任せよ」と、背後に控えていた渋谷が言った。

「病気になったらどーする?」と佐竹。

「この万能ナースの篠田薫子の医学知識が火を噴くわよ」と、背後に控えていた篠田が言った。

「篠田さん、注射打てるようになったの?」と佐竹。

「あと50人くらい練習すれば大丈夫よ」と篠田。

「ここには十人くらいしか居ないが?」と佐竹。

「細かい事はいいの」と篠田。


「そもそも女性だけの文明とか、俺が居る時点でその設定破綻してるぞ」と佐竹。

「女性が支配する世界なの。お兄ちゃんは奴隷よ」と佐竹妹。

「何だよその凶悪なディストピアは。ってかさっき、しれっと恐ろしい台詞言ってなかったか? 愚かな男性って何だよ。ウーマニズム怖すぎだ」と佐竹。

佐竹妹は「監督、お兄ちゃんがゴネてるんだけど、何とかしてよ」と、背後に構えている監督に訴える。



「しょうがないわね。佐竹君、ちゃんとやってよ」とメガホンを手に持つ杉原監督が佐竹に苦言。

「杉原さん、何だよこの芝居は」と佐竹。

「福祉課で企画した子供向けの劇だけど」と杉原。

「そこでウーマニズムの洗脳宣伝かよ。突っ込み所満載なんだが」と佐竹。

「風刺は社会批判の定番よ」と杉原。

「どう見ても風刺されてるのはウーマニズムの方だぞ。そもそもロリ幼女の胸をチュパチュパって、児童ポルノだろ。役所がそういう劇企画するって、どーなん? しかもそれを子供向けで? むしろ教育的に却下な代物だと思うけど?」と佐竹。



「とまあ、こんな話を書いてみたんだが」

八木が書き終えた原稿を手に、そう言ってドヤ顔を見せた。

藤河の家で執筆中の漫画を手に、あれこれ言う八木と藤河。


藤河があきれ顔で言った。

「女子小学生が大勢出て来るギャグ漫画って訳ね? けど八木君、全部知り合いが実名で出てるんだけど」と藤河。

「知ってる奴のイメージで書いたからな。名前は後で変えるけど、それより重大な問題があるんだ」と八木。

「何よ」と八木。

「佐竹がうまく書けない」と、八木は頭を掻いた。


「ちゃんと練習したの? 男性キャラの書き方教えたわよね?」

「どうしても顔も体形も女みたいになるんだよ」と八木。

藤河は「もう女顔でいいんじゃない?」

「イメージしてる本人と似ない」と八木はなお困り顔。

「名前は後で変えるんじゃなかったっけ?」

「けどさぁ」と八木。


藤河は溜息をついて、言った。

「しょうがないわね。もっと上手な人に頼もうかしら。マッキーお願い」

「何でここに村上が出て来るんだ?」と怪訝顔の八木。

「マッキーは美術大漫研の同期の蒔田君よ」と藤河。


蒔田登場。

「よろしく、八木君。藤河さんに頼まれて、男性キャラの書き方の手ほどきに来た」と蒔田。

八木は「書き方は藤河さんから聞いたんですけど」

「もっと大事な事があるんだ」と蒔田は八木の手を取って、迫り加減で言う。

八木はたじろぎつつ「何ですか?」


蒔田は舞い散る薔薇の花びらを背に、八木に迫る。

「君が女性を書くのが上手いのは、女性キャラに対する愛があるからだよね?」と蒔田。

「そうですけど」と八木。

「つまり君に足りないのは男性キャラへの愛なのさ」と蒔田。

「いや、必要なのはそういう愛じゃないと思うんだが」と八木は後ずさり。

蒔田は言った。

「常識を捨てる事で初めて人は限界を超えるんだ。さあ飛び出そう、めくるめく同性愛の世界へ」



「とまあ、こんな話を書いてみたんだけど」

藤河が書き終えた原稿を手に、ドヤ顔を見せた。

八木の家で執筆中の漫画を手に、あれこれ言う八木と藤河。


八木が迷惑顔で愚痴を言った。

「藤河さん、いい加減、俺をネタにBL書くの、止めてよ」

「いいじゃない。芸術のためよ」と自信顔の藤河。

「単なる藤河さんの趣味だろ」と八木が突っ込む。

「村上君だって芝田君だって、快くモデルになってくれたじゃない」と藤河。

「いや、モデル扱いは止めろって散々言われたよね? 藤河さんって、都合の悪い事はすぐスルーする性質でしょ?」と八木は言った。

「さぁ、何の事かなぁ?」と藤河。



文芸部の面々は読み終えた原稿を置いた。

文芸部での論評会で、中条が書いた短編小説が俎上に載っている。

笑う者、考え込む者。

「どうかな・・・」と中条が不安顔で言う。


「要するに、所謂楽屋オチって奴だね?」と桜木が笑う。

「読み進めていた物語が、実は誰かが創作した劇の場面と・・・」と戸田。

「で、その劇を作った人の居る現実の世界へ続くと思わせて、実はそれも誰かが創作した漫画の世界だったと」と秋葉。

「夢が醒めたらまた夢だった、って話に似てますよね」と真鍋。

「で、これって何時まで繰り返すんだろう・・・って」と根本。


森沢が笑って言った。

「マトリューシカ人形みたいなものだね。人形の中から人形が出てきて、その中からまた人形」

それを聞いてみんなが笑う中、ふと村上の表情が疑問を帯びた。

「けどさ、だとすると、俺達がこうして、この里子ちゃんの小説を読んで話しているこの世界も、実は誰かの創作物で、この後、その誰かが居る世界の話に・・・なんて事になるのかな?」

みんなの笑いが止まる。そして桜木がぽつりと言った。

「まさか・・・ね」

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