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おどり場の中条さん  作者: 只野透四郎
170/343

第170話 ハッピーバースデー中条さん

四月半ばに中条の誕生日がある。四人で祝おうと村上達が企画した。

そんな話題を、中条が自宅で夕食時に振る。

「真言君たちが誕生日を開いてくれるの」と中条は祖父に言った。

祖父は言った。

「良かったね。私も里子の誕生日を満足にしてあげられなかったからなぁ。私も長くない。あと何回、孫の誕生日を迎える事ができるだろう」

「お祖父ちゃん・・・」と中条は祖父を見て呟く。



翌日、中条は大学に行く車の中で、その話を出した。

「誕生日なんだけど、お祖父ちゃんも一緒に、って出来ないかな?」

秋葉が「恋人のイベントとしてじゃなくて?」

「お祖父ちゃんにとっては私はまだ孫なの」と中条。


「だったら里子ちゃんの家でやったらどうかな?」と村上が提案。

「だったら他の奴等も呼ぼうか?」と芝田が提案。

「マグカップが大量に溜まるな」と村上が笑う。

芝田は「いや、マグカップから離れろよ」


中条は「呼ぶって、プレゼントを催促するみたいで、ちょっとな」

「里子ちゃんが気にする事じゃないよ」と村上。

「けど、お祖父ちゃんは気を遣うかも。プレゼントは無しって事に出来ない?」と中条は言った。



文芸部の部室で、その話が出る。

桜木が怪訝そうに「プレゼントは無しで?」

「言葉の裏を読めって事よね? 解ったわ。期待してね」と戸田が笑う。

「そうじゃなくて、戸棚がマグカップだらけになるのは、ちょっと・・・って」と中条。

戸田はあきれ顔で「要するに、今までプレゼントは毎度マグカップで済ませて来たって訳ね? 恋人たちのイベントを何だと思ってるのかしら」


「ケーキは私が手焼きを用意するわ」と秋葉。

「みんなで御馳走を食べてパーッと騒げばいいんだよ」と芝田。

「フライドチキンでも七面鳥の丸焼きでも買って」と村上。

「飾り付けの樅の木を」と芝田。

「だからクリスマスじゃないってば」と戸田があきれ顔で言う。



そして当日。


参加者は中条本人と祖父の他、村上達3人と桜木・戸田・佐藤・佐竹・芦沼。

感激で目をうるませる中条祖父は言った。

「ありがとうございます。こんなに大勢で孫の誕生日を祝える日が来ようとは。これで私も心置きなく・・・」

「お祖父ちゃん、そんな事言っちゃ駄目」と中条が祖父に縋る。

村上も「そうですよ。来年も再来年も、こうして一緒に祝うんだから」


そして佐藤が「中条さん、俺からのプレゼント」

村上が慌てて「いや、プレゼントは無しって」

「そうなの?」と佐藤と佐竹。

桜木が、しまった・・・という顔で「伝えるのを忘れてた」

「まあ、いいじゃん。せっかく買ったんだし」と秋葉が笑った。


包みを開けると、マグカップだった。

「結局それな」と芝田も村上も笑う。

佐竹は心配そうに「俺もマグカップなんだが、駄目だった?」

芝田が笑って「そうじゃないんだが、何かでプレゼントって言うとみんな、毎度マグカップなんだよ」

「つまり他に何か考えろと?」と佐藤。


その時、桜木が思い出したように言った。

「けど去年の俺の誕生日で戸田さんから貰ったのもマグカップだったが」

戸田はバツが悪そうに「そうだっけ?」



残念な空気をかき消すように、芝田が言った。

「とにかく、ケーキ切ろうよ」

秋葉も「で、ハッピーバースデー歌って」

村上も「それから蝋燭を立てて火をつける」

「順序が逆だろ?」と佐竹が指摘。

「そーだった、先ずローソクを立てて」と村上。


だが、芦沼が残念そうに「あの、ケーキ切っちゃったんだけど」


10切れに切ったケーキに二本づつローソクを立てて火を点け、ハッピーバースデーを歌う。

「ハッピーバースデートゥーユー、ハッピーバースデートゥーユー、ハッピーバースデーディア・・・」で歌が途切れる。

村上が「呼び方、どう統一するんだっけ?」



歌い終えてローソクの火を消す。

桜木が「中条さん、二十歳の誕生日おめでとう」

村上が「里子ちゃんに乾杯」

全員でビールを開ける。


「二十歳って事はついに成人だ」と芝田が気勢を上げる。

すると佐竹が思い出したように「って事は今まで成人じゃなかったんだが、俺達が飲んでるこれは何だっけ?」

「お酒ですが何か?」と村上。

「お酒は二十歳になってから・・・だったよね?」と佐竹。

「いや、中条さんは今日こうして二十歳になったんだよ」と佐藤。


戸田が残念そうに「今までは非合法だった訳だ」

芝田は気を取り直そうと「過去の事はいいんだよ。未来志向で行こうぜ」

だが村上は「けど、俺達全員里子ちゃんより誕生日が遅いぞ。つまり里子ちゃん以外は全員非合法って・・・いや、止そう。それは言わない約束だ」

「いいのか? それで」と全員呟く。



問題を有耶無耶にしてケーキを食べる。

「けど、十人も居ると、ケーキもあっという間だな」と芝田が言い出す。

「食べ足りない」と他の男子たちも・・・。

「そう思って、俺からの持ち込み」と村上。


村上が菓子箱の包みを開けて解説する。

「ショコラ大福だ。睦月さんの誕生日で駄目出し喰らった奴」

秋葉はバツが悪そうに「いや、あの時はプレゼントがこれだから・・・って」

「まあまあ、俺からはこれだ」と芝田も菓子箱の包みを開ける。

「桜餅だ」と秋葉。

中条が嬉しそうに「水沢さんがクリスマスで持ってきたものだよね?」

「この間山本達と遊んだ時に水沢さんが持ってきた。美味かったんで売ってる所を教えてもらった」

「クリスマスというより雛祭りだな」と桜木が笑う。

「あの人は年中雛祭りみたいなものだから」と秋葉が笑う。


桜木も包みを開けて「俺からはこれ。七面鳥の丸焼き」

「本当に持ってきたのかよ」と芝田。

「だからそれはクリスマスだってば」と村上。


芦沼も包みを開けて「私はこれ、スッポン鍋のセットよ。精力付くわよ」

「精力つけてどうする気だよ」と佐竹が笑った。

それを受けて秋葉が「じゃ、鍋の用意するわね」



本格的な宴になる。秋葉と戸田が作った料理が並び、ビールが注がれる。

飲み食いしながら、わいわいやる。

主役をそっちのけに中条祖父に酒をつぎまくる秋葉と芦沼。中条は村上と芝田に、佐藤と佐竹に甘える。

そして夜が更ける。



酔って眠った中条祖父の部屋に布団を敷いて寝かせ、食器を洗って宴会の後片付けを終える。

中条が「みんな泊まっていくよね?」

「この人数で?」と桜木。

「命日の時は畳部屋で七人で寝たけどね」と村上。

「まさか七Pとか」と桜木。

「命日の夜にそんな不謹慎な事はしなかったぞ」と芝田。

「けど今度は九人よ」と戸田。


中条が「隣の私の部屋にベットがあるから、二人そこで寝られるよ」

「誰よその仲間外れカップルは」と芦沼。

全員の視線が戸田と桜木に集中。

躊躇する戸田に秋葉が「それとも混ざって九Pやる?」


戸田と桜木がベットの部屋に向かう。

「で、本当にやるの?」と秋葉が、男子達がどう反応するか興味津々といった表情で言った。

芝田はあきれ顔で「各布団で雰囲気次第だろ」

布団を三組敷き、中条と村上、芝田と秋葉、芦沼と佐藤と佐竹で布団に入った。

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