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おどり場の中条さん  作者: 只野透四郎
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第168話 憧れの桜木先輩

文芸部に入部した根本は、桜木の回りをうろうろし、あからさまにアピールし始めた。


そんな根本を戸田が牽制して、言う。

「桜木君は私の彼だからね」

根本は負けずに「男性は若い女の子の方がいいんですよ」

「若いったって1年しか違わないじゃない」とあきれ顔の戸田。

「大人になる前の1年は大きいですよ」と根本。

「大学生は大人です」と戸田。



間もなく根本は桜木に告白した。

だが桜木は「悪いけど、俺、好きな子が居るんだ」


振られはしたが、根本は桜木を諦めなかった。

そして斎藤に相談する。

「桜木先輩に告白したら、好きな子が居るって言ったんですよ。付き合ってる人が・・・じゃなくて好きな子・・・ですよ。戸田先輩と付き合ってる人が言う"好きな子"って戸田さんと別人って事ですよね?」と根本。

斎藤はそれに答えて「それ多分、中条さんの事よ」

「だって中条先輩は、村上先輩と付き合ってるじゃないですか?」と根本。

「だから戸田さんと付き合ってるって事になるのかしらね? 好きな人が居て、付き合ってる人が居て、あなたの入る隙間は無いって事になるわね」と斎藤。

「けど、"本当に好きな人と違う人"と、こうして付き合ってるって事は、"本当に好きな人じゃない私"と付き合う可能性だってあるって事ですよね?」と根本。

斎藤はあきれ顔で「あなた、言ってて悲しくならない?」



根本は桜木を追いかける一方で、同期で同性の渋谷と「女どうしのお友達」の関係を求めた。

30分に一度づつ渋谷にメールを送り、毎日のようにショッピングモールを連れ歩いた。

そんな後輩の様子を、村上と芝田は学食で佐藤達を相手に、面白おかしく解説する。


「そーいや上坂の漫研であったなぁ。女どうしのキャッキャウフフ求めてお友達やった挙句、相手の趣味に引っ張り込まれて力尽きたって」と芝田。

「漫研に居たって鈴木って新入生だろ? 彼が女同士の?」と怪訝な表情の佐藤。

「いや、鈴木は男だから。奴より一個下の秋谷さんって子でね。同期の女子が居ないんで先輩女子頼ったんだが、その人がオカルト趣味でさ」と村上が解説を続ける。

「けど渋谷って子にオカルト趣味なんて無いんだよね?」と佐竹。

「オカルトはね」と村上。



週末に渋谷は根本を体験農場に誘い、虫が苦手な根本は一発で懲りた。

翌週の部室で愚痴を言う根本。愚痴を聞かされる先輩たち。


「それで渋谷さんと絶交?」とあきれ顔の戸田。

「もう信じらんない。女の子に青虫を生指で触れって言うんですよ」と根本。

「そんなに嫌なものですか?」と渋谷が怪訝顔。

桜木は「嫌な人は嫌だろうね。まあ普通の女の子の付き合い方ってあるだろ。お泊り会とかさ」

それを聞いて渋谷は「根本さん、うちでお泊り会、する?」

「行く」と根本は嬉しそうに答えた。



そして翌週。部室で根本は憤懣やる方無いといった感じで、お泊り会に関する愚痴を垂れた。

「もう信じらんない。部屋にナメクジが出るんですよ」と根本。

「それはきついな」と桜木が笑う。

渋谷が残念そうな顔で説明する。

「鉢植えでトマトを育ててたら、中に潜んでたのが這い出してきたんですよ」

「部屋で花ってのはあるけど野菜はなぁ」と村上。

「花の鉢植えからも這い出すけどね」と秋葉。

「部屋でトマトを栽培って、昔流行ってたって聞きましたけど」と渋谷。

そう不満顔で言う渋谷に、村上が説明した。

「それはトマトブックって奴だよ。あれは水耕栽培のセットで土を使わないから、そんなのは出ないよ」



根本は一年なので、必修の講義は多い。

文学部でクラスの人と一緒の必修授業の後、女子達の雑談でサークルに関する話題が出る。


「根本さん、文芸部に入ったんだって?」と一人の女子が言った。

別の女子が「かっこいい先輩が居るのよね?」

「桜木先輩の事?」と根本。

「部長さん、桜木っていうの?」と、その女子が言う。

「桜木さんって地味な人だよ。かっこいい部長は住田さん」と、別の女子が口を挟む。

そして「あの人ってどんな小説書くの?」・・・と。

根本は「小説は書かないわよ。書くのは評論」と説明する。

「何の?」とさらに別の女子。

「哲学とか」と根本。

「尊敬しちゃうなぁ。今度紹介してよ」と、その女子が言った。

根本は「止めておいた方がいいよ。あの人、ヤリチンだから」



その日の部活で、森沢講師が来る。新入生にとっては初めてだ。

新入生が自己紹介。


森沢が一年生たちに「作品を書いてる人は居るかい?」

「俺、持ってきました」と鈴木が冊子を出す。

それを読む森沢。

「他の人が書いた小説を漫画にした訳か。原作は桜木君だね?」

鈴木は「はい」と一言。


森沢は言った。

「漫画は視覚で表現する部分が大きいから、小説では言葉による想像力で表現していたものを、視覚的に直接理解する事が容易になる。また感情を言葉で直接現すより、表情で察する事になる。理解の楽しみ方の違いだね。けれども文字で書き込む部分もあるから、複数の感覚を動員する事で、より作品世界に没入できる。小説でもその影響を受けて、情景描写を多くする人も最近多いようだね。ただ、その物語の進展に必要な情報ばかりではない。サクサク進みたい人には、かったるかったりするかもね。個人の好みの問題だね。自分でストーリーを考えた作品はあるかい?」


「あるんですが・・・」と鈴木は別の冊子を出して、森沢に見せた。

森沢はそれを読むと「他の人から色々言われた?」

鈴木は「はい」と一言。



「これ、私が以前に書いたものです」と根本がコピーの束を出した。

それを読むと、森沢は言った。

「もしかして桜木君の作品の影響受けた?」

「私、ポトマックさんの小説読んで、書くようになりました」と根本。


みんなで根本の作品を読む。



ある引き籠りの女の子が死んで、神が別の世界に転生させてあげようと言った。

転生先の世界を示され、そこでのいくつかの転生人物候補が示されたが、示された世界は彼女が散々やった乙女ゲームとそっくりだった。

神が言うには、あのゲームの作者はその世界からの転生者で、朧気に残っていた前世の記憶を頼りにゲームのシナリオを描いたのだという。

女の子は主人公キャラではなく、悪役令嬢の付き人の女性への転生を希望した。付き人は実はS的嗜好があり、令嬢が破滅した後、自分を虐待した令嬢に復讐するため、彼女を奴隷として扱う運命にあった。

だが女の子は神の手違いで、付き人の女性ではなく、令嬢本人に転生してしまう。

心を入れ替えて運命を変えようと必死に努力するものの、周囲に甘やかされてついつい地を出してしまう令嬢。

また、付き人女性が復讐心を持たないよう優しく接しようとするが、付き人は優しくするとすぐ調子に乗るため、ついついきつく当たってしまう。

やがて付き人はゲームで攻略対象だったヒロメンの王子を好きになってしまい、ゲーム本来の主人公だった美少女を妨害しようとして、令嬢を悪事に巻き込む。

ついに二人とも破滅し、仲良く追放されて、喧嘩しながらの辺境暮らしとなる。



読み終えると森沢は苦笑し、頭を掻きながら言った。

「面白いと思うよ。理性で自分を律しようとしても、人には性分ってものがあるからね。そういうのがよく出ている」

桜木も「確かに笑えるんだが・・・」


根本は得意げに言った。

「こういう、自業自得で落ちていく人の姿を見るのって、楽しいじゃないですか」

聞いていた部員たちは一様に思った。

(怖ぇーーーーー)

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