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おどり場の中条さん  作者: 只野透四郎
161/343

第161話 友達100人出来るかな?

一月末、後期試験がある。それが終わると春休みだ。

各授業の教官がそれぞれの授業を締めくくる最後の講義に工夫を凝らす。

そしてレポート提出、もしくは筆記試験だ。



試験が終わると中条の兄の墓参り。中条の祖父と村上達四人、そして佐藤・佐竹・芦沼が参加した。

雪の残る墓地を八人で歩く。墓石の並ぶ中に小型の墓石と小さな石地蔵。花を供えて蝋燭と線香に火をともし、八人で合掌。

手を合わせながら、中条は呟いた。

「お兄ちゃん。私、こんなにお友達ができたの。もう大丈夫だよ」



本堂で八人、本尊の前で手を合わせ、賽銭箱に小銭を投げる。

中条家に戻って仏壇の蝋燭とお線香に火をともす。


二つ並ぶ写真を見て、芦沼が言った。

「あの小さい男の子がお兄さん?」

「こっちのおっさんじゃないよね?」と佐藤が言う。

「当たり前だ」と芝田。

「里子ちゃんが小さいころに亡くなったからね」と村上。

それを見て芦沼が一言「可愛い」

「芦沼さん、涎が出てるよ」と佐竹。


慌てて口元を拭うと芦沼は怖い事を言い出す。

「今夜あたり、夢枕に立ったりしないかなぁ」

村上はあきれ声で「勘弁してよ」

芦沼は「あの世で一人で寂しいから、お姉さん、慰めてよ・・・なーんて」

「大丈夫だよ。お兄ちゃん、向こうの世界で妹みたいな小さな子と暮らしてるの」と中条。

「何の話?」と芦沼。

村上が「高校一年の時の夏祭りで、見たって言うんだよ」



中条祖父が昔を語り出す。

「里子がまだ小さい頃、随分と兄に懐いてましてね、いつも後ろをついていくような子でしたから、小学校に入る直前に事故で亡くなった時は、大変でしたよ」

「それで外で人と話せなくなっちゃって、今は真言君達のおかげで、こうして話せているの」と中条が村上の左腕を握って言った。

中条祖父は孫に「最近はあの夢、見なくなったんだよね?」

「蛇の夢?」と芝田。

村上は芝田に「そうじゃないだろ」



中条が語る。

「お葬式の時の夢でね、親戚の人が大勢来てるの。それで親戚の人達、話してるの。この子、小学校に行けなかったね、そういえば里子ちゃん、お兄ちゃんが小学校に行くの、嫌だって泣いてたよね・・・って」

「そんな事・・・」と佐藤が唖然。

中条は続けて「里子ちゃんの言う通りになったね、この子が死んだのって、里子ちゃんのせいじゃないのか・・・って」


「小さい子の前でそんな事言う親戚が居るの?」と芦沼唖然。

「酷すぎるよ」と芝田。

佐竹と佐藤は「俺達がぶっ飛ばしてやる」と息巻いた。

中条祖父は慌てて「いや、あの頃から葬式に来てくれる親戚なんか居なかったんですけどね」

「なーんだ」と芦沼。

「いや、だから夢だって。早とちりだなぁ」と佐竹。

「あんただって、ぶっ飛ばしてやるとか息巻いてたでしょーが」と芦沼。


「けど、それって、里子ちゃんの中に、そんな思い込みがあったって事なんだよね」と村上が悲しそうに言った。

「そんなふうに自分を責めてたのかよ」と佐藤。

「自動言語って奴ね。無意味な妄想で自分を責めちゃう思考が勝手に・・・って。ああいうのって厄介だから」と秋葉。

「けど、痛々し過ぎるよ。そんな事で自分を責めなくていいのに」と佐竹。


「それで、芝田君は、自分がお兄さんの代わりになってやるとか言い出した訳ね?」と芦沼。

「それはそれで痛々しいな」と佐竹が笑う。

「悪かったな、痛々しくて」と芝田は憤慨した。



「それでお前等、今日は泊まって行く?」と村上

「秘密基地にか? いいね」と佐竹

「それでまた7Pね」と芦沼。

「それはちよっと」と佐藤と佐竹が尻込み。


中条祖父は笑いながら「出来ればまた、うちに泊まって貰えませんか?」

「そうだよね。里子も命日の夜に外泊ってのも」と芝田。

「あの2階の畳部屋で?」と芦沼。

「私も今日はそっちで寝たい」と中条。

「7人でパジャマパーティーかぁ。いいね」と秋葉。


秋葉が「じゃ、私、夕食作ります」

だが中条祖父は「いや、今日は私に御馳走させて下さい」

「お祖父さん、料理できるの?」と芦沼。

中条は「ご飯はずっとお祖父ちゃんが作ってくれてたの」と、祖父の左腕を握って言った。



祖父が楽しそうに台所仕事をする間、7人が居間でわいわいやる。

芦沼が「何だか心苦しいわね」

秋葉が「女子力が疼くというか」

「そういうアピールは要らないから」と村上は苦笑した。


夕食となり、居間のテーブルに御馳走が並ぶ。

「豪勢ですね」と佐藤。

「海老天に卵焼きに昆布巻きに黒豆に田作り」と佐竹。

「おせち料理みたい」と芦沼が言った。


「そーいや2年のクリスマスの持ち寄りで里子ちゃんが持ってきたのも、こんなのだっけ」と秋葉が笑う。

「クリスマスにおせち?」と佐藤が怪訝そう。

「私の妻も娘も、炊事には私に手出しさせなかったんですが、暮れにおせちを作る時だけは手伝わされましてね。それで憶えさせられて、今でも御馳走を作ろうとすると、こうなっちゃうんですよ」と言って中条祖父は頭を掻いた。



食事が終わってしばらく居間でわいわいやる。祖父が中条が小さいころの思い出話を語る。

やがて彼らは2階に引き上げ、畳部屋に布団を敷いて、お菓子とジュースを枕元にわいわいやる。

そろそろ寝ようという事になる。


二階の畳部屋で布団を敷くと、芦沼はノリノリで「じゃ、7P行ってみようか」

「今日くらいは止めないか?」と芝田が言った。

「えーっ? つまんないよ」と芦沼。

「里子ちゃんのお兄さんが枕元に立つのを待つんでしょ? 相手は保育園児だぞ。そんな事やった後じゃ、出て来れないよ」と村上が言った。


そんな中、中条は嬉しそうに、ぽつりと言った。

「お兄ちゃんも小学校に上がったら、こんな友達がいっぱい出来たんだろうな」

「またそんな事を」と言う秋葉に、中条は続けた。

「そうじゃないの、ただ、そんな友達に囲まれるお兄ちゃん、見てみたかったな・・・って」

「友達100人出来るかな、って奴だな?」と佐藤。

「まあ100人も要らないけどね」と芝田。

そして村上が「だったら、俺達がその友達だ。俺達は里子ちゃんの友達なんだから、里子ちゃんのお兄さんも友達だろ?」



その夜、中条は夢を見た。


桜が満開の小学校で入学式。一年生の教室でクラスメートの自己紹介。

どこからか歌が聞こえる。

「一年生になったら、一年生になったら、友達100人できるかな」


見覚えのある男の子に順番が回って来る。

「僕、中条祐一です」

お兄ちゃんだ・・・と中条はすぐ気付いた。


ホームルームが終わって他の子が祐一の回りに集まってくる。

二人の男児が自己紹介。

「俺、佐藤」

「俺、佐竹」

「お前等、オナ園か?」と、芝田と名乗る男児。

「私、芦沼だけど、祐一君って妹いるでしょ?」と女児が言う。

「そうだけど、何で解ったの?」と幼い中条兄。

「雰囲気がお兄ちゃんって感じがするの」と芦沼を名乗る女児。


「俺、こいつとオナ園だけど、里子ちゃんって言うんだ。可愛いぞ」と、村上と名乗る男児。

「言っとくが村上、里子ちゃんは大きくなったら俺のお嫁さんになるって言ったんだぞ」と幼い芝田。

「いや、芝田。里子ちゃんは俺のお嫁さんになるって言ったよ」と幼い村上。

「どっちでもいいじゃん」と幼い芦沼。


「祐一君から見ても里子ちゃんって可愛い?」と、秋葉を名乗る女児。

「可愛いよ」と幼い中条兄。

「いいなぁ」と幼い秋葉。

「秋葉お前、小一にして百合趣味かよ」と幼い芝田。

「違うわよ、祐一君みたいなお兄ちゃんが居たらいいなぁって言ってるの」と幼い秋葉。


「お前、中条の事が好きなのかよ」と幼い芝田。

「あんたより百万倍マシ」と幼い秋葉。

「言ってろ」と幼い芝田。

「学校が終わったら紹介するよ」と幼い中条兄。



そんな夢を見ながら、中条は寝ぼけて隣で寝ている村上に抱き付き、頬ずりする。そして寝言が漏れる。

「お兄ちゃん、大好き」

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