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おどり場の中条さん  作者: 只野透四郎
160/343

第160話 誕生日は女のロマン

正月が終わり、大学の授業が再開される。


文芸部室で再び部員達がたむろする中、ふと戸田が言った「秋葉さんの誕生日ってもうすぐだよね?」という言葉が、騒ぎの発端となった。

「何で知ってるの?」と秋葉。

「だって睦月って1月の事よ」と戸田。

「それが睦月さんの名前の由来?」と村上。

「安直だよね?」と秋葉は言って笑った。



戸田は不審顔で「それより、芝田君、彼女の誕生日知らなかったの?」と問い質す。

「初めて聞いた」と芝田。

「駄目でしょ。彼氏失格よ」と戸田。

「村上、知ってたか?」と芝田は矛先を逸らす。

「知らんかった」と村上。


戸田は「4人で付き合ってるんじゃないの? もしかして中条さんの誕生日も?」

村上は「知らないけど」と涼しい顔で答える。

「1月じゃなかった?」と秋葉。

「それはお兄ちゃんの命日」と中条。


戸田はあきれ顔で「何やってんだか、この4人カップルは。誕生日は恋人たちの最重要イベントよ」

「けどさ、誕生日って目出度いか? 単にオッサンオバサンへの階段を上ってるだけなんじゃ」と村上。

「それは言わない約束よ」と斎藤が笑いながら言った。

戸田は「とにかく、あなた達4人、先ずは自分の誕生日の自己申告ね」と言い渡す。



芝田は「俺、10月」

村上は「俺は7月」

中条は「私は4月」

秋葉は「私は・・・」

「1月だろ。さっき聞いたよ」と芝田が言った。


「けどさ、って事は睦月って、散々お姉さんぶってた割に、実は一番遅く生まれたんじゃん」と芝田が笑う。

「そう言う芝田だって、兄貴ぶってるくせに、俺や里子ちゃんより遅く生まれたんじゃん」と村上が笑う。

芝田が「じゃ、一番年上なのは里子?」

村上が「里子お姉ちゃん・・・だな」

「私、やっぱり妹がいい」と、中条はもじもじして俯きながら言う。

秋葉が「それにね、双子の場合は遅く生まれたのが上なのよ。だから私が今まで通り、睦月お姉ちゃんよ」

「それは話が別だと思うが」と村上。


「とりあえず、睦月さんの誕生日、やろうよ」と中条。

「誕生日って何するんだ?」と芝田。

「プレゼント買うのよ」と戸田。

「それとケーキ買って」と桜木。

「ローソク立てて」と秋葉。

「金属のお盆に?」と芝田。

「いや、ケーキの上に」と戸田。

「100本も立つかな?」と中条。

「百物語やるんじゃないんだからさ」と桜木。

「百歳のお婆さんなら百本立てるけどね」と村上。


「でもってハッピーバースデー歌って」と戸田。

「後は樅の木の鉢植え買って飾り付け」と芝田。

「でもって寝る時枕元に靴下下げてるとプレゼントが入ってる」と村上。

「靴下に鉄道模型が入るか?」と芝田がすっ呆けた事を言う。

桜木が「善意でくれるものに注文とかつけるもんじゃない」

「お菓子なら入るだろ。チョコとか飴玉とか」と村上。

「靴下の臭いの染みたお菓子とか嫌過ぎるんだが」と芝田。

「クリスマスとごっちゃになってるぞ」と桜木。



中条は戸田と斎藤を見て行った。

「戸田さん達も参加するんでしょ?」

「言ったでしょ? 恋人たちのイベントだって」と戸田。

中条は「でも大勢での方が楽しいよ」

「子供の時はね。けどもう大学生なんだし」と戸田は言った。



「日どりを決めようよ」と村上。

「生まれた日にやるんでしょ?」と秋葉。

「日をずらして週末にやった方が良くね?」と芝田。

「授業が終わってから夜で良くね?」と村上。

「真言君は実験で遅くなる日もあるし」と中条。

「とりあえず何日?」と芝田。


カレンダーを見る。

「日曜日じゃん」と村上があきれ声で言う。

「ケーキは私が手焼きで用意するわ」と秋葉が言う。

村上は慌てて「いや、睦月さんは主役なんだから」

「私、ケーキとか焼いた事無い」と中条が心配そうに言う。

戸田は「そんなの、よほど女子力に自信のある人がやる事よ。私だって手焼きケーキなんて作った事無いもの」

「真言君と拓真君のパンケーキはどう?」と秋葉が悪戯っぽい顔で言う。

「あれはただのクリームパン」と芝田が困り顔。

「ってか普通に買えばいいだけの話だろ」と村上が言った。



各自がプレゼントを買う。ケーキは村上と芝田で買って行く事になった。

そして当日、村上のアパートで秋葉を除く三人が準備を進める。

予定時間が来て秋葉到着。


四人でテーブルを囲む。

「それじゃ、先ずプレゼントだな」と芝田が言った。

「誰からいく?」と村上。

三人が互いに顔を見合わせる

「あーもぅ、俺からいくよ」と村上が言って包み紙に包装された菓子箱を出した。

そして「睦月さん、誕生日おめでとう」と村上。

秋葉は「ありがとう、真言君。開けていい?」

「どうぞ」



セロテープを剥がして開ける

「ショコラ大福だね」と秋葉。

「美味しいよ」と村上。

その時、芝田が「けど、形に残るものじゃなくていいのか? お菓子って食べれば終わりじゃん」

「形に残ると溜まって邪魔になるだろ」と村上が真顔で言った。

秋葉は溜息をつくと「真言君、思い出のプレゼントは残ってこそ意味があるのよ。女のロマンなんだから。里子ちゃんだってそうでしょ?」

「私は・・・記憶の中で残るから、いいの」と中条。


「まあ、いいわ。みんなで頂きましょう」

秋葉はそう言うと、菓子箱の包み紙からセロテープを丁寧に剥がし、丁寧に折り畳んだ

「包み紙、とっておくの?」と村上が不思議そうな顔で聞く。

「真言君から貰った最初のプレゼントだもの」と秋葉。

村上はしゅんとなって「ごめんなさい。これからは形に残るものにします」



残念な空気を断ち切るように、芝田が言った。

「まあさ、気を取り直して、次、行こうか。これ、俺のプレゼントな。睦月、誕生日おめでとう」

小型の箱を開けるとマグカップだ

「ありがとう、拓真君」と秋葉。


中条も「これ、私から」

「ありがとう、里子ちゃん」と秋葉。

小型の箱を開けるとマグカップだ。

「被っちゃったね?」と中条は残念そうに言う。

「い・・・いいのよ。思い出なんだから」と秋葉は作り笑顔を浮かべた。



村上は座りテーブルの上に並ぶ各自のマグカップを見る

「そこにある睦月さんのマグカップも、もしかしてプレゼント?」と村上。

「そうよ。一年の時のクリスマスで拓真君から貰ったのよ」と秋葉。


村上は芝田に不審顔で聞く。

「もしかしてお前、プレゼントは毎回マグカップかよ」

「そうだっけ? 一々憶えてないんだが」と芝田。

「いや、憶えておけよ」と村上。

「そういえばマグカップしか貰った事、無いわね。どうりで家にやたらマグカップがあると思った」と秋葉も言う。

村上は「芝田、お前なぁ」


中条が「真言君から貰ったのもマグカップだったよ」

「そうだっけ?」と村上。

中条が「そこにある」と、テーブル上の自分のカップを指した。

「お前だって憶えてないじゃん」と芝田。


「マグカップ溜まっちゃうね」と言ってみんなが笑う。

「それ使ってお茶会でもやる?」と秋葉。

「今やってる事がお茶会みたいなものなんじゃね?」と芝田。



四人でハッピーバースデーを歌う。

「ハッピーバースデートゥーユー・・・」

そこまで歌った所で途切れ、芝田が言い出した。

「睦月も歌うのか?」

「違うの?」と秋葉。

村上が「周りの人が主役を祝ってあげるのが趣旨なんだよな。祝ってもらう本人が自分を祝うって変じゃね?」


仕切り直して村上・芝田・中条で歌い直す。

「ハッピーバースデートゥーユー、ハッピーバースデートゥーユー、ハッピーバースデーディア・・・」

村上が「秋葉睦月」、芝田が「睦月」、中条が「睦月さん」と同時に発声し、歌は頓挫。残念な空気が流れる。

「呼び方、統一しない?」と村上が言った。


仕切り直して歌い直し、ケーキに19本の蝋燭を立てて火を点け、秋葉が吹き消す。



「じゃ、早速」と村上がケーキナイフを持つ。

すると秋葉が「切るのはいいけど・・・」

「一番大きいのを買ったぞ」と、芝田と村上がドヤ顔。

「四人で食べるには大きすぎない?」と秋葉。

「あ・・・」

「今度からこいつらに任せるのは考えた方がいいかもね」と秋葉は笑った。


「ま、半分は明日に残しておこうよ」と村上は言って頭を掻く。

「クリスマスだって前夜にイブをやって、翌日の25日が本物じゃん。だから今日は誕生日イブだ」と芝田も言って頭を掻いた。

村上が「いや、イブは前夜祭なんだから昨日だろ」

「まあ、いいじゃん。名目はいいからとにかく食べよう。御馳走だってあるし」と秋葉が場を納めた。

ケーキの半分を切り分け、御馳走を並べる。



食べ始めた所で芝田がご馳走について言い出した。

「里子の豚バラ炒めはいいとして・・・村上定番の煮物に味噌汁・・・」

「何度も煮てるから、具が柔らかくて美味しいよ」と中条が緩い事を言う。

「つまり昨日の残りだな」と芝田はあきれ顔。

「いや、作ったのは一昨日だ」と村上。

「どっちみち誕生日の御馳走じゃないな」と芝田。

「この温泉卵もどきの売りって何だっけ?」と中条。

「世界一簡単に作れる」と村上ドヤ顔で答える。


秋葉は溜息をつくと「明日の本番は私が作るわよ」

「いや、本番の誕生日は今日だから」と芝田。

「それに睦月さんは主役だし」と村上。

「主役って、場を責任をもって仕切る役目よ」と秋葉は言って笑った。

「そうなのかなぁ」と中条。

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