第158話 再会37人
12月25日、渡辺のマンションで高校時代のクラスメート達が集まってクリスマスのイベント。
村上達四人と杉原・津川は示し合わせて渡辺のマンションに到着。
がらんとした玄関先に渡辺が一人。
「まだ早かったかな?」と芝田。
「米沢さんと矢吹が来てるぞ」と渡辺。
「国立大メンバーって訳か」
奥から米沢が顔を出して「秋葉さん、御馳走作り、お願い」
秋葉は「まかせて。ところで片桐さんは?」
「司法試験の勉強中よ」と米沢。
「鹿島君は?」と秋葉が訊ねると・・・。
「佐川の奴を連行して来るって言ってた」と渡辺が笑った。
まもなく鹿島が佐川を引っ張って来る。準看護学校に通う篠田と薙沢も一緒だ。
「こういうのは同窓会だけにしとけばいいんだよ」と佐川は迷惑そう。
篠田はそんな佐川に「そういう協調性の無い彼氏を持つ私の立場はどうなるのよ」
薙沢と篠田がキッチンを手伝う。
「看護婦の仕事は大丈夫そう?」と秋葉。
「大丈夫だよ。覚える事はたくさんあるけどね」と薙沢。
「男性恐怖症は?」と秋葉。
「平気よ。実習先の患者さんはみんなお年寄りだから。だけど、注射の練習が大変で・・・」
薙沢がそう言って腕をまくると、あちこち青痣だ。
「薙沢さんでもこれって、コツを掴むのは大変なのね」と秋葉。
「これは篠田さんの練習台で・・・」と薙沢は困り顔。
秋葉はしばし唖然とすると、隣で野菜を刻んでいる篠田に「篠田さん、腕を見せて」
袖をまくった篠田の腕を見て「薙沢さんは上達が早いみたいね」
「何の話?」と怪訝な顔の篠田。
「いや、何でもない」と秋葉。
篠田は「ねぇ、何の話よ」
大谷・高橋・武藤と松本・内海が到着。
芝田は彼らに「筋肉痛は大丈夫か?」
「さすがに年の瀬までは引きずらないよ」と武藤が笑う。
だが、大谷だけは腰が動かない。
「だらしなしいな。武藤と高橋さんを見習え」と芝田が笑うと、松本はあきれ顔で言った。
「大谷君のそれは特訓じゃないから。こいつ、イブに女性の所を四人梯子したのよ」
大谷は痛む腰をさすりながら「世界の女は俺のものだ」
そんな会話を聞いた篠田は「大谷君、鎮痛剤打ってあげようか」と、注射器入りの救急セットを持ち出す。
「助かるよ篠田さん」と大谷。
「いつもそんなの持ち歩いてるの?」と内海は怪訝顔。
「練習用にね」と言いながら篠田は注射器を構える。
「練習・・・って・・・痛てー」と大谷は悲鳴を上げる。
そんな大谷を他所に篠田は「やっぱりうまくいかないなぁ」
「相変わらずね、大谷君は」と笑いながら入ってきたのは岸本だ。一緒に内山も居る。
「岸本さん、久しぶりに一発どう?」と、懲りない大谷。
岸本は「昨日は四人相手にして、ちょっとお腹いっぱい」
松本はあきれた声で大谷に「腰はどうしたのよ。少しは懲りなさいよ」
内海は「岩井は? 同じ学校だよね?」
「一日早く帰ったよ。大滝さんの相手しなきゃ、とか言って」と内山が答えた。
そこに岩井が到着。
「岩井じゃん、よく大滝さんが離してくれたな」と芝田が声をかけた。
「それがさ・・・」と岩井が何か言おうとすると、玄関のブザーが鳴った。
「誰か来たみたいだよ」と内海。
岩井は「もし大滝さんなら、俺は姉さんの所に居るって伝えてくれ」
「そのお姉さんみたいだが」と対応した芝田が言う。
「大滝さんの所に居るって伝えてくれ」と岩井。
「修羅場が凄いな」と村上が笑った。
「東京には、こんなのが五人居るぞ」と内山が笑って言った。
「集まってるわね」と言いながら藤河が入って来る。
「藤河さんだ。それに八木君も」と松本。
「久しぶりね。相変わらずBL書いてるの?」と岸本。
「読む?」と藤河が冊子を出す。
岸本は「いらない。それより清水君と一緒の学校なんでしょ?」
「来てるわよ」と藤河。
清水は入って来るなり、女子の所を廻ってお世辞を言いまくっている。
「あいつ、すっかり調子のいいキャラになっちやって」と、清水と一緒に来た吉江があきれ顔。
「吉江さん久しぶり」と松本。
「元気してた?」と言いかけた吉江は、向こうに矢吹が居るのを見つけると「また後でね」
「矢吹君、久しぶり」「岩井君、元気だった?」と、イケメンの所を飛び回って愛想を振りまく吉江。
そんな吉江を見ながら清水が「吉江さん、すっかり調子のいいキャラになっちやって」
その吉江は渡辺に「ところで牧村君は?」
そんな中で牧村たちが到着。
「久しぶりだな」と牧村。直江、水上、坂井、柿崎も居る。
吉江がはしゃいで「牧村君、久しぶりだね。元気だった?」
「もっと久しぶりな人が居るんだ」と牧村は言い、「入って来いよ」と玄関に・・・。
入ってきたのは七尾だ。
「七尾さん、どうしてたの?」と清水が嬉しそうに言う。
「大学に入ったら、同じ学校に牧村君たちが居て、もうびっくり」と七尾。
「向こうの学校で友達できた?」と吉江。
「付き合ってる人が居るの」と七尾。
「嘘だろ、あのお堅い七尾さんが」と清水。
「俺、一応七尾さんの彼氏だったんだが」と直江が頭を掻く。
「東京に行った直江君と、よりを戻した訳じゃないよね?」と吉江が聞く。
「そんな事、私が許すと思う?」と水上が口を挟む。
「そうだよね。水上さん、直江と同棲してるんだって聞いた」と内山。
「そうなの?」と吉江が目を輝かす。
「私たちの間には誰も割り込めないんだからね」と水上はドヤ顔。
「いや、同棲じゃなくてシェアハウスだから」と直江は困り顔。
「それって建前ってやつじゃ」と内海。
「けど、牧村も住んでるよ」と直江。
「じゃ水上さん、逆ハーレム?」と吉江はさらに目を輝かす。
「違うから。俺は堀江さん一筋だから」と牧村は全力で否定する。
「そうよね」と水上は少し寂しそうな声。
「もしかして水上さん・・・」と吉江。
水上は「がっかりなんてしてないからね。勘違いしないでよね」
吉江は「いや、何も言ってないけど」と言ってたじろぐ。
七尾はあちこち飛び回って、クラスメイト達の現状を聞きながらメモをとる。
「そんなのいちいちメモらなくても」と村上が笑う。
「ずっと気になってたんだもの。何だか胸のつかえがとれた気持ち」と七尾。
「遠くに行っても七尾さんも二組の一員だものね」と中条が言って笑った。
「坂井さんの会社はどうかな?」と杉原が話題を振る。
「女社長がやり手で、会社の人達にすごく信頼されてるのよ」と坂井。
「社長、独身?」と杉原。
「そうだよ」と坂井。
「そうね。家庭を持ったらそんな活躍、出来ないものね」と杉原が頷く。
すると坂井は「そうじゃないの。好きな人が居るのよ。よく知らないけど、妻子の居る人で」
「じゃ、不倫?」と吉江が喰い付く。
「大学時代に、その人の教え子だったらしい」
「って事は愛人は大学教授?」と吉江。
「そうみたい。よく知らないけど」と坂井。
そんな会話を脇で聞きながら、何やら焦り顔の秋葉。
そんな秋葉に気付いた坂井が「秋葉さん、どうしたの?」
「な・・・何でもないわよ」と秋葉。
「教授って、もしかして柿崎君の大学の?」と吉江。
柿崎は「違うと思うよ。けど噂はちらっと。確か県・・・」
すかさず秋葉は「柿崎君、そういうプライベートに首突っ込むのは良くないと思うわよ」
「そうだね。けど秋葉さん、何か焦ってない?」と柿崎。
秋葉は「そ・・そんな事無いわよ。それより柿崎君も経済学部だったわよね? もう研究室に出入りしてる? 教授はどんな事やってる人?」
小島・山本・水沢が到着。
「お、集まってるぞな」と小島。
「遅いぞ、小島」と芝田。
「やっほー、みんな久しぶり」と水沢。
「みんな暇だよな。こういうのは同窓会だけにしとけばいいのに」と山本。
「そう言いながら、しっかり来る所が山本だよな」と芝田が笑う。
水沢は「山本君、有給貰ったんだよ」
「お前の会社、有給なんてあるのかよ」と武藤が言った。
山本は「うちはホワイト企業だ・・・ってか何でみんな同じ事言うんだよ」
清水が飛んできて「水沢さん、今日も可愛いね」
「わーい、褒められちゃった」と水沢。
「女の写真撮っててついた褒め癖だろ」と山本があきれ顔。
小島は周囲を見回しながら「ところで、まだ来てない奴って」
「やっほー、メリークリスマス。女の子たち、みんな久しぶり」とはしゃぎ声とともに入ってきたのは宮下、そして大野だ。
男子一同「げ・・・」
宮下は水沢の所に飛んできて「小依ちゃん、久しぶり、今日も可愛いなぁ」
「宮下ちゃん、匂いが変」と水沢はにべもない。
「えぇーっ? エステで使う香水だよ」と宮下。
清水が飛んできて「大野さんに宮下さ・・・」と言いかけるが、「いや、何でもないです」
「何なの?」と大野も宮下も不審顔。
佐川が笑いながら「さすがの清水もあいつら褒める気にはならんか」
「大野さんに宮下さんだもんなぁ」と清水。
「なら、何で来たんだよ?」と山本。
清水は頭を掻いて「いや、条件反射っていうか・・・」
大野は小島の所に来て「小島ぁ、また付き合ってよ」
「今更だし。それに俺、小依たんの癒しがあれば何もいらない。キリッ!」と小島。
「水沢っち、やらせてくれないじゃん。小島の童貞貰ってやったの、あたしだし」と大野が口を尖らせる。
小島は「俺の小依たんへの愛はそんなのじゃないから。ってか彼氏はどうしたの?」
「イブ直前に別れた」と大野。
「振られたと言うべきかと思われ、ってかケバさパワーアップしてね? まるでお水の人みたいなんだが」と小島。
「そっち系の店に勤めてるし」と大野。
「工場はどーしたの?」と小島。
大野は「あんな所、辞めたっつーの」
「三年どころか一年保たなかったのな」と小島が笑う。
「あたし言ったじゃん。飲食業はあたしらの天職だって」と大野。
「確かに飲食を提供はするけどね」と芝田が笑う。
「で、大野さん目当てに来るタデ喰い虫は居るん?」と小島。
大野はドヤ顔で「うちに来る客全員あたし目当てに決まってるじゃん」
男子たちは「根拠の無い自信スゲーな(笑)」
「根拠あるし。あたし去年までJKだし。JKは世界最強のブランドだし」と大野。
その場に居た男子全員唖然
その様子を見ていた水沢は、大野が小島から離れると、そっと小島に耳打ちした。
「もし小島君が小依の事欲しいなら、一回だけ、させてあげてもいいよ」
小島は驚いた顔で水沢を見ると、感極まったという表情で水沢を抱きしめた。
「小依たんマジ天使、だが遠慮する」と小島。
「小島君、苦しいよ」と水沢。
「ご・・・ごめん、けど、生きてて良かった。その言葉だけで、生きていけるでござる。やっほー」
そう叫んで小躍りする小島。
「何だかなぁ」とあきれ顔の山本が水沢の所に来て、言った。
「お前、あいつに何言ったんだ?」
「内緒だよ」と水沢。
「甘やかすと調子に乗るぞ」と山本。
「それって焼きもち?」と水沢。
「馬鹿言え!」と山本は、いささか疲れた表情で水沢の頭を撫でて、言った。
「俺は解ってるから。お前の事もあいつの事もな」
米沢が差し入れたケーキが切り分けられ、料理が配られる。
乾杯だと言うので、勉強中の片桐も出てきた。家主の渡辺が音頭をとる。
「一年ぶりの再会を祝して」
そんな渡辺の言葉を聞いて村上は「まだ一年経ってないけどね」と笑いながら言う。
「こまかい事を言うなよ」と困り顔の鹿島。
そして鹿島は「それと片桐女史の司法試験合格を祈って」と渡辺の後に続ける。
女子達は口々に「頑張ってね、片桐さん」
男子達も「俺達みんな味方だから」
「ありがとう、みんな」と片桐は涙ぐむ。
「離婚裁判の時は弁護よろしく」と佐川が茶化す。
篠田は「何か言った?」
「 いや、空耳じゃないかと」と佐川がとぼける。
秋葉が「篠田さん、このハリセン使って」
「いや、冗談だってば」と佐川が慌てる。
「お前が言うとシャレにならん。ってかお前だって弁護士志望だろーが」と津川が言った。
「なら、離婚裁判はこの佐川弁護士事務所に」
「だから、そういう冗談は止めろって」
「それより山本君にシャンペン持たせて無いよね? 前なんか電球に向けて栓を飛ばそうとしたんだから」と片桐が心配そうに言う。
山本は慌てて「俺を何だと思ってるんだよ。そーいう事はもう卒業だ」
「卒業以前の問題だと思うぞ」と芝田が笑って言った。
乾杯とともにシャンペンの栓が抜かれ、景気のいい音があちこちで響く。
そしてみんなで「メリークリスマス」
片桐は乾杯が終わると、部屋に篭って司法試験の勉強を再開。
次第に場が盛り上がり、米沢が渡辺を経済学部で独占してると自慢を始める。
やがて片桐がいきなり部屋から出てきて「渡辺君成分を」と言って渡辺に抱き付く。しばらくハグを続けると、満足したという顔で部屋に戻る。
篠田が心配顔で「片桐さん、ちょっと怖い」
「一年の時から勉強初めても、学部四年で司法試験受かるのって大変だから」と佐川が解説。
渡辺も「うちの実家の顧問弁護士のアドバイスを受けて勉強してるんだが、法律を丸暗記しても駄目なんだよ。判例を見て、どう法律が運用されたか・・・ってのを一々頭に入れなきゃならん」
「試験はいつ?」と吉江が聞く。
「三年の五月だ」と佐川。
「この状態が二年間続くのかよ」と津川が溜息。
鹿島が「渡辺の起業を助けるために・・・って事で、卒業して即戦力目指してるからね。会社創る時って法律面でも一番大事な時期なんだよな」
吉江が「片桐さんって、けなげ」
米沢が「何でみんな、私を悪役みたいな目で見るのよ?」と口を尖らせる。
大谷が「だとすると、俺達、こんなに騒いでていいのか?」と言い出す。
「あの部屋は完全防音だから」と渡辺。
「何とか励ましてあげたいね」と篠田。
「下手に手を出さない方がいいと思うよ」と渡辺が言った。
そのうち、「鬱陶しいから出て行ってよ」の片桐の怒鳴り声とともに、宮下が片桐の部屋から追い出された。
「何やってたのよ」と薙沢が宮下に。
宮下は「いや、渡辺君成分より宮下さん成分の方が効くかなぁ・・・と思って」




