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おどり場の中条さん  作者: 只野透四郎
157/343

第157話 それぞれのクリスマス

12月24日、村上と中条・佐藤・佐竹で春月市繁華街に繰り出した。

ここは佐藤の地元である。

とりあえず喫茶店で一息つき、駅前の通りを歩く。

プラタナスの街路樹がイルミネーションで彩られている。


「暗くなったらきっと綺麗だろうね」と中条がわくわく顔で言う。

「夕方また来ようか?」と佐竹。

「うん」と嬉しそうに頷く中条。

村上が「そういえば春月祭りをやってる神社があるんだよね?」

「行ってみる?」と佐藤。


大きな赤い鳥居の向こうに、真新しい髄神門。社殿は大きく、年の瀬で参拝客も多い。

拝殿の中に掲げられた幾つもの大きな絵馬。それを見上げる中条の頭を撫でる村上。

社殿の背後には松が多く、その間にいくつもの祠が並ぶ。

いかにも何か居そうな雰囲気が漂う。

解説版には昔この松に大蛇が住んでいたとの伝説。そんな謂れについての佐藤の解説を、中条は佐藤の上着の裾を握りながら聞く。


神社の前に大きな池があって都市公園化されている。

木々の間にいくつも石碑が立つ中を、先導する佐藤の後ろを中条は、村上と佐竹と手を繋いで歩く。

境内を出る所に解説板がある。それをざっと読んで、中条が言った。

「海の神様って事になってるんだね?」

「港町だからね。祭りは山車も船の形をしているんだ」と佐藤。


「あと、お勧めの場所ってある?」と村上。

「水族館が人気だよ」と佐藤が答える。

「お昼を食べたら行ってみようか」と佐竹。

ファミレスで食事をした後、バスに乗って海岸近くの水族館へ。



岩をコンクリで固めた岩礁の中に潜む蟹やウツボの水槽が並ぶ廊下。

クラゲの入った小さな水槽が並ぶ部屋。

巨大な水槽の下のトンネル。周囲を無数の魚が泳ぐ中、三人の男子にじゃれて中条ははしゃいだ。


一組のカップルが彼らに声をかけた。

「シャッター押して貰えますか?」

「いいですよ」と佐藤が、何か企んでいるような笑みでスマホを受け取り、彼らにカメラを向けると、わざと横にずらして女性だけ入るようにしてシャッターを押した。

スマホを受け取って画面を見る彼ら。


女性は笑い、やられた・・・という表情の男性は村上達に笑顔で言った。

「皆さんのも撮ってあげますよ」

「お願いします」と佐藤。

男性がスマホのカメラを構える。中条の右に村上、左に佐藤と佐竹。どちらにずらしても男性が写る。

彼はズームで拡大し、中条だけ大きく映る写真にしてシャッターを押し、スマホを返した。

双方、残念な写真を見ながら笑う。


彼は村上達に小声で「ところでその子、誰の彼女?」

佐藤と佐竹は村上を見たが、中条は「私は3人とも大好きだよ」


2組の男女は反対方向に移動する。

別れ際にそのカップルの男性は「うまくやりなよ」と村上達に声をかけ、女性は楽しそうに手を振った。

「そっちもな」と村上は返し、中条が手を振って答えた。



夕方、バスで駅に戻り、暗くなる中、駅前のイルミネーション通りを歩いた。

歩きながら佐竹が「今日はうちに泊まる?」

「そうだな。里子ちゃんはどうする?」と村上。

「私も佐竹君の所に行きたい」と中条。

「俺は・・・」と佐藤が何か言おうとすると、中条は佐藤の上着の裾を握り、村上と佐竹は「佐藤も来いよ」



その日、芝田は小島・水沢と山本の車で春月市に向かった。

駐車場に車を止めて、刈部・榊・泉野・園田と春月駅で合流。山本にじゃれついて大はしゃぎの泉野。

山本は「悪いけど午後は水沢んちでクリスマスやるから、俺達は昼までな」

「ごめんね、園田君」と水沢は済まなそう。

泉野や刈部らはがっかりするが、とりあえず午前中だけでも・・・と、アニメショップやゲーム屋を巡る。

水沢を甘やかす刈部と榊、山本に纏わりつく泉野、山本や芝田・園田にじゃれついてはしゃぐ水沢。


ファミレスで昼食を食べて、山本と水沢は車で上坂に戻る。

芝田は「どうする? 折角だし、午後は俺達で遊んでいくか?」と提案。

ゲームセンターに入って六人で遊ぶ。


泉野は一息ついている園田に話しかけた。

「園田君って、水沢さんの中学の同級生なんだよね?」

「まあね」と園田。

「水沢さんの事、好きなの?」と泉野。

「まあね」と園田。


泉野は言った。

「水沢さんに懐かれてるよね?」

「ちょっと違うと思う」と園田。

「違うって?」と泉野。

「水沢さん、かまってくれてるんだよ。罪悪感みたいなのを感じて埋め合わせのつもりなんだと思う」と園田。

「何かあったの?」と泉野。


園田は語った。

「俺、いじめられてたんだよ。水沢さんって子供みたいだろ? あの人を好きなのはロリコンだって。それで俺がいじめられたのを自分のせいだと思ってるんだと思う」

「だから遠慮してるの? そんなのおかしいよ。好きな人が優しくしてくれるなら、甘えればいいじゃん」と泉野。

「できないよ、そんな引け目で。それって無理させてるって事じゃん」と園田。

「無理・・・なのかな?」と泉野。



村上達が佐竹のアパートで一息つくと、村上の携帯に芝田から連絡が来た。


「今、どうしてる?」と芝田。

「佐竹のアパートに居るよ」と村上。

「俺んとこは今解散したんだが、どうせならそこでクリスマスやらないか?」と芝田。

「家主に聞いてみるよ」と村上。

佐竹も佐藤も乗り気になり、中条もはしゃいだ。

「みんな乗り気だ」と村上。

「なら、ケーキ買って行くよ」と芝田。


まもなく秋葉からも連絡が来た。先ほどの件を伝えると、フライドチキンを買って行くからとの事。

村上と佐藤はお菓子と飲み物と総菜を買い出しに出た。



やがて芝田と秋葉が佐竹の部屋に到着。

ケーキを切り分け、御馳走を食べながらわいわいやっていると、芦沼が戻ってきた。


村上が笑いながら「逆ハーレムデートはどうだった?」

「聞いてよ。あれだけ男が居るのに、誰も家に連れ込もうとしないのよ」と芦沼が不平を言う。

秋葉が思わず同調。

「それってどうかと思うわよね? うちの経済学部の奴等も・・・」


「経済学部の奴等も?」と芝田が怪訝な顔。

「あ・・・」と秋葉は思わず口を押える。

「睦月さんも、もしかして・・・」と村上も怪訝な顔。

「ちやほやしてくれる男子が大勢居るものね?」と中条が笑う。

「何のことかなぁ?」と秋葉が頭を掻く。


「いや、別にいいけどさ」が芝田はあきれで言うと、秋葉は口を尖らせて言ったた。

「そこは焼きもちくらい焼いてよ」

「焼いて欲しいのかよ」と芝田。


  

文学部の梅田はクリスマス合コンを企画した。

なかなか彼氏ができない竹下にせっつかれたためだ。理学部の関沢と工学部の小宮が乗る。


文学部女子6人と理学部・工学部の男子各三人集めた。

彼らはこれまで何度かやってきたが、成果は乏しかった。

企画を組みながら、三人の幹事は相談する。


「お持ち帰りってなかなか出ないよね?」と梅田。

「何がブレーキなんだろ?」と関沢。

「もしかして、誰かが先頭切れば」と小宮。

梅田が「いっその事・・・」



当日、待ち合わせ場所に12人が到着。大学近くの居酒屋に入る。

男女六人づつ向かい合って座る。次第に盛り上がり、話が弾む中、そろそろか・・・と幹事達が時計を見る。

その時、梅田が先日島本から聞いた話を思い出した。

(もしかして、対面で座るのは良くないのかも)


梅田が関沢に耳打ちし、関沢が小宮に耳打ち。

そして小宮が言った。

「ここらへんで席を変えよう」

男女が隣り合わせで座るよう、くじ引きで新しい席を決める。

「この席で、何か余興でもやるの?」と、わくわく顔の竹下。

そんな彼らに「じゃ、俺達先に抜けるんで」と梅田・関沢・小宮は誤魔化し笑いを浮かべて会場を抜けた。


残った男女は唖然。

「幹事が勝手に消えた」と文学部の女子。

「自分達でお持ち帰りかよ」と理学部の男子。

「梅田、ずるーい」と竹下。

「関沢ってああいう奴だよな」と理学部のもう一人の男子。

「小宮って昔、こんな事やってたんだぞ」と工学部の男子。

「どんな?」と文学部のもう一人の女子。

抜けた三人に関する悪口大会で盛り上がり、意気投合する男女たち。

時間が来て会場を出る頃には、何組ものカップルに分れていた。



会場を抜けた梅田たちは・・・。

「あいつら盛り上がってるかな?」と小宮。

「悪口大会で?」と梅田。

「それで、俺達これからどうする?」と関沢。

「いっそ三人でホテルにでも行く?」と梅田。

関沢は「それもいいかも」

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