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おどり場の中条さん  作者: 只野透四郎
155/343

第155話 秋葉さん自動車を買う

12月になった。

日ごと寒くなり、日も短くなる。布団を出た時の寒さが身に応える。

大学に向かう電車の中で四人、そんな話題が出た。


「最近、朝起きるのが辛くない?」と秋葉。

「寒くて布団から出られないんだよな」と芝田。

「自動車通学なら、もっとゆっくり出来るんだけどね」と村上。

「睦月さんの車は?」と中条。

「母親から借りてるものだから毎日は無理」と秋葉は答えた。



秋葉が家で夕食を食べながら、母親とそんな話題になる。

母親は言った。

「睦月の自動車、買う? お金なら出すわよ」

「いいの?」と秋葉。


翌日、大学に向かう電車の中で、秋葉は自動車を買う予定を話した。


「これで毎朝、余裕をもって大学に行けるわ」と嬉しそうな秋葉。

「良かったね、睦月さん」と中条も嬉しそう。

「何言ってるのよ、みんなで乗って行けるじゃない」と秋葉。

「いいの?」と村上と芝田と中条。

「大学に行くまでの時間が一人ってのも寂しいからね」と秋葉。

すると中条が「どんな車を買うの?」


村上が「スピードが出るとか馬力があるとか・・・」と口を挟む。

「いいな、それ」と芝田が口を挟む。

「・・・ってのは止めておいた方がいいと思うよ。安全第一だ」と村上は言葉を続け、笑った。

秋葉は「真言君、私が危ない運転するとか思ってる?」と口を尖らせた。



秋葉が買う新車を選ぶため、みんなでディーラーに行こうという話になる。

秋葉母が運転し、本人と三人の仲間が同乗して、郊外の専門店に向かった。

ディーラーの店員が出したカタログを見ながら、秋葉と母があれこれ言う。

「お洒落な車がいいよね」と秋葉。

「どんなのがお洒落なんだ?」と芝田が言うと、全員考え込む。

(どんなのだろう)と各自が自問自答。

そして村上が「ま・・・まあ、感覚の問題なんだから、いろいろ見てるうちにピンと来るものがあるんじゃないの?」



広い展示スペースに並ぶ車を、店員に案内されながら物色する秋葉と秋葉母。

村上達は少し離れた所に居る。


「杉原さんが居なくて正解だったよなぁ」と芝田が言って笑った。

「水着や浴衣買った時みたいに、あれがいいこれがいいって言い合いになって、挙句、意見要求されて、一方がいいって言ったのを支持するともう一方が鼻を曲げるとか・・・」と村上。


間もなく、芝田は秋葉達を指さして「既になっているぞ」

秋葉と秋葉母が車選びで紛糾している。

そして秋葉が「真言君、拓真君、意見聞かせてくれない?」



やがて、不毛な車選びに音を上げた村上が言った。

「デザインも大事だけど、実用面でも条件ってあるんじゃないの?」

「確かにそうね」と秋葉と秋葉母。


秋葉は「5人乗れて、中がゆったりして」

「つまり、大き目の車って事になるね」と村上。

そして秋葉は「小回りが利いて運転しやすい」

「つまり、小さい車って事になるな」と芝田。


「つまり、大きくて小さい車がいい」と秋葉が言った。

村上は溜息ほついて「睦月さん、矛盾って言葉、知ってる?」



「燃費が良くて故障しにくいっていうのは大事だと思う」と中条が言った。

「この車はリッター50km走れます」と店員が一台の車を指して胸を張った。


秋葉は「つまりガソリン10リッターで500km確実に走る・・・という事よね?」

「確実にとは・・・」と店員が口ごもる。

「もし走れなかったら、途中でガス欠になって大変な事になるんだけど、責任とってくれるのかしら」と秋葉。

「これはあくまで性能値でして・・・」と店員が困り顔になる。

「つまり実際には走れないと。これって不当表示じゃないの?」と秋葉。

「あくまで他の車との比較という事で・・・」と店員が涙目になる。


村上はあきれ顔で「睦月さん、あまり店の人いじめるの、止めない?」

「この程度のクレーマーに対応できないようでは、経済の世界じゃ、やっていけないわよ」と平然と言う秋葉。

「経済怖ぇー」と芝田は身をすくめた。


「それと、カーナビ搭載は必須よね」と秋葉が付け加えた。



すったもんだの末に性能条件がまとまった。

「じゃ、後はデザインね。真言君、拓真君、意見聞かせてくれない?」と秋葉。

村上と芝田は「勘弁してくれ」


ようやく購入する車が決まった。

「それじゃ、正式契約は後日という事で」と、満面の笑顔の店員であった。



だがまもなく、ディーラーには秋葉母からのキャンセルの連絡が届く事になった。

秋葉母が、店に来た馴染みの客から中古車を譲られたのだ。


秋葉の家で村上たちに話す秋葉母。お茶を出しながら彼女は言った。

「中古車といってもそんなに走ってないんだけど、あの人、新車買うのが趣味で、衝動買いしちゃって置く所が無いって言うのよ」

「お金って、ある所にはあるもんだなぁ」と、傍で聞いていた芝田があきれ声で言う。

「なので、今までの私の車、睦月にあげるわ」と秋葉母は娘に言う。

「良かったじゃん。乗り慣れた車で」と村上は笑った。

「そうね。願ったり叶ったりだわ」と秋葉は嬉しそう。


「けど、あの自動車屋、怒るんじゃね?」と芝田が言う。

秋葉は平気な顔で「お客様は神様よ」



母親がディーラーに電話をかけ、店長が対応した。キャンセルしたいとの要件を伝える。

「はい、左様でごさいますか。招致しました。また何かありましたら、よろしくお願いします」

要件が終わり、店長は電話を切る。


「千代田君」と店長は店員に・・・。

店員は「何でしょうか、店長」

「先日の客が新車の購入をキャンセルするそうだ」と店長。

「そうですか」と店員。

「悪いが、店先に塩、撒いておいてくれ」と店長は言った。


秋葉家では、ディーラーに電話をかけている秋葉母を見ながら、ふと思い出したように村上が言った。

「ところで、カーナビ搭載は必須って言ってたけど、お母さんの車ってカーナビ付いてなかったんじゃ」

「あ・・・」

そう声を上げて、しばらく頭を抱えた秋葉は、諦め顔で言った。

「カーナビはそのうち付けるとして、真言君、しばらくアナログナビ、お願いね」



数日が経ち、母親の新しい自動車が届いた。新しい車が車庫に収まる。

母親が今まで乗っていた車を指して、彼女は娘に言った。

「明日から、この車が睦月のものよ。車庫は一台しか入らないから、庭先に止めるって事でいいわよね?」

「これで明日から自動車通学だね」と中条がはしゃぐ。

秋葉は嬉しそうに「ゆっくり起きて学校に行けるんだね。明日が楽しみ」



その夜、突然の大雪となった。道路は雪で埋まり、除雪車がフル回転するが追いつかない。

庭先に止めてあった秋葉の車は完全に雪に埋まった。村上と芝田の携帯が鳴り、雪掘りに来て欲しいと応援要請。

防寒具で完全武装してシャベルを持って悪戦苦闘する村上と芝田。


芝田は疲れた表情で「これは時間がかかるぞ」

「掘り出せたとして、睦月さん、雪道走れるの?」と村上が言う。

「慣れてないと危ないわよ」と秋葉母が心配そう。

「それに、土手道が除雪されてないと、国道だけだと遠回りになるよ」と村上。

「そもそもスノータイヤに交換したっけ?」と芝田。

「お願いできる?」と秋葉はあくまで他力本願だ。

「雪の積もった庭先では無理だろ」と村上。


秋葉母は残念そうな顔で娘に言い渡した。

「自動車通学は当面お預けね」

秋葉は「そんなぁ」

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