第148話 ハウンド大地に立つ
大学祭は多くの学生にとって最大のイベントだ。
コンピュータ研では、メカトロニクス研と共同で、文化祭向けに人型ロボットの実演を計画していた。
2つの研究室の常連学生達が集まって計画を練る。めいめい好き勝手言う学生たち。
「等身大のパワードスーツなら簡単に出来そうだけど」
「パワーアシストスーツに装甲付けるだけだろ?」
「人が搭乗する巨大ロボットは男のロマンだ」
四年生は卒論に忙殺されているため、あまり参加していない。
1年から3年までの有志がわいわいやりながら企画を詰める中に、芝田とその仲間の小宮・刈部・榊・泉野が居た。
「巨大ロボットは去年もやったけど、評判が良く無かったよな」と上級生が言う。
「何で?」と芝田。
「実物を見る方が早いと思うぞ」と上級生。
工学部の倉庫の片隅に、埃をかぶったロボットが居た。
小宮は「不細工だな。胴体だけデカくてずんぐり体形の・・・」と言う。
だが芝田は「けど逆に、リアリティあると思うよ」
刈部も「装甲面積を最低限にして無駄を省いたデザインは戦争ものSFの基本だよ」
「背の高いスマートロボは戦場じゃ、いい的になって集中砲火浴びるだけだぜ」と榊。
「装甲歩兵ミリアネスのハウンドみたいな奴だよな」と言ったのはメカトロニクス研の1年だ。
「ザコロボじゃん」と小宮。
「けど、意外にファンは多いぞ」とコンピュータ研の上級生が言った。
すると芝田は「要はデザインじゃないですか? こんなふうに駆動部剥き出しじゃなくて、外部装甲付けて」
「これ以上重くする気かよ?」とメカトロニクス研の上級生。
「いや、格好さえつけばいいんだよ。薄手のプラスチックとか、何なら紙固めた張り子でも」と言ったのはコンピュータ研の上級生だ。
「工業デザイン研究室に外注できないかな?」と刈部が言った。
「それは出来るだろうが、問題は操縦系だよ」とコンピュータ研の三年生が言った。
「コクピットのレバー操作して、じゃ駄目なのかな?」と芝田が言った。
「駆動部がいくつあると思ってるんだよ」とメカトロニクス研の上級生。
「肘に一つ、肩に一つ、手首にも」と芝田。
「肩は縦方向と横方向で二つ必要な」とメカトロニクス研の一年生。
「肘だって、曲げ伸ばしと捻りで二つ要るぞ」とコンピュータ研の二年。
「両手両足あるから。それと両手の指と・・・」と泉野。
「一人で操作せずとも、大勢で分担すればいいんじゃ?」と刈部が言った。
「同期が大変だし、そもそも俺達が手を前に出すとか足上げる時、どの関節をどう動かすかとか意識してないだろ。動作のイメージを受け取って神経系が勝手に処理するんだよ。頭で考えて動かそうとか無理」とメカトロニクス研の三年生。
「去年はどうしてたんですか?」と榊が聞く。
「何種類かの動作を決めて、前もってプログラムを組んで、後はフルオート」とコンピュータ研の三年。
「どんな動作を?」と芝田。
「西斗水獣拳のポーズとか、異空戦隊マホレンジャーの変身ポーズとか、魔法少女メグミンの"悪者退治はお任せよ"ってものあったな」とメカトロニクス研の二年生。
「評判良く無かった理由が解ったような気がする」と泉野があきれ顔で言った。
「けどさ、プログラムを組んで・・・って、原理はさっき先輩が言った、俺達が体を動かすのと、結局同じなんじゃ? 手を前に出すとか、足を上げるとかの動作プログラム作って組み合わせると」と芝田が続ける。
「膨大な数のプログラムが必要だし、作れたとして、膨大なメニューからどう選択するんだよ」とコンピュータ研の三年生。
小宮は「ここはやっぱり思考制御で・・・」
「生体コンピューティングの世界になるぞ、基礎理論だって出来てないのに」刈部。
榊が「パワーアシストスーツみたいに、パイロットの動きをそのままなぞるとか」
「それは可能だが、パイロットがロボットと同じ動作するのかよ。コクピットがダンスホールになるぞ」小宮。
全員考え込む。
その時、芝田の頭に浮かんだものがあった。彼は言った。
「例えば、手を下から上げるのって、肩関節を上に180度動かす訳だ。その時、必ずしもパイロットが180度上げる必要無くね? つまりパイロットの動きを拡大してロボットの動作に反映する・・・ってのはどうかと」
「なるほどね。例えば腕を180度動かす時は、パイロットが45度動かして、それを四倍にすればいい。それならダンスホールにならないわな」とメカトロニクス研の三年生。
「普段の動きと違うから、感覚的に慣れる必要あるけど、練習すれば可能かも。それでいこう、じゃ芝田、練習頑張れよ」とコンピュータ研の三年生。
「何で俺が?」と慌てる芝田。
「言い出しっぺはお前だろ」と榊が言った。
早速、パイロットの動作を検出して制御システムに出力するためのセンサーユニットの制作に取り掛かる。
パイロットの座席に取り付け、肩・肘・手首と腰・膝・足に装着し固定する。
座席は足を前後左右に動かせるよう、座るというより跨る形になっている。
そして両手にパワーグローブをはめる。これで指の動きを操作。
基本姿勢は両手を肩で左右水平。肘を前方に曲げ、両足は股関節で前方へ。膝は直角に曲げて足は下へ。
ただし、システムの自動制御による動作も必要だ。
例えば、歩行中に転ばないよう重心をセンサーで感知して自動でバランスをとるための動作は、スムーズに歩く動歩行に不可欠だ。
システムによる動作は操縦席のセンサーユニットに反映して、これを動かす。だからパイロットはこれを受け流しつつ動く必要がある。
センサーユニットが組み上がると、さっそく芝田は練習開始だ。
座席に跨って両手両足を固定したユニットに悪戦苦闘する芝田に、榊が言った。
「システム側からの動作を受け流すよう、適当に力を抜けよな。下手に力入れて張り合おう・・・なんてやると、ポッキリいきかねないぞ」
「怖い事を言うなよ」と芝田。
システムは未完成なので、とりあえずシュミレーションによる練習だ、画面でロボの姿勢を確認しながら、感覚を掴んでいく。
動かしながら、芝田が苦情を言う。
「ところでこれ、どうやって外すんだ? 両手両足に指まで拘束されて、スイッチ一つ触れないんだが」
「動かせない訳じゃないだろ?」と刈部。
「ロボットにスイッチ押す動作させる気かよ」と芝田。
「終わったら外してやるよ」とメカトロニクス研の一年生。
芝田は「自分で外せないのかよ。勘弁してくれ」
パイロットによる機器操作のため、音声入力による操作機能が追加された。
「・・・って訳だ。巨大ロボに乗って戦うSFヒーローだぞ。凄いだろ」
文芸部でわいわいやりながら、芝田が自分達の企画を自慢する。
「何と戦うんだ?」と村上が笑った。
「まあ、巨大ロボは男のロマンって言うし」と斎藤が笑った。
「けど、巨大ったって全長3mそこそこでしょ?」と戸田が言う。
「そこがリアルでかっこいいんだよ。無駄にデカいのは戦場じや目立って集中砲火の的だ」と住田が言う。
「装甲面積も最小限だから防御も固くできるし、小回りも効くし」と村上。
「桜木君の小説って、そういうの出ないの?」と中条。
「短編にはロボが出るのもあるけどね、ああいうのはビジョアルに訴えるものだから、小説だとね・・・」と桜木。
「装甲歩兵ミリアネスのハウンドみたいな奴だな」
住田が言ったその言葉に、秋葉の何かが反応した。
(ミリアネスかぁ・・・)
秋葉は思いついたように、芝田に言った。
「ねえ、それ、ハウンドにできない?」
芝田は「だからハウンドみたいな・・・」
「みたい・・・じゃなくて、デザイン同じにして、これはハウンドですって言っちゃうの。で、ミリアネスのイベントみたいにして、八上美園ライブとコラボするのよ。どう?」と秋葉は言った。




