第142話 今年もまた夏が過ぎて
夏祭りの時期が近づき、村上のアパートで四人がわいわいやりながら、その話題になる。
「もうすぐ上坂神社の夏祭りだね」と村上。
中条が「また桜木君、呼べるかな?」
「で、また秘密基地に泊まって?」と秋葉。
「戸田さんが許可しないんじゃ?・・・」と芝田。
「戸田さんも一緒に来ればいいのに」と中条。
文芸部でその話をすると、その日はデートの予定があるから、との事。
すると「佐藤君と佐竹君はどうかな?」と中条が言い出した。
芝田が佐藤の携帯に電話する。
「地元の夏祭りの準備に駆り出されるからなぁ」と電話で佐藤の声。
「春月神社? あそこは盛大だからね」と芝田。
「民謡流しとかやるよ。君等も見に来ればいいのに」と佐藤。
「気が向いたら、考えてみるよ」と芝田。
「なら、こっちも行けたら行くよ」と佐藤。
芝田が結果を伝えると、秋葉が「じゃ、次は佐竹君ね」
秋葉が帰省している佐竹の家電に電話する。
「無理だな。地元の夏祭りの準備があるんだ」と、電話に出た佐竹はそっけない。
電話を切って、みんなに結果を伝えると、すぐに秋葉の携帯が鳴った。
秋葉が電話に出ると、佐竹の声。
「佐竹だけど、親がさ、祭りの準備なんかいいから、そっちに参加しろって、言い出して聞かなくてさ。やっぱり行くよ。で、秋葉さん。俺呼び出す時、親に何て言ったの?」
「この間、ご挨拶に伺った秋葉ですが・・・って」と秋葉。
佐竹は「そういう誤解を招く言い方、頼むから止めてくれ!」
佐竹は佐藤に連絡し、彼も上坂行きを承諾した。
その後、村上が研究室に行き、実験の当番をこなす。
その時、夏祭りの事を芦沼に話す。
「私も行っていい?」と芦沼。
村上は「いいよ。他の奴等には伝えておく」
祭りの当日、佐藤・佐竹・芦沼の三人が示し合わせて電車で上坂市に向かった。
駅で村上達四人が出迎える。
「秋葉さんと中条は浴衣か?」と佐竹。
「似合うと思うよ」と佐藤。
「本当は真言君と拓真君も浴衣の筈だったんだけど」と秋葉が笑う。
「だってなぁ」と村上は、普段着姿の佐藤達三人を見る。
芦沼は「村上君たちの浴衣、見たかったなぁ」
七人でケーキ屋に入って一息つく。
「桜木は来た事あるんだよね?」と佐竹。
「うん。秘密基地に泊まったよ」と中条。
「秘密基地って、山の中の廃屋とか?」と佐藤が聞く。
「村上のアパートだよ」と芝田。
「人のアパートを秘密基地とか、誰が言い出したんだよ」と佐藤があきれ顔で言う。
「芝田だよな?」と村上が笑う。
「俺だっけ?」と芝田。
村上は「忘れたのかよ(笑)」
「佐藤君たちも泊まっていけるんでしょ?」と中条が嬉しそうに言う。
「七人で・・・って初めてだよね」と秋葉が言った。
「秋葉さんや中条さんも泊まるの?」と佐藤。
「いつも泊まってるよ」と中条。
「村上君は家族、居ないの?」と芦沼。
「父親は遠くで仕事してて、滅多に帰ってこない。中学の時から実質一人暮らしさ」と村上。
「中条さんや秋葉さんは家族居るでしょ? 何か言ったりしない?」と佐竹。
「お祖父ちゃんが居るけど、私、ずっと友達居なかったから、友達が出来たのが嬉しいみたい」と中条。
「私の母は、どちらか捕まえなさい、って言ってる(笑)」と秋葉が言った。
「捕まえるって・・・」と佐藤。
「結婚脳って奴だよ。母親自身、自分の再婚相手として村上の親父狙ってるんだ」と芝田が笑いながら解説した。
一休みすると神社に向かう。
鳥居をくぐると露店が並ぶ。あれこれ買って食べ歩く。
山本・水沢・小島に出会った。三人とも浴衣だ。
「芝田君だ。やっほー」と水沢がはしゃぐ。
「今日は別の奴連れてるのな」と山本が笑う。
「そっちは村上君達のお友達?」と水沢。
初対面どうしの自己紹介で「佐藤です」
「佐竹です」
「芦沼です」
「小島だお」
他の二人が口を開く前に芦沼が「で、こっちが小島君の弟さんと妹さん?」
「何でみんな同じ事言うんだよ」と山本が憮然とした顔で言う。
「この二人も高校の同級生だよ」と芝田が笑った。
「山本だ」
「水沢だよ」
佐藤は「水沢さん、滅茶苦茶モテたでしょ?」
「そうでもないよ。小依に近付くとロリコン認定されるからって、男の子たち避けてたから」と水沢。
「そんな事あってたまるか、水沢さん、こんなに可愛いのに」と佐藤と佐竹が口を揃えた。
「そう思う?」と水沢は嬉しそう。
「ロリコンの同志よ。共に世間の抑圧に立ち向かおうぞ」と小島が二人の肩に手を置いて気勢を上げる。
佐藤と佐竹は慌てて「いや、俺達ロリコンじゃ・・・」
「夏になると変なのが湧くからなぁ」と山本はあきれ顔。
そんな山本に、芦沼は「山本君は何してる人?」
「電気工事屋に勤めてるんだ」と山本が答えた。
「こんなに可愛いのに?」と芦沼。
山本は「いや、背丈は関係無いから」
「可愛いなぁ。この後、どこかでエッチしない?」と言って芦沼は山本に抱き付く。
「そういうの要らないから」と焦り顔の山本。
芦沼は「いいじゃん。弟みたいなんだもん」
「おい芝田村上、この人どーにかしてくれ」と困り顔の山本。
水沢が芦沼の上着の裾を引いて「ねえねえ芦沼ちゃん。山本君は小依のなんだけど」と言って口を尖らせた。
彼等と別れて少し歩くと、津川と杉原のカップルに会った。
「仲良くやってるみたいね」と秋葉が笑って話しかける。
「仕事きついから、癒しってものが無いとね」と杉原。それを聞いて秋葉は笑いながら言った。
「時間は人を変えるものだねぇ。あの、友情を恋愛の犠牲にはしないって、デートの時に私を引っ張り込んで三人デートにしてた、あの杉原が」
「そういう曝露話は止めてよ」と杉原が慌てる。
「秋葉さん、そんな事してたの?」と佐竹が興味深そうに聞く。
「させられてたの。見せつけられ役としてね、私って可哀想な子なの」と秋葉が笑う。
杉原が「違うでしょ、あれは・・・」
「二対一で津川に対して女の感覚で主導権握るためでしょ?」と村上が笑う。
「いや、そんなんのじゃ・・・」と困り顔の杉原。
「二人っきりだと津川がいきなり襲っちゃうんじゃないかと警戒して」と芝田が笑う。
「津川君って野獣系キャラだったんだ。今じゃ想像つかないけど」と芦沼が笑う。
杉原はうんざり顔で「いや、そうでもなくて・・・って、この人達、津川君の知り合い?」
「佐藤と佐竹は中条さんの文学部での友達だよ。芦沼さんは村上の研究室仲間だ」と津川が彼らを紹介した。
「そうなんだ。大学、楽しそうだね?」と杉原。
「役所はどうなのよ。イケメンの先輩とか居ないの?」と芦沼は笑いながら聞く。
「そういうの要らないから」と杉原。
「ところで、津川の彼女でウーマニズムに影響されてる人って、杉原さんの事?」と佐藤は以前聞いた事を思い出して、何気なく言った。
一瞬で場の空気が凍った。おろおろする佐藤。目つきの厳しくなる芦沼。
「ねえ、杉原さん、あなた、人工子宮について、どう思う?」と芦沼。
杉原は状況を把握できない、といった顔で「女性の選択肢を増やすものだと思うわよ」と答えた。
「そうよね、杉原さん、仲良くしましょ」と言って一転して嬉しそうに杉原の手を取る芦沼を見て、杉原は思った。
(何なんだろう、この人・・・)
石段を上がって社殿に向かう。舞殿では巫女が舞っている。
「去年はあれ、岩井の彼女がやってたんだよね」と村上。
「大滝さんだろ? あそこに居るじゃん」と芝田が舞台の向こうを指す。
巫女舞を見ながら岩井に甘える大滝が居た。
「久しぶりだな。東京はどうよ?」と芝田が岩井に声をかけた。
「内山や岸本さんと同じ大学だよな?」と村上。
「あの二人は同棲してるよ。岸本さんは相変わらず男作りまくりだけどね」と岩井は笑った。
「で、部屋に連れ込んだりしてる訳だ」と芝田。
「そういう時、内山はどうするんだ?」と村上
「俺の部屋に泊まりに来る」と岩井は苦笑する。
「けど、あなたも相当モテるでしょ?」と芦沼が興味深そうに言った。
「この人達、村上の友達?」と岩井が訊ねる。
初対面どうしの自己紹介で「佐藤です」
「佐竹です」
「芦沼です」
「岩井です」
「それとその彼女の大滝さん、な?」と芝田が大滝を指して笑う。
「よろしく」と大滝。
「綺麗な子ね」と芦沼が言う。
大滝は「ありがとうございます」と嬉しそう。
「いや、彼氏の方が」と芦沼。
大滝、思いっきり膨れっ面になる。村上と芝田は慌ててフォロー。
「二人ともって事だよ。でしょ? 芦沼さん」
「そ・・・そうね。お似合いだと思うわよ。あは、あははははは」と芦沼も調子を合わせる。
「ねえ、この後エッチしない?」と芦沼はそっと岩井に耳打ち。
大滝が不機嫌そうに咳払いする。
「遠慮しとくよ」と岩井は苦笑した。
「そう。残念ね。けど向こうじゃ岩井君自身、かなり女出入り激しいんじゃない?」
「そう思いますか?」と岩井。
芦沼は「だって岩井君、かなり流され体質でしょ?」
大滝は諦めと決意が入り混じった表情で、きっぱりと言った。
「いいんです。私、そういうの全部許します。高校の時だってそうでしたから。それで来年、東京に行って同じ大学に入ります」
岩井の表情は不安でいっぱいになる。
その時、岩井は急に大滝の手を引いて「俺達、急ぐから」と言って姿を消した。
向こうから浴衣姿の岩井の姉が来る。そして村上達を見つけて、怖い目で尋ねた。
「あなた達、俊也の同級生だった子よね? うちの弟、知らない?」
石段を降りて池のある公園に向かう。
高橋と武藤が辛そうにベンチに座り、大谷は横になっている。心配そうにしている内海と松本。松本は浴衣姿だ。
「高橋さん、膝枕お願い」と大谷。
「私だって痛いのよ」と高橋はあきれ顔で言う。
大谷は「じゃ、松本さん」
「甘ったれるな」と、にべもない松本。
村上は彼等に話しかけた。
「お前等何やってるんだ?」
松本が「村上君、聞いてよ。こいつら、筋肉痛なのに無理してお祭りに出てきて、この有様よ。それで、そっちは友達?」
「同じ大学の佐藤と佐竹、それから芦沼さん」と村上。
「よろしくね」と芦沼・佐藤・佐竹。
松本は自己紹介で「松本よ。調理専門学校に通ってるわ。それとこっちが内海君」
内海が「よろしく。スポーツイベントの会社に居ます。で、あっちでのたうち回ってるのが、大谷に武藤に高橋さん」
村上は大谷たちを見て「彼等、何でこんな事になってるんだ?」
「スポーツ専門学校に入ったんだけど、新しく入ったコーチがやたら練習が厳しいとかで、毎日あの状態よ」と松本。
芦沼は笑いながら大谷に話しかけた。
「大谷君ってヤリチンの人?」
「世界の女は俺のものさ」と大谷。
芦沼は「じゃ、この後、エッチする?」
「そうしたい所だが、腰が動かないんだ」と大谷。
「もう、いい加減帰るわよ」と松本があきれ顔で移動を促す。
大谷は苦悶の表情を浮かべて「限界だ。俺を置いていけ」
「こんな所に居たら死ぬよ」と高橋は必死に彼を励ます。
「探検家が山で死ぬのは本望だ」と大谷。
武藤は大谷の肩を掴んで彼の上体を揺すりながら「眠るな。眠ったら本当に死ぬぞ」
大谷は「いいんだ。お前は生きろ。そして俺という人間が居た事を忘れないでくれ」
「大谷、しっかりしろ」と武藤。
高橋はぐったりした大谷の上体を抱きかかえて「大谷君、目を開けて」
「高橋、お前の体は、暖かいなぁ」と呟いて、大谷はがっくりと首を垂れた。
「大谷君」と高橋は悲しそうに呟く。
武藤は天を仰いで叫んだ。
「天は我等を見放したのかぁ」
芦沼は呆れ顔で松本に「何の小芝居?」
「さあね」と呆れ顔の松本。
六人が、歩けない三人に両側から肩を貸して移動する。
松本が高橋に肩を貸そうとするが、浴衣だと前がはだける危険があるからと、高橋は内海と芝田が担当した。
武藤は佐藤と芦沼が、大谷は村上と佐竹が担当。そして武藤の実家の蕎麦屋へ向かう。
「なあ村上」と大谷は辛そうに言った。
「何だよ」と村上。
大谷は「何で俺の所だけ三人とも男なんだ?」
武藤の父親が出迎えた。筋肉痛の三人を奥に運ぶ。
武藤父は「済まないねぇ、陽菜ちゃん、それに内海君も。それから君達も大地の友達だろ? ゆっくりして蕎麦でも食べていってくれ。俺のおごりだ」
店内で蕎麦を御馳走になる村上達。
「これ、食べてみてよ。私が握ったの」
そう言って松本が出した寿司を食べる村上達。
「これならブッダタンからも満点を貰えそうだね」と、村上が褒める。
「誰?」と芦沼。
「うちの後援会長だよ」と村上。
「松本さん、喜んでるけど、仏の舌が味音痴だって知らないのかな?」と、秋葉が松本を見ながら、言った。
その後、御神輿を見て花火を見て、彼等は村上のアパートに向かった。
アパートに着き、七人で部屋に入る。
佐藤はアパートを見渡して「秘密基地・・・ねぇ?」
「夕食・・・はもう食べた訳だよな?」と芝田。
「じゃ、お風呂にする?」と秋葉。
「みんなで?」と芦沼。
「七人ではさすがに無理だろ」と芝田が言う。
「お前等は四人で入ってるのか?」と佐藤。
「そうだけど」と秋葉。
「桜木君が泊まった時も?」と芦沼。
「私と里子ちゃんで引っ張り込んだわよ」と秋葉が笑った。
「あそこはちゃんと大きくなってたよ」と中条も笑った。
「そりゃそうだろうけど、いいのか? それで」と佐藤と佐竹が呟く。
「じゃ、とりあえずあなた達は四人で入ってよ。私はこの二人と入るから」
「えーっ?」と佐藤と佐竹が慌てる。
「それとも秋葉さんや中条さんと入る?」と芦沼。
「私はそれでもいいけど」と中条が笑顔で言う。
「佐竹君は私のお婿さんだし」と秋葉は笑って言う。
「そうなの?」と芦沼は笑いながら聞いた。
佐竹は慌てて「秋葉さんが冗談で言ってるだけだから」
「けど、佐竹の親は信じてるんだよな?」と芝田が笑って言う。
佐竹は溜息をつくと「芦沼さんと一緒に入ります」
佐藤と佐竹を引っ張って浴室に消える芦沼に、村上が笑いながら声をかけた。
「お湯は汚さないでね」
「大丈夫、やる事は上がってからやるから」と芦沼。
「上がったらやるのかよ」と芝田が笑った。
芦沼達が風呂から上がり、村上達四人も風呂から上がり、居間に布団を敷く。
村上は「布団は三組しか無いが」
「私達、三人で寝るから」と芦沼。
「狭いんじゃない?」と佐藤が不安顔。
芦沼は「それがいいんじゃない」
枕元にお菓子とジュースを置いて雑談が盛り上がる。
夜が更けて、そろそろ寝ようという事になる。
「じゃ、エッチしようか」と芦沼がノリノリで言う。
「まさか七人で?」と佐藤。
「とりあえず三人でやるから、そっちはお好きに」と芦沼。
「いや、人前でって」と佐藤が慌てる。
芦沼は「それがいいんじゃない」
一時間後、七人が全裸で各自の布団の上に横たわる。
芝田と芦沼、村上と秋葉、そして佐藤・佐竹の上では中条が気持ち良さそうに寝息をたてている。
芝田は、もたれかかって寝息を立てている芦沼の頭を撫でながら、隣の布団に居る村上に話しかけた。
「なあ、村上」
「何だ?」と村上。
「どうしてこうなった?」と芝田。
村上は「さあな。ま、いいんじゃね?」
村上は反対側で寝ている中条の安らかな寝顔をちらっと見ると、笑って言った。




