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おどり場の中条さん  作者: 只野透四郎
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第139話 僕達は正義じゃない

夏合宿の夜が深まる中、なお評論会は続く。


「まあ、あっち系の人も、批判されれば反論・・・ってか言い訳めいた事は言うんだが、論理的に全く言い訳になってないんだよね。例えば、政治的な問題で、日本人全部を否定するような暴言を吐く。それでネットで炎上して、一応マスコミもそういう事があったと報道する。で、どう言い訳したか、って言うと"怒りの大きさを示すものだから悪くない、むしろ正しい"っていう自己正当化」と村上。

「それだと、誰かを憎んで殺しても、怒りの大きさを示しただけだから悪くないという理屈になるね」と戸田。

「実際あの暴言も、殺してやる的な代物だったし。けど、怒りってんなら、大きさじゃなくて、その論理的な内容と表現方法の問題だろ。俺はこんなに怒ってるんだぞ、なんてのは感情を武器に相手を脅そうって奴の暴力的発想だよな」と芝田。


「外国の芸能人が原爆バンザイなTシャツ着て喜んでたのが原爆を落とされた国で批判されたって話もあったね。そこの事務所が言うには、あの原爆で戦争が終わったから良かったと言ってるだけで、被爆者に対して他意は無いから悪くないと・・・」と斎藤。

「成り立たないよね。だって何故それで戦争が終わったか、っていうと結局、それで被爆者が大勢死んだから・・・なんだから。その死を喜ぶのと同じよ」と秋葉。

「そういう、言い訳にならない言い訳で、有耶無耶のうちに幕引きした事にする。結局マスコミって、言いっぱなしの世界だから、弁解しましたって事にすれば、その弁解に対する反論があっても、無かった事にする。けど、その弁解が"論理的に成り立たない"って事実は客観的には消えないから」と村上。


「バンドワゴン効果ってのがあってね、マスコミが派手に宣伝すると、何も考えずに流される奴が一定数居るんだよ。そういうのの数を嵩に着る」と住田が解説。

「正しさって"誰が言ったか"じゃなくて"何を言ったか"の問題なのに、その正しさを胡麻化すために"反対派は負け組で知能が低いに違いない"みたいな根拠の乏しい人格攻撃で叩く事で、その主張を中身無関係に発言者ごと否定するのが、最近のマスコミなのよね」と戸田が言う。

「で、自分達の側は勝ち組で知能が高いってか? バンドワゴンに流されるのが知能高いかねぇ?(笑)」と芝田。

「そもそも、皆でバンドワゴンに流されましょう・・・的な風潮をマスコミが作ってきたじゃん。"共感"とか"空気読め"とかさ」と村上が言った。



「利益ってお金の配分だけじゃなくて、むしろ感情的な満足そのものなんじゃないのかな?」と中条が言った。

「でしょうね。他人を否定して相手の上に立ってマウンティングしたい、という感情的な満足を保障しろ・・・ってのが基本だと思う」と斎藤。

「そういう優越的立場を政治的権利・・・ってか特権として認めさせたいのさ。被害者中心主義って、まさにそれだね」と村上。

「けどそれ、人権の基本原理の筈の"対等"を否定するって事だよね?」と中条。

「だから彼等はこの原理から徹底して逃げるんだよ」と桜木。


「昔の戦争の恨みとか言って歴史捏造してる国が、道徳的優位なんて言葉で相手国との対等を否定している。戦後処理だって、そういう経緯を解消して主権国家の正常な対等関係を回復する国際法理念の現れなんだよ。それが終わって対等になった事実から目を背けてる訳だが、そもそも道徳ってのは本来、人権を守るためのものさ。その人権の要である"対等"を、優位劣位とか言って否定する道徳なんて無い。言葉の矛盾だよ」と住田が言った。


「もし、彼らの言う"自らの可能性の最大化"を、もし本当に対等なみんなが・・・って言うなら、経済的権利としては、他人と比較してじゃないなら、ある程度可能だと思う。だって経済って"価値の創造による発展=全体が大きくなる事"でみんなが豊かに、って事だから、みんながその恩恵に預かる事がそもそも目的な筈なのよね。だけど現実のリベルタン主義者がやってるような、マウンティングによる満足、誰かを叩く事による満足は、それ自体が他人の利益や尊厳を否定する事を意味するのよ。結局あれって、自分達のマウンティング欲求を正当化するための嘘っていうか、ただの口実なのよね」と秋葉。


「リベルタン主義の人達が、反対派を負け組だの決め付けるのもマウンティング志向の表れだよね。マスコミの人って"自分達は発言権のあるエリートで一般人の上だ"っていう上から目線丸出しだものね」と戸田。

「自分達はインテリ知識人なのに、生意気な一般人が聞き齧った知識で反論して来るのが気に入らない・・・って言うのな。"奴等は偽インテリもしくは亜インテリだ"とか言うんだけど、肝心な"言ってる中身"の正否の問題が出てこない。つまり反論できない。"インテリである自分の御託宣"を大人しく押し頂いてマウンティングさせろ・・・ってだけで、そんなのだから批判されるんだと自覚しろってね」と村上。

「あと、道徳が・・・とか言うわね。それで常に誰か叩いてるけど、自分達がネットで批判されたら"バッシングされた"とか言って被害者ぶる。具体的な非行が批判されてるのに、更にはそれが社会に大きな被害を与えたてるのに、単に"感情的に嫌われてるだけ"と話をすり替える。誰かを批判するのは自分達だけの特権だと本気で思ってる」と斎藤。



「結局ああいう公教育で他国にヘイトを向ける国と、それを庇うリベルタンって、口先で正しさとか言いつつ、それと無関係に、一方的な好意を強要してるだけなんじゃないのかな? つまり愛と正義の混同だよ。奴等の言ってる事って要するに、愛が無いのは薄情な奴だから嫌われるぞ、嫌われたくないだろ?・・・って訳だろ」と住田が言う。

「"我が国に対する愛は無いのか? お前等に情けの心は無いのか?"とか言って、自分達がヘイトを向ける相手国に、一方的な愛を要求する。自分達に嫌われたくなかったら、そうしろって。嫌われたくなかったら自分たちがヘイト止めればいいのに。要するに"脅してるつもり"なんだよね」と桜木が言って笑う。


「反捕鯨国の政治家が"理不尽でも何でも捕鯨止めれば、俺達の好意を得られるのに、何でそうしない?"と言っちゃうみたいな」と芝田が言って笑う。

「いじめる人が被害者に、我慢して自分の言いなりになっていれば、仲間に入れてやってボッチ認定から救われるのに・・・とか」と秋葉が笑う。

「外国の奴隷になって言いなりになれば、重宝されて好意を得られるのに・・・っていう、あっち系の人の主張とか」と桜木が言って笑う。

「"村上君はモテないでしょ"・・・とか」と村上が言って笑う。

「あれ言ったの私じゃないから」と戸田が慌てた。

「戸田さんが言ったとは言ってないが(笑)」と村上。


「ああいう人達って、自分達には一方的に相手から愛される権利も、相手をヘイトする権利もあるって、本気で思ってるんだよね」と斎藤。

「まあ、被害者だから、少数者だからって事なんだろうけど」と戸田。

「そういうのを認めて貰うと、調子に乗って横暴にふるまったりするんだよね。"土下座しろ"とか"心からの謝罪じゃない"とか言ってるのって、その典型だろ」と芝田が言う。

「だから、そうならないよう、被害者云々の権利義務は法で処理し、それが済めば対等ってのが近代社会の基本なんだよね。つまり、自称被害者だから・・・なんて一方的な愛され権なんて無い」と住田が言う。



「弱者って好意をもって助けて貰わないと生きていけないってのもあると思うけど」と中条が言う。

「本当に生きるためにって場合は好意じゃなくて、税金で支援とかって話だよね。けど好意でって、それ以上の何かって話になるが、強者弱者って、いろんな観点からのものがあるよ。腕力とか経済力とか政治権力とか発言力とか。腕力は強くても金が無いとか」と村上。

「恋愛弱者なんてそうだよね。モテない男が寂しさで死んじゃわないよう、誰かあついら愛してやれよ・・・って言われたらどうするよ、そんな要求呑めないでしょ?・・・って」と芝田。

「それ、ウーマニズムの人がよく言うのよね。そういう事を要求してるんだろ?・・・って。けど、男性が恋愛弱者である自分を愛せ・・・って言ってるの、聞いた事無いんだけど」と秋葉が言う。


「彼女達は、非モテはモテるようになるために努力しろって言ってるんでしょ?」と斎藤。

「典型的な実力主義の論理だよね? そんなので愛せとかそりゃ無理だと思うけど、そもそも、それ主張してるのが、その実力主義に反対してる筈の人達なんだよね」と桜木。


「非モテとしては、愛して貰わなくともオカズ見て自分で出すだけなんだが・・・」と村上が笑う。

「それをウーマニズムの人達が何って言ってるかって言うと、"非モテはマスかいて滅びろ"と・・・」と秋葉が笑って言う。

「滅びるって子孫を残せないって事? 女性に自分の子供を産ませようと思うな・・・って言ったの、自分達じゃん」と戸田が笑って言う。


「まあさ、要するに、誰かに誰かを愛する事を強制する権利なんて、誰にも無いって事だろ。誰かを愛する事を強いられる事もあってはならない。男女も強者弱者も同じ事だよ」と住田が言った。

「愛とか好意みたいな個と個の関係は、双方が作っていくものだよ。だから相互主義が大事なの。捏造歴史と憎悪教育で相手を憎んでる奴らは、俺を愛せじゃなくて、先ず、自分の憎悪を止めろよって話だよね」と言ったのは斎藤だ。

「よく差別問題って言うけど、あれって本当は合理的理由の無い場合を言うんだよ。憎悪に反発するのは差別とは別問題だよ」と住田が言う。



「ただ、大きな主語って言うよね。憎悪を滾らせてない人も中には居るって。それでああいう人達が言うには、むしろ多くの人はまともで、憎悪を滾らせてるのは少数なんだ・・・って。本当かな?」と中条。

「だとしたら、その少数派の要求で、国単位でヘイト剥き出しの外交って、おかしいよね? 国民の多数が憎悪で要求するから、ああいう政策になる訳なのに」と戸田が言った。


「直接会って話せば解る・・・って言うんでしょ? そりゃ面と向かって憎悪をぶつけたりしないだろうさ。マスコミが自分達の憎悪を代弁してるから、その必要も無いし。だけど目の前に憎悪対象が居ない所では、仲間同士で憎悪を叫んだりするんだよ。それに、多くのまともな人・・・っていうけど、その"まとも"の基準って何? って話でね。彼らが個人として、歴史の捏造や矛盾をきちんと認識して、相手の指摘と向き合えるかって言うと、そうじゃなかったりする。中には向き合える人も居るんだろうけどね」と村上。


「個人が直接会える人なんて、人数も種類も限られてるし、会った時に見せる顔だって、ごく一部の、計算した顔しか見せないでしょうね。だから国全体でどんな顔を見せるかってのが大事で、しかもその国の顔は、彼ら個人の多くがそういう顔を要求して、ああなってるんだよね? そしてそれが相手国に被害を及ぼす訳よ。どっちを見るべきかなんて一目瞭然で、会えば解るなんて騙し目的としか思えないわよね」と戸田。

「木を見て森を見ない・・・っていうより、木だけを見て森を見るな。そして騙されろ、って訳だな?」と芝田が笑った。


「現実問題として教育で刷り込んだヘイトはその国の文化になる。だから民族総体としてどうか、って言わざるを得ない。同調圧力があるから解ってても逆らえない可哀想な人達なんだ・・・って言う人も居るけど、そりゃ甘えだよ。その甘えを許して国際的な立場を否定されるのは実害だし、ヘイトという"許してはいけないものを許す"事で、いろんな独裁者がそれを真似る。隣国を侵略した大陸国の独裁者だってそうだよ」と住田が言った。

「いじめに加担してる子供の言い分と同じよね。周囲で囃し立てたのは仕方なかったんです・・・って。それだって同罪だって子供に指導してる大人が、自分達が居る社会で、そういう国ぐるみのヘイトを仕方ないとか言って正当化する。恥ずかしく無いのか?って思うわよね」と斎藤。


「ああいう国の人、"実はお前達の国を嫌ってる訳じゃなくて、本当は関心があって大好きなんだ"・・・とか言うけどね」と中条。

「それもいじめと同じかな? いじめてる側は被害者を必ずしも嫌ってる訳じゃない。支配できる相手としての関心はあるんだよ。ああいう国の人も同じで、だから嫌ってる訳じゃないのに・・・とか言って、だから自分達を嫌わないでくれとか言う。けど偏見も実害も容赦ないから当然嫌われる訳。問題なのは、事実を見ない・対等を認めない・支配欲全開・・・ってな"相手に対する姿勢"で、その上で"実は大好きなんだから嫌わず言いなりになれ"・・・はストーカーと同じだよ」と住田。



「ああいう国の人達の主観だと、言う事聞けば自分達も好意を与えてやるのに・・・って言うんだよね。で、その好意とやらの中身が"加害者であるお前等を赦してやる"って上から目線で、その"赦し"って何かって言うと"嘘でも丸呑みする奴隷"として利用してやるとか"報復としての皆殺し"を勘弁してやるとか」と村上が言う。

「皆殺しとか言っちゃうの?」と中条が言う。

「学校で子供に、相手国を核ミサイルで火の海にする絵を描かせて貼り出すとか」と桜木。

「教師が小学生に"あいつら皆殺しにしたいよね?"って煽動してるとか」と住田。


「自己否定論ってのがあってね。"憎悪している対象国内での彼等の同調者"が代弁してるんだが、こんな事言ってるんだよ。・・・"原罪を負っている自分たち(つまりヘイト対象国民)が為すべきことは、自らが所属する国と民族を徹底的に断罪し抹殺しなければならない"・・・ってね」と村上が説明。

「思いっきりホロコーストじゃん」と秋葉が声を上げた。

「"自主的にって事だから"と正当化したいんだろうけど、民族に対する自殺強要だから同じ事さ。しかもヘイトする外国のために・・・ってんだから、まさに侵略的虐殺思想だよ」と住田。



「けど、そこまで言うのは一部の過激な人達で、普通は殺すとまで言ってる人は多くないんでしょ?」と中条は心配そうに言った。

「少ないか・・・ってのも疑問だけど、そこまで言わないにしても、じゃ、殺さなければいいのか? って言うと、例えば、国際的二等市民として差別してやる・・・ってのはいいのか?、って。実質、本気でそういうのを肯定してる奴は多いよ」と住田。

「それだって駄目だよね」と中条は言った。


「まあさ、そんなのを"赦し"だなんて思ってる奴の"赦し"なんて要らないよな。対等な他者として共存できれば十分ってのが近代であり、それは赦しとか無関係に双方の義務だ。それを彼等が踏み躙りまくってるのが問題だよ」と桜木。

「愛だの赦しだの原罪だのって、キリスト教の概念だよね? だから、そういう台詞に信者が飛びつくのさ。ああいう運動に関わるキリスト教団体って多いよ」と住田が解説。

「結局宗教かよ」と芝田は笑った。



更に評論は続いた。次第に話は軽口めいたものになっていく。


「あるテレビ対談で、ウーマニストが"男には勝手に発射する権利は無い"って発言した事があったのよ」と秋葉が話題を振った。

「発射ってまさか射精のこと?」と村上。

「中出しの事じゃね?」と芝田。

「中出しって何?」と中条が聞く。

「避妊具付けずにやっちゃう事だよ」と村上。

「まあ、それなら解らなくも無いが」と桜木。


「ところがそれ、レイプ事件の話題での話でね、しかもそのレイプ犯が避妊具付けてて、それで話題になったんだけど」と秋葉が補足。

「だとすると、仮に発射が中出しだったら、レイプ犯擁護する事になるけど」と戸田。

「いや、それは無いから」と住田。

「だったらやっぱり射精じゃん。男が自分で出す権利否定するとか、それは無いわ」と芝田。


「けど、そのためにオカズになるポルノは規制されてるよ」と桜木。

「規制されてない国もあるけどね」と斎藤。

「モデルの羞恥心を保護するため、ってのは解らんでもないが、モデルの居ない二次元を規制しようって話もあるよね」と村上。

「男が勝手に性欲を満足させるのは女として嫌だ。男は性欲で自分達に支配されろっていう感情なのかいな(笑)。それを勝手と言っちゃうあたりが既にアウトだよね」と桜木はあきれ顔で言った。

「自分の彼氏が勝手に出すのは嫌だって睦月、言ってたよね?」と芝田が3年前の話を持ち出す。

「いや、あれは半分以上冗談だから」と秋葉は慌てた。


だが、戸田は「けど、私も桜木君が自分でやっちゃうのは嫌だ」

「いや、男の生理現象として定期的に出さないとストレス溜まるんだよ。女は生理があるから気持ち悪いって言われたら、どうする?」と村上が困り顔。

「桜木君が出したいってんなら、わた・・・」

戸田が勢いまかせに口を開いて言いかけたが、途中で赤くなって口ごもる。

「わた?」と男子たちが追及。

戸田は「わた、わた、綿飴食べたいなぁ・・・あは、あはははは」



夜も更けて、そろそろ終わりかな・・・と彼らが思った頃、住田が村上に言った。

「最後にひとつ確認したいんだが、村上は自分が正義だと思うかい?」

「俺自身も含めて、この人が正義だ、なんて奴は居ないですよ。正義ってのは人や立場というより、個々の問題に対する答えでしょ?」と村上。

「真言君が言ってる事は、正義だと思う」と中条が言った。

「正義の側の人ではある・・・と、ね?」と住田。


「移民で祖国の憎悪政策に同調してる人達に出て行け・・・って言ってる人達って居るよね?」と中条が心配そうに言った。

「出て行け・・・そのものは正義とは違うね。正義って個々の権利を調和させるものだから、追い出そうというのは闘争であって、それに自体には正義も悪も無い。その問題で正義ってものがあるとするなら、それは"その移民が移住先の主権者の立場と尊厳を認めて和解する"って事だろうね。上から目線の"赦し"とかじゃなくて、本当の意味での和解をね」と村上。

「ただ、そういう事を言うと逆に調子に乗って、"和解という正義を実現するために、自分達を宥めるべく譲歩しろ"とか言い出すかもね」と秋葉。

「それは成り立たないだろ。主権者の尊厳を認めない時点で移民側は、相手の反発の仕方と無関係に悪なんだから」と村上。


「そもそも、ああいう"出て行け"って言う人達って、実は必ずしも自分達が正義だとは思ってないでしょ? むしろ正義とか人権とかって概念に絶望して、ああなっているんじゃないのかな?」と桜木。

「その国の主権者として、そういう権利はある・・・って考え方もあると思うけど。それを行使するという意味で正義だというのは否定できないかもね」と戸田。

「外国での自分達の権利が蔑ろにされてきたからなぁ。それも含めて、今言われてる正義とか人権とかが偽物だから、そうなるんだろうね。人権とか言ってる奴らなんて信用するもんか・・・って。彼らの"国民としての立場や尊厳"を含めて、守ろうってのが本物の正義や人権だから」と住田。



「個人としての立場があれば民族としての尊厳なんて要らないだろ?・・・って言ってる人達も居るよね」と戸田。

「それは間違ってるよ。北方で昔の時代に支配が及んで国の一部になった異民族に対して、彼らが昔から生活の知恵として持っていた独自の伝統文化を尊重し、土人なんて言い方を止めて民族の尊厳を認めようってのがあるでしょ? それと同じで、自分達の民族としての尊厳を守るのは、自分達の人権の一部だよ」と村上。

「昔支配されて悔しいから仕返ししてやろう、なんてのは、民族の尊厳じゃないけどね」と芝田。

「むしろ、仕返しだとか言って、これから支配しようってのは人権侵害だよ。そういう所謂"対等な民族の自由"って、内外で概念として認められて定着した中で、生きて来るものだからね。彼らは納得できないって言うだろうけど、その概念が定着したお陰で、彼らはそれまでの支配から解放されたんだからね」と村上。

「ソクラテスが法を守って死んだのも、その法秩序がこれまで自分達を守ってきたんだから、って論理だったね? それと同じよ」と斎藤。


「問題はその"納得できない"という、その"納得"の中身だよ。彼らは自分達が解放されたんじゃなくて、戦争に参加して勝ち取ったんだ・・・って事にしたいって言ってるんだよ。彼らの言う"臨時政府軍"というのがどの程度実態のあるものだったのかは置いておくとして、まあ、他の戦勝国から認めて貰えない程度のものだったのは事実なんだけどね。つまり彼らは"戦勝国の一員"として"暴力で好き勝手する"という仕返ししたかったのに、それが出来ないのが悔しいと、そう言ってるんだよ。その"暴力"を"悪として否定する"ための戦いだ・・・ってのが名分の筈なのにね」と村上。


「つまり彼らは"悪しき加害者"になりたかった。なのにその加害をさせて貰えなかったのが悔しいと。だから、その加害を"なし崩し的に実行してきた"のが、これまでのヘイト政策って訳だ。それを"感情だから仕方ない"とか言う奴らって何なのだろうと。それって明白に悪であり、自ら悪の側を選んでいるって事だよね」と桜木。

「でも報復の権利はあるって訳だ。だから相当な額の和解金的なお金を貰った上での"和解のための条約"を結んだ訳だよ。しかも、国内にあった相手国民の財産まで没収し、相手国民の引き上げに際して行った"相当酷い暴力"までチャラにして貰ってね。それでも"足りない"って言う。自分達が一方的に突き付けた報復内容じゃないから・・・って理由でね」と住田。


「それが"別な戦争で受けた被害から立ち直る"ために仕方なく結んだ条約だから悔しいって言うんだよね? 和解を拒否する権利だってあったのに、"足元を見られた"んだって。けどそれは成り立たないよ。相手方だって相当な譲歩をした結果の条約なんだから。そもそも、その"過去の支配"自体が、当時の国際社会の常識に適応した中でのものだった。だから、ああいう条約になった。誰もがそういう社会の仕組みに順応するため、犠牲を払いながら生きてきた。それを前提に正否を考えようってのが"歴史に善悪を持ち込むな"って事であり、それが客観的に見るという事であって、誰かを免罪にとか、そういう話じゃない。"法の不遡及の原則"だって、そのためにある。それが人権を守るって事さ」と村上。



「民族ってのは文化を共有する集団なんだよね。どんな文化を持とうが自由だけど、"あいつらは戦犯民族だ"とか言って他民族の"対等な権利と尊厳"を否定する憎悪思想を自分達の文化だから認めろって言うのは、人殺しの権利を主張するのと同じだよ」と桜木。

「そういう文化を、自分達のアイデンティティーだとか言って、憎悪を吐き続けて止められません、ってなったら、じゃ勝手にしろって話になるわな」と芝田。

「そういう憎悪に拘ってない人だって、その移民の人達の中には居るんだろうけどね」と中条。

「むしろ、憎悪政策をとる祖国への服従を要綱に掲げる民族団体の問題で、その憎悪を強制された被害者って要素は、もしかしたら、あるのかも知れない。けど、だからって憎悪向けられてる側が我慢して大目に見ろ・・・は無いわな。それは自らの権利を放棄しろって事だ」と桜木。


「その、じゃ勝手にしろ、自体はそもそも正義じゃないんだよね。それは闘争だから。自分達の力と意思で好き勝手やれって世界になる。その闘争の責任となると、結局、文化としての憎悪を維持している人達にあるんだけどね」と村上。

「ただ、その憎悪文化に固執して、それを闘争にした側の責任を追及するのは正義だよね」と戸田。

「彼らはその闘争で相手を負かして強制するのが正義だ、と思ってるんだよね。けど、闘争で勝者が勝ったのは力によるものであって、彼が正義かどうかとは無関係だ。だから、力の正義なんてものは論理的には存在しないのさ。もしかしたら、正しいから支持されて勝ったんだ・・・って言うかも知れない。けど、ここまで宣伝・扇動による騙しが横行するとね。ナチスがドイツで支持されたのは正しいからじゃないでしょ? って」と住田。


「ただの闘争で、正義の名を騙って相手を一方的に縛ってサンドバッグになれって言うのは、騙しだよね」と斎藤。

「騙しを騙しと指摘する事自体は正義と言えると思う。事実に対してきちんと向き合う事は正しいよ」と戸田。

「それを認めない偽物が公的なマスコミで正義ヅラするから、そんな正義や人権はもう信じないって話になるんだが、必要なのは、自分達も含めて、本当の意味で守ってくれる本物の正義の基準をちゃんと認識しようって事なんだと思う」と村上。


「そもそも、誰かに反対する事自体が正義じゃない。その誰かが不当なら、どう反対するかの問題だよ。あっち系の人達はそこを勘違いして、正義そのものになれると思っちゃったんだろうね。それは違うってのは、俺達もあっち系も同じだと思うよ」と桜木。

「批判するのは簡単なんだよ。ソクラテスもソフィスト達をバンバン批判して論破したけど、真実は自分も知らないと言ってる」と住田。

「けどソクラテスも、いろんな場面で主張して他と対立したのは、彼自身がその意見を正しい=その場での真実だと思ったからですよね?」と村上。

「だから、無責任な政治家は"反対のための反対"になる。"あちら立てればこちらが立たず"・・・みたいな問題は、特にね。そういう批判が駄目だってのは、全体を俯瞰すれば解るんだけど、それをしない人も多い。それが出来るかどうかが、本当の意味での知能だと思う」と秋葉が言った。



そろそろ寝ようという事になる。


「村上君たちは四人一緒がいいでしょ?」と斎藤が笑った。

「私達は?」と戸田が不審顔。

「中条さんたちと6Pする?」と斎藤。

「それは要らないです」と村上。

「だったら桜木君と戸田さんは、こっちの部屋ね?」

斎藤はそう言って、戸田と桜木を引っ張って行った。


やれやれ・・・という表情で芝田が言う。

「先輩達、やる事前提になってないか?」と芝田はあきれ顔。

「やらないの?」と秋葉が笑って言った。

村上は「とりあえず布団に入ろう。それから考えればいいさ」

4人、それぞれの布団に入る。


そのうち中条が村上の布団に潜り込む。

「睦月もこっちに来るか?」と芝田が言う。

「こういう時は男が女の所に来て迫るものじゃないの?」と秋葉が笑う。

芝田は秋葉の布団に入り、二組の男女が布団の中でじゃれ合う。やがて・・・



翌朝、男子部屋に住田達が顔を出す。

「昨日の4Pはどうだった?」と斎藤がからかい半分な口調で村上たちに言う。

「やった前提ですか?」と村上は苦笑。

「やらなかったの?」と斎藤。

「やりましたけどね。そっちは?・・・」と秋葉。

戸田が顔を出して、言った。

「私達は4Pなんてやってないからね」

「別々にやるのは4pじゃないものね」と横から斎藤が口を挟み、笑った。

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