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おどり場の中条さん  作者: 只野透四郎
136/343

第136話 波打ち際の中条さん

夏合宿で海岸沿いの温泉に行った文芸部の部員たち。

八人の男女は海岸でシートを敷き、荷物を置いて上着を脱ぐ。


女子達が上着を脱ぐと住田は「やっぱり秋葉さんは別格だな」

「持つ者と持たざる者の違いってやつね」と秋葉は自慢げ。

「けど村上はつつましい胸が好きだって言ってたけどね」と芝田が笑って言う。

「貧乳好きって、村上君、もしかしてロリコン?」と斎藤が怪訝そうな表情。

村上は焦り顔で「ちち・・・違いますよ。里子ちゃんがこうだから、そういう好みになっただけです。あは、あははは」

「中条さん、愛されてるんだ」と斎藤。

「いいなぁ」と戸田。


嬉しそうに村上に抱き付く中条を見て、斎藤は戸田に耳打ちした。

(中条さん滅茶苦茶喜んでるけど、もしかして村上君の言い訳、本気にしてる?)


その中条は村上に頭を撫でられながら言う。

「けど、斎藤先輩や戸田さんみたいなバランスのとれたのがいいって言ってる人もいるよ」

「誰?」と斎藤。

「津川君」と中条が答える。

「あの経済活動研究会に行った子? そんな人材を逃しちゃったの? 惜しいなぁ。今からでも首に縄付けて無理矢理入部させようかしら」と斎藤が嘆いてみせた。

秋葉は笑って「斎藤先輩の言う人材って・・・」



男子も上着を脱ぐ。

「芝田君って筋肉あるんだ」と斎藤が言った。

芝田は「鍛えてますから。村上と違って」

「芝田は肉体派だもんな」と村上が口を尖らす

「何言ってる。男は古来から筋肉があってナンボだ」と芝田。

「この動力機械のある時代に、それは通用しないと思うぞ」と村上。


この言い合いに住田が割って入り、言った。

「いや、男の価値は筋肉だぞ」

「そうですよね」と芝田は嬉しそう。

「芝田も頑張って体鍛えたんだよな。偉いぞ」と住田。

「はい、頑張って鍛えました」と芝田。

「解る。細マッチョはモテの基本だものな」と住田。


「へ?・・・いや、俺、別にモテたくて鍛えた訳じゃ・・・」

思わぬ方向に話が行き、芝田は慌てたが、住田の暴走は止まらない。

「何言ってる。海は筋肉の晴れ舞台だぞ。上腕二等筋に聞いてみろ。ビキニの女が呼んでるって言ってないか?」

「そういうの要りませんから」と芝田。

住田は「臆してどうする。ナンパは男のロマンだ」


斎藤が住田の後頭部をハリセンで叩いて、言った。

「住田君、後輩に変な事教えちゃ駄目でしょ。また自分の彼女放ったらかしてナンパに走る気?」



わいわいやりながら水の中で遊ぶ八人の男女。

村上が中条の両手を引いて、バタ足の練習ごっこ。そのうち、芝田と村上で中条の両手を引いて、二人で水底を走る。

やがて泳ぎ疲れた中条が水から上がり、砂浜で山を作って遊ぶ。

「何作ってるの?」と男子達。

「砂のお城だよ」と中条。

「じゃ、みんなでお城作りの競争だ」と、男子たちは作品作り開始。


桜木が安土城を真似ようとするが、軒が造れない。

「そこまで真面目に作らなくても」と村上が笑う。

「村上のは何だ?」と桜木。

「二条城だよ。修学旅行で行った奴が居たんだ」と村上。

「ただの台形だが」と桜木。

「天守台だよ。建物は火事で焼けたらしい」と村上。

桜木は「いいのか? それで」


「芝田のはお握りか?」と村上。

「失敬な。宇宙要塞バ・アオア・クーだぞ」と芝田。

「小惑星刳り貫いた代物だからな」と桜木。


「住田先輩のはただの山じゃん」と芝田。

住田は「白壁の五階建てみたいなのは安土城から。戦国時代の城はみんな、山に崖切って陣地作っただけの山城だよ」

そんな彼等を見て、戸田は隣に居る秋葉に言った。

「うちの男子って、何でみんなこう、手を抜きたがるのかしら」



遊び疲れて一休み。

ジャンケンで負けた人がジュースを買いに行く・・・という話にらなって、中条が負ける。

買いに行こうとする中条を見て桜木は「何だか胸が痛むのは何故だろう」


「こういうのは男子の役目だと思う」と戸田が言う。

「四人も居て、気が利かないなぁ」と秋葉が言う。

「そういうのは先に言えよ」と村上。

「ってか戸田さんや睦月なら、こうはならないと思う」と芝田。

秋葉は「何か言った?」

芝田は「いや、たぶん空耳だと思うよ。あは、あははははは」


男子四人でジャンケンして住田が負ける。

買いに行くが、なかなか戻って来ない・・・と思ったら、住田は三人のビキニ姿の女性を連れて歩いていた。

「何やってるのよ」と斎藤が住田を詰問する。

「いや、そこで意気投合しちゃってさ」と住田。

「で、ジュースは?」と斎藤。

住田は「忘れてた」

「あんた、ひょっとして彼女居るの?」と住田と一緒に居た女性が怪訝な顔で言った。



夕方になって旅館に戻った。


男女二部屋が用意されている。

中条が「寝るのは男女別々ですか?」

「まさか。便宜上よ」と斎藤が笑った。



浴衣に着替え、入浴しようという事になる。男女に分かれて浴室に入る。

他に何人かの宿泊客が居る。大抵は中高年だ。

斎藤と住田が仕切り越しに声をかけ合う。


「そっちはどうだ?」と住田。

斎藤は「戸田さん、面白いわよ。からかい甲斐があるっていうか」

秋葉と芝田が釣られて仕切り越しの会話に加わる。他の客が笑いながら話しかけた。

「向こうに居るのは彼女さんかい?」

「ご迷惑だったでしょうか?」と村上。

「いや、結構な事だと思うよ。この少子化の御時世、せめて相手の居る人に頑張って貰わなきゃ」と男性客。


他の中高年客も乗って、男湯ではその話題で盛り上がる。

「うちの息子も、なかなか相手が居なくてね」

「うちの娘もだよ」

「いや、今日び女性は選ぶ側でしょう」

「それが婚活というのに通ってるんだが、さっぱりでね」

「うちのもだよ。このあいだ同窓会があって、同級生捕まえるんだって張り切って行ったのに、さっぱり」

「うちの孫は三人ともさっぱり」


そんな彼等の会話を聞きながら、住田は村上に言った。

「さっき配膳してた宿のおばさんから聞いたんだが、この旅館には"さっぱり妖精"というのが出るらしい」


仕切越しの会話を聞きながら秋葉が笑う。

「何だか男湯の方、盛り上がってるね」

女湯の方でも泊り客のおばさん達が子供や孫の結婚難の話を始めた。

中高年客どうしの会話が盛り上がる中、村上達は浴室から出た。



脱衣場を出ると卓球台がある。

芝田が「村上、勝負だ」

「お前とは勝負にならなかっただろ?」と村上。

戸田が怪訝そうな顔で「村上君って強いの?」

「いや、俺が芝田に歯が立たないんだよ」と村上。

「そういう事を余裕顔で言うのが真言君よね」と秋葉が笑う。

「俺は頭で勝負する派だ」と村上。

芝田は相手を変えて「なら桜木、卓球やろうぜ」

「いや、俺も頭で勝負する派だから」と桜木。


「だったら俺が相手だ」と住田が進み出た。

住田と芝田が卓球台で向き合う。打ち合いは白熱し、なかなか勝負がつかない。

「あー、汗かいた」と住田。

「また温泉に入る?」と斎藤。

住田は「それより腹減った。そろそろ夕食だろ」



男子部屋に食事が運ばれ、八人でお膳に向う。海の幸が豪華だ。


「ビール、貰えます?」と住田が宿の人に言う。

「これから論評会じゃ?」と村上が言った。

「ほどほどのアルコールは舌の回りを良くするぞ」と住田。

「回りは良くても、中味が伴わなきゃ」と村上。

「固い事言うなよ。村上も飲め」と住田。

「俺、あまり飲めないんですよ」と村上。

「鍛える気が無いからでしょ?」と秋葉が笑った。

「睦月さん、お母さんと同じ事言うんだね?」と村上。

「真言君こそ、お父さんと同じ事言うのね?」と秋葉。


食事をしながら会話が弾む。

ジョッキのビールを気持ちよさそうに飲み干す住田。

そして「あー・・・」と住田が言いかけると、すかさず村上が「この一杯のために生きてるんだー・・・ですか?」と笑って口を挟んだ。

住田は「何で解るんだよ?」と笑う。

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