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おどり場の中条さん  作者: 只野透四郎
133/343

第133話 水沢さんの5人デート

その頃、上坂高校では進路決定の時期になっていた。

進学を決めた生徒は、希望する学校を決めるため、各学校で実施するオープンスクールに参加する者が多い。

保育の専門学校を希望したバスケ部の沢口もまた、見学先を物色していた。

そして卒業生が進学したという事で、春月保育専門学校のオープンスクールに参加した。

ここに進学した卒業生というのが水沢だ。


各地の高校から参加した20名ほどの高校生と一緒に沢口は職員から説明を聞く。

ここの教育システムの目玉が、隣接する保育園での保育実習だ。多くの園児、特に小さな男児が駆けまわる姿に、沢口は思わず涎を拭いた。

そして(か・・・可愛い)と心の中で呟く。

何人もの女性保育士とともに、少数だが男性保育士も居る。

そして実習生として園児と遊んでいる中に、小学生と見まがう小柄な女子が居た。卒業生の水沢だ。

沢口は彼女と面識がある。入学した直後にバスケの大会で助っ人として参加したのが水沢と山本だった。


オープンスクール参加者を前に案内役の講師が保育実習について説明する。

彼等をちら見する実習生たちの中で、水沢が沢口に気付き、実習中にも拘わらず「バスケ部の沢口ちゃんだ。やっほー」

他の見学者たちが口々に「何? あの人」



休憩時間になる。休憩中の実習生の水沢が沢口に話しかけた。

「水沢先輩、お久しぶりです」と沢口。

「2年の大会の後に入った人だよね?」と水沢。

「はい。さっきの、大丈夫でした?」と沢口が聞く。

水沢は「怒られちゃった」と言って笑った。


「ところで、山本先輩は元気ですか?」と沢口。

「元気だよ。電気屋さんでお仕事してるよ」と楽しそうに言う水沢。

「内山先輩は?」と沢口。

「東京の大学に居るよ。岸本さんと一緒」と水沢。

「そうですか。内山先輩、モテてるんだろうなぁ」と沢口は遠い目で言う。

水沢は「小依も内山君、大好き。山本君と居ると楽しいけど、内山君、優しいよね」


沢口は言った。

「内山先輩、女性の扱い方、上手なんですよね」

「沢口さん、内山君の元カノだもんね」と水沢。

「あの人、大谷先輩と二人で岸本さんと付き合ったでしょ? 大谷先輩ってヤリチンだから、岸本さん、内山先輩に女の子の扱い方学ばせるために、大谷先輩と3人でデートしたんだそうです」と沢口。

水沢は「そうなんだ」と・・・。



やがて休憩時間が終わり、見学生は見学を再開。

少しだけ園児と触れ合う体験もあり、沢口は幼い子供を前に表情が緩んだ。

予定を終了して沢口達が去るのを水沢は遠目に見ながら、山本とのデートを思い出す。

相変わらずそっけない彼の仕草を頭に浮かべて、水沢は呟いた。

「誰かと一緒にデートしたら、山本君も、もっと女の子に優しくする事、学んでくれるのかな?」

誰かとダブルデートを・・・と思った時、水沢は村上や芝田に甘える中条を思い出した。


その週末、山本とのデートで話を持ちかけた。

「高校の時の友達と会いたくない?」と水沢。

「小島とはこの前、会ったろーが」と山本はいつもの調子だ。

「じゃなくて、中条さんとか」と水沢。

「あの人と居て楽しいか?」と、山本は口下手な中条を思い出して、言った。

「村上君とか」と水沢。

「イベントでアイディア出す時は使えるんだけどな」と山本。

「芝田君とか」と水沢。

「あいつら呼んでサッカーとかバスケとかやるか?」と山本。

水沢は「あのね、ダブルデートがしたいの」


山本は芝田とはそれなりに気が合う。単純で悪戯好きでやんちゃな芝田を水沢は「大きな山本君」と呼んで、それなりに懐いていた。

何より、彼と村上に甘やかされる中条を、水沢は羨ましいと感じていた。

山本の了解をとった水沢は、芝田に連絡をとった。芝田は何も考えずにОKし、水沢と計画を立てた。



当日、山本が車を出して、向かったのが羽子板温泉だ。

「水着で混浴の温泉だってさ」と山本が言った。

「最近多いみたいだね」と中条が言う。

「カップルで来たのに男女別々じゃ残念だからね」と村上が笑う。

「他にもあるの?」と水沢が聞く。

「この前、宝野温泉って所に行ったよ」と中条が言った。

「そーいや、温泉巡りなら睦月も呼んだ方が・・・」と秋葉の趣味を思い出した芝田が言った。

「俺、あの人、苦手だ」

そんな山本の言葉を聞いて、村上は人をからかうのが大好きな秋葉と山本のやり取りを想像した。



受付で手続きし、建物に入る。

浴槽というより温泉プールに近い。お湯の中ではしゃぐ水沢と山本。


芝田が中条を背中に乗せて人間浮袋をやると、水沢は山本に「あれ、やって」

「山本のサイズじゃ無理だろ」と村上が笑う。

「俺がチビだって言うのかよ」と山本が口を尖らす。

「事実だと思うが」と村上。

山本は「馬鹿にすんな。見てろよ」と言うと、水沢を背中に乗せて泳ごうとし、一瞬で沈んだ。


「芝田にやってもらえば?」と村上が言った。

「いいの?」と水沢。

「やってもらえよ」と山本も言う。

水沢は「けど、それだと意味無いんだよなぁ」

それを聞いて村上は思った。

(ひょっとして、俺達が里子ちゃんにしてる事を真似たかったのかな?)


村上と芝田は、ひそひそ相談する。

そして「おい、山本、手を出せ」と・・・。

芝田と村上が山本の両腕を支えて、その背中に乗る水沢。釈善としない表情の山本の背中で水沢がはしゃぐ。

「これってバタ足の練習させてもらってる子供みたいなんだが」と山本。

「でも水沢さん、楽しそうだよ」と中条が楽しそうに言った。

「うん、とっても楽しい」と水沢もはしゃぐ。



食堂でショートケーキと飲み物を注文。中条が芝田の膝の上に乗る。

「あれ。やっていい?」と水沢がねだる。

「あんな恥ずかしい真似、出来るかよ」と山本。

「山本のサイズじゃ、絵にならないものな」と村上が笑いながら言う。

すると山本は「馬鹿にすんな。乗れよ、水沢」

「わーい」


芝田が背後から中条を抱きしめる。

「山本君、小依もだっこして」と水沢がねだる。

山本は「あのなぁ」

「里子は胸にすっぽり入るサイズなのが、いいんだよな」と芝田が笑いながら言う。

「のろけかよ」と山本。

「山本のサイズじゃ、胸にすっぽりとはいかないだろ」と村上。

「馬鹿にすんな」と言って、山本も水沢を抱きしめる。


村上は自分のショートケーキをスプーンで掬って「ほら、里子ちゃん、あーん」

中条がそれを美味しそうに食べる。

「山本君、あれ」と水沢。

「だから、あんな恥ずかしい真似・・・」と山本。

「自分のケーキが減るのが嫌だと?」と芝田と村上が笑って口を揃えた。

山本は「俺を何だと思ってるんだよ。ほら、あーん」

「わーい」とはしゃいで水沢は口を開ける。

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