表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おどり場の中条さん  作者: 只野透四郎
13/343

第13話 村上君ちの今日の食卓

 中条が村上のアパートに出入りし、しばしば夕食を食べて行くようになった。食材やお菓子はよく芝田が買ってくる。

「自分達で食べてる分を、それで補ってるんだ」と彼女は気付いた。

 そして、自分がいつも二人から奢ってもらっているのを思い出し、これからは自分も何か差し入れを買って来よう・・・と考えるようになった。


 そのうち中条は、ある事に気付いた。村上のメニューは常に同じなのだ。

 夕食には肉と野菜の入った煮物で、醤油とみりんで出汁をとる。そして味噌汁とサラダと、あの「世界一簡単な卵料理」だ。

 不味くはない、むしろ美味しいと中条は思った。だが毎日同じで飽きないのだろうか・・・。


「一人暮らしだから一度作ったら食べるのに数日」と村上は言う。何度も煮るから具がとろけるように柔らかい。

 だが、食べ終わったらまた同じものを作るのだ。季節ごとに野菜は違っても、基本は変わらない。村上はそれで不満を感じないという。

「ずっとそれで飽きたりしないの?」と聞くと芝田が「時々カレーとかも作るけどね」と口を挟む。

 すると村上は「なんせみりんや醤油の代わりにルーを入れればいいだけ」

「しかも味噌汁もサラダもいらない」と芝田。


 この人と結婚したら、さぞかし楽なのだろうな・・・と中条は思った。けどそれでいいのか?。



 (何か作ってあげたい)と思うようになった中条は、祖父に「料理を教えて欲しい」と頼んだ。彼女はこの時初めて、炊事を祖父に任せっきりである事に引け目を感じた。

 祖父は孫娘の申し出を嬉しいと思ったが、もちろん自分に・・・という訳ではない事も知っていた。

「友達に作ってあげたいのかい?」と中条祖父。

「うん」と中条。

「だったら、私の知ってる料理なんてたかが知れてる。料理の本か何かで勉強した方がいいと思うよ」と中条祖父。


 次の週末。中条は本屋に行って料理の本を買い、とりあえず肉じゃがを・・・と、材料を買ったものの、うまく作る自信が無い。

 とりあえず家で練習を・・・と、祖父に「自分が夕食を作ってあげる」と言って、台所で本の通りにじゃがいもを剥き、玉ねぎを刻み・・・。だが、鍋の底で油で炒める時、どうしても焦がしてしまう。

 悩んだ末に、祖父に焦がさないコツは無いか相談し、「油は十分に、後で煮るのだから芯まで火を通さずとも」と教えられて、ようやく成功した。

 その夕食で祖父と一緒に食べ、祖父に褒めてもらうのが嬉しかった。



 次の日、中条は村上に「今度、何か夕食を作ってあげる」と言った。

「そりゃ楽しみだ」と隣に居た芝田。

「お前が言うかよ」と笑いながら村上が言った。

 だが、その夜祖父と前日の肉じゃがの残りを食べながら中条は、最近村上のアパートで食べた、豚肉・ジャガイモ・玉ねぎ・人参の入った煮物を思い出して「あの煮物と大きな違いはあるのだろうか」という疑問を感じた。

 そして・・・。


 スーパーで食材を買う中条。肉、野菜、そして調味料。何を作るか、まだ迷っていた。

 ふと棚に並んだ品物のひとつが目に入った。

「これだ!」

 レジを済ませ、村上のアパートに向かった。



 台所でエプロンを付け、ジャガイモを剥き、玉ねぎを刻み、豚肉と一緒に鍋で茹で、最後に白いルーを入れて・・・。


 村上・芝田と三人で食卓を囲む。

 中条が作ったクリームシチューを食べながら村上は「いつもと違うおかずを食べるってのもいいね」と笑顔で言った。

 中条は恥ずかしそうに「ただシチューのルーを入れただけだけどね」

 すると芝田が「何よりのおかずは里子のエプロン姿だよな」

「それは下ネタか?」と村上。

 芝田は飲んでいた味噌汁を盛大に吹いた。

 そして「いや、そういう意味のおかずじゃないから」と弁解する芝田の声と、村上・中条の笑い声が室内に響いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ