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おどり場の中条さん  作者: 只野透四郎
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第129話 中条さん世界を創る

その日の一時間目の授業の前、中条が隣の席に座った桜木に言った。

「桜木君に相談したい事があるんだけど、桜木君のアパートに行ってもいいかな」

「相談って?」と桜木。

中条は「新しい小説を書き始めたから、読んでアドバイスして欲しいの」

「解った」

何も考えず了解した桜木だったが、間もなく、即答を後悔する気持ちが湧いた。

(彼氏の居る女性と自分の部屋で二人になるんだが、いいのか?)



昼食の時、桜木が村上達の前でその話を持ち出した。

「中条さんが自伝じゃない小説を書き始めたんだそうだ」

「そりゃいいや。完成が楽しみだ」と村上は笑って言った。

「俺の部屋に来て読んでアドバイスして欲しいって言うんだが」と桜木。

「じっくり見て貰うといいと思うよ」と笑顔で村上は言う。


「それだけ?」と戸田が怪訝な顔で言う。

「何か問題が?」と村上。

「彼氏の居る女性が他の男性の部屋で二人っきりになるのよ。その彼氏が村上君でしょ?」と戸田。

「桜木はいきなり襲ったりしないし、そのつもりがあるなら、ここで言ったりしないだろ?」と村上。

「だったら私も一緒に桜木君の部屋に行く」と戸田が言い出す。

「戸田さんだって彼氏持ちでしょうが」と秋葉が窘めた。


「一緒に行くなら彼氏である村上が行ったらいいと思うよ」と佐竹が言った。

「私も、真言君にも見て欲しい」と中条。

「俺、小説の批評とか、よく解らないけどな」と村上。

「真言君はいろんな事を知ってるから、いいアドバイスできると思うわよ」と秋葉。

「彼氏だからってんなら、芝田も行ったらいいんじゃね? 四人で付き合ってるようなものなんだろ?」と佐藤。

「船頭多くして船山を登るって言うし、あまり大勢で行ってもなぁ」と芝田が笑った。

 


その日の夕方、中条と村上が再び桜木の部屋を訪れた。お茶を飲んで一息つく。

「それで、どんな小説?」と桜木。

中条が原稿用紙を出し、桜木と村上で読む。

「亜人物かぁ」と村上。

「よくあるパターンだよね」と桜木。

 


物語の舞台は、伝説上の妖怪が、実は人々の間でごく希に現れる特異体質である・・・という事が知られるようになった世界。

主人公の男子高校生が転校した先で、一人の女子生徒に体の関係を誘われる。

だがクラスメート達に止められる。あの女に関わると命の危険がある・・・と言うのだ。

実は彼女はサキュバス体質で、高校生になれば自由に男性と交わる事が出来ると期待して高校に入り、入学初日に男子達にその体質をカミングアウトして相手を求めた。

だが、それに応じた男子が精気を吸われ過ぎて、一週間生死をさまよった挙句、転校して学校を去ったという。

「ちゃんと吸精を加減すれば大丈夫」と彼女は言ったが、さすがに怖くなって主人公は辞退した。

だが数日後、大雨で濁流となった水路に、一人のクラスメート女子の弟が落ちて危険な状態となった。

主人公はサキュバス女子から、あの子を助けるために協力して欲しいと言われた。

彼女は彼と交わると、念動力を使って男の子を救った。



作品を読み終わって、感想タイム。

「つまりサキュバス体質って、男性の精気を吸収する事で異能を使えるようになるって訳だね」と桜木。

「亜人はそれぞれ人間の何かを吸収する事で、それを魔力に変えて異能が使えるの。吸収する相手は異性で、どんな異能を使うかは亜人によって違うんだけど」と中条。

「で、サキュバスの場合はサイコキネシスって訳だ」と村上。

「他にどんな亜人が出て来るの?」と桜木。

「バンパイアは考えてるんだけど、どんな話にするか、はまだ・・・」と中条。

「あと一つ、何か欲しいね」と桜木。


その時、村上が言った。

「サトリっていう日本の妖怪が居てね、こんな話があるんだ」



ある独り暮らしの男性の家に、一つ目の化け物が入り込んで囲炉裏端に居座った。

男が、何だこの得体の知れない奴は、と思うと、化け物は「お前、今、何だこの得体の知れない奴は、って思っただろ」と言った。

その後も化け物は、男が思った事を次々と言い当て、男は閉口した。

だが、その後偶然囲炉裏の炭が爆ぜて化け物の目に当たり、化け物は「人間というのは恐ろしい。思ってもいない事をやるのか」と言って退散した。



「それがサトリ?」と中条。

「マイナーだけど、知る人ぞ知る昔話だよ」と村上。

「つまりテレパシー使いって訳か。って事は、吸収するのは記憶だな」と桜木。

「異能はテレパシーって訳?」と中条。

「サキュバスがサイコキネシスなら、単に他人の心が読めるってだけじゃなくて、もっと能動的に使えるのが欲しいね」と桜木。

「例えば他人に幻覚を見せるとか」と村上。



数日後、中条はサトリの話を書き上げ、村上と中条は桜木のアパートへ行った。

中条が原稿用紙を出し、桜木と村上で読む。



一人の女子生徒が先輩男子に恋をした。

彼女は告白するが、彼には恋人が居たため振られてしまう。

彼女は思い詰めた挙句、飛び降り自殺しようとして、屋上で一人の男子に呼び止められる。

自殺なんか止めろと言う彼に、彼女は言う。

「こんな苦しい記憶を抱えて、生きてなんかいけない」

「だったら、俺が忘れさせてあげる」

親切ごかしたナンパだろうと彼女は思ったが、いっそこいつに体を預けてしまおうと目を閉じた。

すると彼は彼女の頭に手を置き、告白の記憶を吸収した。彼はサトリ体質だった。

目を覚ました彼女は自分が告白して振られた事を忘れ、またウキウキ気分で先輩に告白し振られて自殺しようとした。

思い詰めて苦しむ彼女を見かねたサトリは、また彼女の記憶を吸収。

これを何度も繰り返すうち、先輩の恋人は彼女との関係を疑って仲は険悪となった。

先輩は彼女をストーカー扱いして詰り、二度と姿を見せるなと言う。

善意のつもりが全て裏目に出るのを見たサトリは、ついに彼女に事実を明かし、絶望した彼女はまた飛び降り自殺を図る。

サトリが先輩の幻覚を見せて、自分の恋を受け入れてもらったと思った彼女は自殺を思い留まる。

だが足を滑らせて落ちてしまい、サキュバスの念動力に救われる。



作品を読み終わる。

「これで三人の亜人の話が繋がる訳だ」と桜木。

「けど、サキュバスが異能を使ったって事は、セックスした後だったんだよね?」と村上。

中条は「それについては、最初の主人公が死ななかったって事で、クラスの2~3人の男子が彼女を受け入れる・・・って話にしようと思うの。それで彼等は、サキュバスの異能を世のため人のために活かす活動をしようと。そのため皆で彼女に精気を提供しよう・・・って」

「それって体のいいセフレゲットって事じゃない?」と桜木。

「だからクラスの女子は、これだから男は・・・って事になる訳」と中条。

「なるほど、そういうギャグ路線ね?」と村上。

「で、どうして彼女がその場に居合わせたか・・・って理由付けも必要だよね?」と桜木。

「その辺でバンパイアの異能を出そうと思うの」と中条。

「つまりバンパイアの異能は未来予知って事だね?」と村上。



数日後、中条はバンパイアの話を書き上げ、村上と中条は桜木のアパートへ行った。

中条が原稿用紙を出し、桜木と村上で読む。



彼女はバンパイアの体質を必死に隠してきたが、クラスにやたら血の気の多い男子が居た。

ある時、彼は彼女の下着を見て鼻血を吹いてしまう。

その血を見て吸血衝動を抑えきれなくなった彼女は、彼を追いかけるが、彼は下着を見られて怒ったのだと勘違いして全力で逃げる。

その後、彼女はその時嗅いだ血の匂いが忘れられず、彼が気になって仕方ない。

だが彼は、彼女が下着を見られた恨みを引きずっているのだと勘違いし、恐怖の日々を過ごした。

そのうち彼は友人から、下着を見られた羞恥心が性欲を刺激して恋心が生じたのだと、いい加減な説明をし、彼は半ば信じてしまう。

そして再び彼が彼女の下着を見て鼻血を吹いた時、彼女は彼の鼻に吸い付いて血を吸った。

彼は事実を知って、恋心では無かったのかとがっかりするが、吸血により異能の予知が発動。

彼女は「飛び降り自殺を止めなきゃ」と叫んで騒いだ。



作品を読み終わる。

「なるほどね、そこでサトリの話と繋がる訳か」と桜木。

「それで、その場に居合わせたサキュバスとバンパイアの思考を、サトリがテレパシーで読み取って、三人が正体を明かすの。それで二人の亜人が鼻血男子や片想い女子と一緒にサキュバスの子のチームと合流して、一緒にみんなを助けるグループを作って、いろんな事件を解決しよう・・・って話にしようかなって」と中条。

「探偵団みたいなのを作る訳だ」と村上。

桜木は「亜人探偵団か。いいね。これで出だしの筋はまとまった訳だ。続きは書けそう?」

中条は「頑張ってみる。それで、今日は泊まっていい?」


桜木は少し躊躇し、村上をちらっと見る。

「小説の目途がついたお祝い・・・って訳か」と村上。

「村上も泊まる?」と桜木。

「そうだね。泊めてもらえたら明日が楽だ」と村上は笑った。

「じゃ、夕食作ってあげる。あれから色々練習したの」と中条。

「じゃ、食材買いに行こうか」と村上は言い、中条と近くのスーパーに出かけた。



買い物をしながら中条が言った。

「戸田さん、桜木君の事、好きなんだよね?」

「里子ちゃんは桜木の事・・・」と村上。

「好きだよ。けど戸田さんの気持ちも通じたらいいな、って思うの」と中条。

「あの人、独占欲強いかもね」と村上。

「そうだね。今までみたいに桜木君と遊べなくなるのはちょっと寂しい」と中条。

村上は「もしかして里子ちゃん、桜木の部屋に行きたいって言ったのって・・・」

「そうなる前に思い出ができたらいいな・・・って思ったの」と中条。



二人が桜木の部屋に戻り、中条が料理を始める。

村上は桜木と一緒に中条のエプロン姿を褒める。照れる中条。

そして3人で食卓を囲む。

「豚バラ炒めか。旨いな」と桜木が言った。

「弱火でゆっくり炒めるのがコツだって、真言君のお父さんが教えてくれたの」と中条。


食べ終わったら入浴しようという話になる。

「三人で一緒に入ろうよ」と中条。

「それはちょっと」と桜木が遠慮する。

「今更何言ってんだよ。この前一緒に入ったろうが」と村上が笑う。

「大丈夫だよ。アソコが大きくなるのは、ただの生理現象だから」と中条も笑った。


3人、全裸で浴槽に浸かり、順番に体を洗う。村上が体を洗っていると、中条が浴槽の中で桜木に身を寄せてくる。

中条の肌の感触に触れながら、桜木は楽しそうな村上をちらっと見て想う。

(何でお前はそんなに平気なんだよ?)



三人で風呂から上がる。桜木は布団を二組敷いて、言った。

「村上と中条さんは一緒でいいよね?」

お菓子とジュースを枕元に雑談する。村上にじゃれる中条。そんな二人を見て桜木は思った。

(こいつらの笑顔を壊したくないな)


寝ようという事になって灯りを消す。

中条が村上の上に覆いかぶさって唇を重ねる。

桜木が反対側を向こうとすると、中条が片手を伸ばして桜木の片腕を握った。

そして中条は「桜木君も一緒に、しよ」

自分に笑顔を向けてそう言う中条の頭を笑顔で撫でる村上が居た。そして熱い時間が始まる。



一枚の布団の中で密着する全裸の三人。二人の間で中条は幸せそうな寝息を立てる。

そんな彼女を見ながら桜木は言った。

「なあ、中条さんって、すぐ男に気を許しちゃうのな」

「それが里子ちゃんの魅力だからな」と村上は答える。

「そのうち、他の奴のものになるかもだぞ」と桜木。

「そうなっても、里子ちゃんは里子ちゃんのものだからな」と村上。

桜木は「怖くないのかよ」

「一度、あったよ。けど、その前に一緒に居た思い出があった。これからも何があるか解らない。けど、思い出があれば俺は生きていける」と村上。

「お前、強いな」と桜木。

「俺だけじゃないさ。里子ちゃんだって、そのためにこうやって思い出を重ねてるんだからな」と村上。

桜木は「お前との思い出か?」

「俺と、だけじゃないさ」と村上は笑った。

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