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おどり場の中条さん  作者: 只野透四郎
126/343

第126話 桜木君の秘密基地

理学部男子と文学部女子との合コンで終電を逃した村上たち。

市内の四人がタクシーで帰宅すると、残り六人は桜木のアパートで一泊する事になった。


桜木のアパートは、村上のそれと同様の六畳間にキッチン・バス・トイレ付。

六人で上がり込んで、とりあえずお茶を飲む。

「お風呂はどうする?」と桜木が全員に聞く。

「入りたい」と戸田と柏木が声を揃えた。

「六回転は時間がかかるな」と村上。

「なら、三人づつ入るか」と桜木。


すると中条が「それじゃ私、真言君とさく・・・」と言いかけ、桜木は慌てて「先ず女子三人で入ってきなよ」

「桜木君、何焦ってるの?」と戸田が不審顔。

「私、少し酔いを醒ましてから入りたい」と柏木が言い、男子3人が先に浴室に入った。



3人で浴槽に浸かり、体を洗いながら雑談が続く。

「桜木って、もしかして中条さんの事が好きなのか?」と宮田が言った。

「好きって事が何を意味するのか・・・って話に依るかな?」と桜木。

「俺は、寄り添いたいって事だと思うけどな」と村上。

「既に寄り添ってるように見えるけど」と宮田。


「もっとはっきり言うと、体の関係になりたいか、それと相手を独占したいか・・・って事なんだと思う。村上は中条さんを独占したいって訳じゃ無いのか?」と桜木。

「元々、友達と3人で仲良くなって、そのまま来てこうなったからね」と村上。


「で、今はもう行く所まで行ってる訳?」と宮田が聞く。

「まあな」と村上。

「芝田はどうなんだ? 4人で付き合ってるみたいなものって言ってたけど」と桜木が聞く。

「言わなきゃ駄目か?」と村上が意味深な口調。

桜木は「いや、いい」



「で、桜木はそういう中に混ざりたいのかな?」と宮田が口を挟む。

桜木は言った。

「解らん。ただ、楽しそうだな、って思う。ああいう、複数でイチャイチャって、女子は普通にあるよね。同じ事を中条さんが村上達に求めたのはおかしくないと思う。そもそも中条さんの立ち位置って所謂逆ハーレムって奴だと思うけど、男を侍らせてる訳じゃなくて、どっちかというと子供が両親に甘えるみたいなものに見えるんだよね」


「あの人って甘えん坊っていうか、今まで友達とか居なかった事の反動なんだよね」と村上。

「友達が居なかったから距離感的に慣れてないと?」と宮田。

「っていうか、女子の付き合いってそもそも距離保ってるのかな? メールは何分以内とか、やたら密接関係要求して、期待に沿わないと怒ったり」と村上。

「ともあれ、甘えん坊な子って俺は可愛いと思うけどね」と宮田が言う。

「だよな」と桜木も同意した。


「ってかそれ、村上的にはいいのか?」と桜木。

「独占じゃないって事が?」と村上。

「ってか、つまりは中条さんが笑顔で居るために桜木も必要・・・みたいな話なのかな?」と宮田が突っ込む。

「つまり極端な話、俺って中条さんが笑顔でいるための道具って訳?」と桜木が同調。

「だとしたら芝田もそうなるし、俺自身だってそうなるよね? けど俺や芝田が笑顔で居るために、やっぱり里子ちゃんは必要なんだよ。それに大勢で居ると楽しいじゃん」と村上は気持ち良さそうな笑顔で言う。


「それって恋愛なのかな?」と桜木。

「それをどう呼ぶかの問題でしか無いと思うよ。神学論争と同じで」と村上。

「けど、体の関係になれるか・・・って所で別れる話だよね?」と宮田。

「いや、体の関係って結局、仲良くなる事で後からついて来る話じゃないのかな? だから俺は当面はどうでもいいと思ってあの人と付き合ってきたんだけどね」と村上。



桜木は考えた。もし自分が強引に求めたら中条は受け入れてくれるのだろうか。

多分そうなのかも知れない。けれどもその時、村上はどうするのだろう。

そんな中で、二人の女子に浴室に引っ張り込まれるのを面白がっていた村上と芝田を思い出した。

世間一般でやっているようなスペックを競い努力して相手を獲得するゲームとしての、そんな恋愛とは無縁の彼等の緩さに自分は惹かれたのではないか。


「で、宮田はどうなんだよ」と村上。

「何が?」と宮田。

村上は「柏木さんだよ」

「いい人だとは思うけど」と宮田。

「けど、いい人と好きな人は違うと? そんな贅沢は男子が言うべき事じゃないと思うぞ」と村上。

宮田は「いや、柏木さんを好きじゃないとは言ってないよ。それより桜木、戸田さんはお前の事が好きなんじゃないのか?」


それを聞くと、桜木は悲しそうな表情で言った。

「あの人が好きなのは俺じゃなくてポトマックだよ」

「けど、ポトマックが好きだって事が、お前を好きじゃないって事には、ならないと思うぞ」と村上が言った。

「けど俺は・・・」と桜木。

「中条さんが好きだから?」と宮田。

「いや、中条さんには村上が・・・」と桜木。


そんな桜木に、村上は真顔で言う。

「いや、里子ちゃんはお前の事も好きだと思う。けどお前が戸田さんを受け入れたら、里子ちゃんはきっと喜ぶと思う。あの人はそういう人だ」

「だから村上は中条さんが好きなんだよね?」と宮田が言う。

村上は「そういうのはいいから」



男子達が浴室を出て、女子達が浴室に入る。そして雑談。

「戸田さんって、まだ桜木君に未練があったりする?」と柏木が切り出した。

「まあね」と戸田。

「小説家としてブランドだもんね?」と柏木。

戸田は「それが目的だって事で嫌われたんだけどね」


「それで戸田さんは桜木君が中条さんと一緒に居るの、気になる?」と柏木が言う。

「羨ましいとは思う」と戸田。

「桜木君、優しいよ。戸田さんが甘えても拒まないと思うよ」と中条は言った。

「そう気安く触れたらいいんだけど、そうもいかないでしょ?」と戸田。


「何で? 女の価値を下げるから?」と中条。

「そういう駆け引き度外視な所が、中条さんは好かれるのよね?」と柏木。

「私、ずっと友達が居なくて寂しかったから、真言君たちが優しくしてくれたのが嬉しくて」と中条。



「で、中条さんは桜木君の事をどう思ってるの?」と柏木。

「好きだよ」と中条。

「村上君よりも・・・って訳じゃないんだよね?」と柏木。

すると中条は「好きに順番なんてあるのかな?」


「もし桜木君が体を求めてきたら、どうする? やらせちゃう?」と戸田が真顔で聞く。

「そうなるかもね」と中条は笑顔で言った。

「そんなんじゃ、悪い男に騙されちゃうよ」と戸田が溜息をつく。

中条は「そうかもね。けど、もしそうなっても、真言君は私を見捨てたりしないと思う」

「桜木君って、村上君と似てる所があるよね」と柏木。


「私、その桜木君に振られたんだよ。小説家のブランドが目当ての女だからって」と戸田。

「真言君もモテた事があってね、学園祭のミスコンで優勝した人のエスコート役やったのがブランドになったからって、そんなの目当ての人と付き合っても、うまくいく筈無いって、みんな振ったの。けど戸田さん、桜木君が好きなの、小説家のブランドだけじゃないんでしょ?」と中条。


「そうね。例えば小さな子をすごく可愛がってる若いお父さんみたいだなって。そういうの、いいな・・・って思わない? あんなふうに可愛がられてみたいって」と戸田。

「そうだよね。私も小さな子みたいに甘えさせて欲しい」と中条。

(いや、あんたの事なんだけど)と戸田も柏木も思った。



「それで柏木さんはどうなの? 宮田君、嫌いなタイプじゃないんでしょ?」と戸田が柏木に言う。

「いい人だと思うよ」と柏木。

戸田は「けど恋愛センサーが反応しない? そんなの待ってたら、すぐオバサンになっちゃうわよ」


風呂から上がり、全員でわいわいやる。

そして夜が更け、寝ようという話になる。

「悪いが、布団は三組しか無いんだ」と桜木。

「一つに二人だね」と柏木が言った。

すると戸田は「なら、先ず村上と中条さんね。で、桜木君、一緒に寝ようよ」

「いや、こういう時は・・・」と桜木が口ごもる。

「俺は男と一緒に寝るのは御免だ」と宮田は笑った。

戸田は宮田と柏木を見て、桜木に「桜木君、気を利かせようよ。あの二人、お似合いだと思うでしょ?」と耳打ちした。


桜木と戸田が一緒の布団で寝る事になる。残る布団は一組。宮田と柏木が残る。

「じゃ、この布団は柏木さんが使いなよ。俺は座布団並べて寝るから」と宮田が遠慮を示す。

「宮田君、一緒に寝ようよ。私だけ一人寝は寂しいよ」と柏木が言う。

「けど・・・」と宮田が躊躇する。

すると柏木が言った。

「一度やってみたかったの。男の人とエッチ抜きで一緒に寝るって」



三つ並べた布団の真ん中に、村上と中条が入る。何も考えず布団の中で村上にじゃれる中条。

右側の布団では桜木と戸田。

「ねぇ、桜木君、私達も」と戸田。

「戸田さんには早渡が居るでしょ?」と桜木。

「見せつけられてるこっちの身にもなってよ」と戸田。

そう言って戸田は桜木の片腕に身を寄せる。


左側の布団では柏木が隣の中条の様子をちら見し、背を向けた状態で何もしてこない宮田が気になりだす。

さっき"エッチ抜きで"と言ったからだろうか・・・と少し後悔した。

やがて全員、そのまま寝落ちした。



夜中、柏木は目をさましてトイレに行くと、先客が居た。待っていると中条が出て来た。

「あ、柏木さん。どうぞ」と中条。

柏木は「その前に中条さん、少し、いいかしら」

「何?」と中条。


「男性が女性に触ろうとしないのって、興味が無いからなのかな?」と柏木。

「興味があっても難しいと思う。ほら、女の体に気安く触るなって言うからね」と中条。

「中条さんはどうだったの?」と柏木。

中条は「私からスキンシップしたよ」

「自分からって、抵抗無かった?」と柏木。


中条は言った。

「最初は真言君が居眠りしてる時かな。テレビ見てる時寝落ちしたから膝枕してあげたら、すごく気持ちよくて、それであちこち触ってるうちに目を覚ましちゃったみたいなんだけど、私が恥ずかしい思いをしないよう寝たふり続けてくれたみたい。その後も男子として自分から、って抵抗があったみたいだけど、ハグとか気持ちいいから」

「そういうのって男子がガツガツ求めていくものなんじゃないかな?」と柏木。

「肉食系の人はそうだろうけど」と中条。

「まあ、ああいう人は遊ばれそうで怖いからね」と柏木。


「それに、気安く触るなって、女性が嫌な思いをするから・・・って事になってるから、優しい人ほど抵抗があるんだよ」と中条。

「そりゃ、嫌いな奴に触られたら嫌だけど」と柏木。

「誰が嫌いかを決めるのは男性じゃないし、女性の気分って波があるから、男性はそう言われたら、そうか・・・って思うしかないよ。特に優しい人はね」と中条。



柏木は布団に戻り、熟睡している宮田の背中にそっと身を寄せる。

体温と筋肉質な感触に、高揚感のような安心感のような妙な気分を感じた。

後ろ頭に額を押し付け、頭を撫でるともふもふ感が心地よい。片手と片足を彼の体の上に預けた体制でその感触に浸りながら柏木は寝落ちした。



翌朝、宮田が布団の中で目を覚ます。

柏木が自分の背中に密着しているのに気付く。。

(この人、寝相が悪いのかな)と思いつつ、このまま体を起こしたら彼女も目を覚まし、自分の体制に気付いて恥ずかしい思いをするのでは、と危惧した。

じっとしていると、柏木の体温と感触が、妙な気持ちよさとなって宮田の体を巡った。オキシトシンという脳内物質の事を思い出す。


目覚ましのベルが鳴り、一斉に六人が眠そうな声を上げ、宮田は慌てて身を起こした。

柏木が目をこすりながら「おはよう、宮田君、昨日はよく眠れた?」



戸田が中条と柏木に指示を出して朝食作りを主導する。

女子力の見せ場とばかりに張り切る彼女に、桜木は苦笑しながら食材や食器を出す。


「学校が近いっていいよね」と宮田が言い、村上も「朝、ゆっくりできるからな」

「また泊りに来るか?」と桜木

「いいの?」と中条が嬉しそうに言う。

「何言ってるの、あんた彼氏持ちでしようが」と戸田が牽制。

「独り暮らしだと女連れ込み放題だもんな」と村上が笑う。

桜木が慌てて「いや、俺は村上と宮田に言ったんだが」


「ごめんなさい。勘違いして調子に乗っちゃって」と中条が申し訳無さそうに言う。

「いや、中条さんが来たいって言うなら、何時でも」と桜木。

「ふーん?」と戸田が怪訝そうな顔。

「やっぱり女連れ込み放題」と宮田が笑う。

「ラブホ桜木とでも呼ぼうか」と村上も笑う。


「いや、村上、何他人事みたいに言ってるんだよ。中条さんはお前の彼女だろーが」と桜木が不満顔。

「むしろ戸田さんが泊まりにくればいいのに」と中条が笑った。

戸田は慌てて「わわわ私、そんな事言いたい訳じゃないからね。勘違いしないでよね」

「戸田さん、そういうツンデレ小芝居はいいから」と宮田が笑った。

「それにアパートで一人なのは村上も一緒じゃん」と桜木が指摘した。

「つまりラブホ村上って訳だ」と宮田が笑った。



一時間目の授業時間が近づき、彼等はアパートを出た。

歩きながら中条は桜木にじゃれて右手をつなぐ。


向こうから二人の幼い女の子を連れた若い父親が来る。両手で二人の子供と手を繋ぐ父親。

「ああいうのも、いいよね」と言って中条ははしゃぎ、「戸田さんもおいでよ」と片手を振って見せた。

戸惑う戸田に村上は「桜木の左手を担当しろって言ってるんだよ」と耳打ち。


戸田は駆け寄って、桜木の空いている手を握った。

中条ははしゃぎながら「一限は下山準教授の古典だよね? 戸田さんに教えて欲しい所があるの」



その後、工学部では芝田が三人の友人と雑談していた。

そのうちの一人が芝田に言った。

「そういえば理学部の奴等、お前の友達の口利きで、文学部の女子と合コンやったそうじゃん。文学部に彼女がいるからって」

「俺達の分も頼めないかな」と別の一人も言った。

芝田は「向こうだって、そう立て続けにって訳にもいかないだろうし、それに工学部って・・・」

「ブランドイメージが落ちるってんだろ? 駄目元でいいから話してみてくれよ」と、最初に合コンの話を切り出した友人が言った。



芝田が文芸部でその話を持ち出した。

戸田は「工学部ねぇ・・・。まあいいわ。友達に話してみる」



戸田が授業前の講義室で女子達に声をかけた。

「工学部ねぇ。現場技術者の卵でしょ?」と、文学部女子の一人が言う。

「けど、それで腕を磨いて成果出して出世する人も居るよ」と戸田。


その時、柏木が講義室に入って来る。戸口まで彼女を送って来た宮田の姿があった。

「何、あれ、柏木の彼氏?」と、戸田の友人女子の一人が言う。

すると島本が「戸田さんの合コンで付き合う事になったのよ」

それを聞いて、その場に居た女子達が乗り気になった。

「戸田、合コン、セッティングしてよ」

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