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おどり場の中条さん  作者: 只野透四郎
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第124話 戸田さんの恋人

入学してガイダンスを終え、授業が始まる中、中条は文学部で桜木を頼り、隣の席に座って彼に甘えた。

そんな雰囲気は桜木と一緒に居る佐藤と佐竹にも伝染した。


授業の前後には会話の苦手な中条が三人の男子の雑談に混じる形で、中条はその時間を楽しんだ。

昼食では佐藤と佐竹もしばしば村上達と一緒になり、彼等は村上と芝田の間で甘える中条を微笑ましいと感じた。

連休で桜木が上坂市で村上のアパートに泊まった後、中条と桜木は更に親密さを増し、頭を撫でてもらったり、じゃれついたり、そんな光景が増えた。



そんな彼等を面白く無さそうな視線で見ていたのが戸田だった。

桜木の小説家としての活躍を知った後、戸田は彼に好意を抱いて何かと桜木にまとわりつく事が増えたが、桜木は必ずしも戸田に好意的な反応は見せなかった。

中条が桜木にじゃれる様子を見て、戸田は隣の島本に言った。


「あれ、どう思う?」

「男に媚びるタイプって所かしら?」

島本の、わざと聞こえるように言った言葉に中条の肩がピクリと反応し、表情が曇った。


その時、佐藤が苛立たしげに言った。

「友達に媚びるって何だよ?」

佐竹も呼応して「普通は、仲良き事は美しき哉、だと思うけどね? 島本さん、感じ悪いよ」

「はいはい、ごめんなさい。公共の場でどうかと思っただけですよ。ってか佐藤君も佐竹君も恋愛経験無いでしょ? 普通は付き合う前から男女がそんなにイチャイチャしないものよ」と島本。


「女の価値が下がるから?」と中条が悲しそうに言う。

「それは・・・」と島本。

「それに俺達、恋愛とか期待してないし、中条さんに彼氏が居るの知ってるし」と佐藤。

「村上の前でも桜木とかこんな感じだし」と佐竹。

その時、講師が来て、この話は打ち切りになった。



その日の六限が終わると、島本は佐藤と佐竹に声をかけた。

「これから三人で飲みに行かない?」

「俺達に言ってるの?」と佐藤。

「そうよ。奢ってくれる余裕があればだけど」と島本。

「大丈夫、行きます」と佐竹。


二人を連れて講義室を後にする島本は、戸田をちらっと見て笑ってみせると、そっと彼女に耳打ちした。

「男ってチョロいでしょ?」


戸田は島本を見送ると、桜木を誘った。

「私達も二人で飲みに行かない?」

だが桜木は「俺、酒ってあんまり飲めないから」

桜木が中条と一緒に講義室を出るのを、戸田は悲しそうな目で見送った。



翌日の一限目、村上が中条を講義室まで送ると、戸田は自分の講義室に向かう村上を追いかけて廊下に出た。

そして「村上君、ちょっと話があるんだけど」

「何かな?」と村上。


「桜木君と中条さん見てて、どう思う? 傍から見て、彼氏じゃない男と距離近すぎだと思うけど」と戸田。

「桜木が里子ちゃん狙ってるとでも?」と村上。

「桜木君にその気が無くても、中条さんは好きになるかも知れないわよ。それとも、そうならないくらい惚れさせてる、って自信でもあるの?」と戸田。

村上は言った。

「どのくらい惚れさせてるとか、そんな基準なんて知らないし、そもそも惚れさせるつもりで付き合ってきた訳じゃないからね。ただ俺はあの人が寂しそうにしてたから、笑って欲しくて一緒に居て、それでこうなったってだけさ。里子ちゃんの事は好きだけど、学部では一緒に居られないから。文学部での友達が必要だってだけだと思うよ。あの人、寂しがり屋だから」


戸田は「友達なら私がなってあげるわよ」

「それは有難いけど、もしかして戸田さん、桜木の事が好きなの?」と村上。

「村上君にとっても好都合でしょ?」と戸田。

「里子ちゃんを桜木から遠ざけるために、っていうなら、それは本当の友達じゃないと思うよ」と村上。

「女の友情って大抵、孤立しないように結束してるだけだったりするものよ」と死だ。

「知ってるよ。けど、そういう計算を里子ちゃんの周囲に持ち込むのは、ちょっとね。むしろ桜木が好きなら、告白とかすればいいだけの話だと思うけどね」と村上。



その日、6限が終わると戸田は桜木を講義棟の裏に連れ込んだ。

「桜木君、私と付き合ってよ」と戸田。

「戸田さんは俺のことが好きなの?」と桜木。

「私、桜木君が好き」と戸田。

桜木は「それは違うんじゃないかな? 戸田さんが好きなのは俺じゃなくてポトマックでしょ?」



桜木に振られて落ち込む戸田を、早渡が飲みに誘った。

酔い潰してお持ち帰りでもするつもりかと戸田は勘繰ったが、それもいいか・・・と戸田は思った。


居酒屋で向かい合う戸田に、早渡は「桜木と何かあった?」

「知ってるんでしょ? 彼に振られたって」と戸田。

「あいつの事、好きなの?」と早渡。

「そうよ」と戸田。

「小説家として評価されてるから?」と早渡。

戸田は「そう見えるよね。駄目だよね。ブランド狙いとか」


だが早渡はきっぱりした口調で言った。

「アクセサリー彼氏上等じゃん。男はそのために頑張ってるんだぜ」

「そんなの、あんただけよ。桜木君は評価されたからって、鼻にかけたりしないし・・・」と戸田。

「けど、そういうのって女の本能なんだろ?」と早渡。

「そうなんだろうね。傍から見れば計算して、こいつとくっつくと有利だから、みたいに見えるんだろうけど、その計算自体が本能で・・・ってのが惚れるって事なんだと思う」と戸田。

「理性で計算するのが駄目で本能ならいいとか・・・普通は逆なんだけどね」と早渡。


「けど、その相手の本能を操って落とすために接待みたいな事をするのが、早渡みたいなヤリチンなんでしょ?」と戸田。

早渡は「まあ、本能に従うってのは、気持ちいいからな。けど、本当は目の前の女が気持ちよくて笑ってると楽しいから、そうさせてやりたいって頑張るものなんだけどな。それって男の本能みたいなものだろ?」

「つまり目的だったものが、落とすための手段になるって事? モテ術ってそういう事よね」と戸田。

「手段・・・なんだろうな。けど、だからそれは目的じゃないとは、俺は思わないけどね」と早渡。



間もなく戸田は早渡と付き合い始めた。

戸田が中条と桜木達とのスキンシップに口を挟む事も無くなり、部活では普通に中条とも友人として接するようになった。

文学部の授業では、講義室で授業前など中条・桜木・佐藤・佐竹と戸田の5人でわいわいやり、時々それに島本と早渡も加わった。


島本はまもなく上級生と付き合い始めたが、佐藤と佐竹には何かと構い続けた。

佐藤と佐竹が男子達の前で「控え扱いされている」と愚痴ると、早渡は「お前等、女子と接した経験、無かっただろ。控えでもいいから、女との向き合い方を学んでおけ」と言って笑った。

戸田は、そんな早渡を見ながら「悪くないな」と思った。


だが、その一方では講義室で桜木ら三人の男子とじゃれ合う中条を見、また文芸部では村上・芝田・桜木とじゃれ合う中条を見て、戸田は次第に胸の疼くものを感じた。

特にその両方に居る桜木への未練が、自分も中条のように彼に構われたい・・・という想いになって、戸田の中で次第に膨らんでいった。

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