第12話 めくり勇者の攻略法
山本幸作は、背は低いが運動神経はかなり高い。逃げ足が早く、身軽で、どんな攻撃も余裕でかわす。
見かけは小学生に間違えられる事も多いが、性格も同様だ。
彼には困った特技があった。スカートめくりだ。時々やらかしては複数の女子に追い回されるが、捕まったり殴られたりする事は先ず無い。
大谷などは、その場に遭遇すると「誰某のパンツ」で大喜びし、山本の代わりに殴られる事もあった。彼は山本に「めくり勇者」の称号を進呈する・・・と言って、山本に迷惑がられた。
標的になるのが大野や篠田や宮下など、男子に対して攻撃的な女子で、特に女好きで男性嫌いを公言し、暴言を吐いて、男子から「ゲスレズ」と呼ばれて嫌われていた宮下が、頻繁に被害に遭った。
その日もやられたのは宮下で、彼女は山本を散々追い回した挙げ句、諦めて教室に戻る。
山本が悠然と自分の席に戻ると、大谷が来て、泣きそうな声で山本に言った。
「山本~。今のパンツ何色だったよ。せっかくのめくり勇者の活躍なのに、見逃しちまったよ、一生の不覚」
山本は迷惑そうに言った。
「知らねーよ。めくった相手のパンツなんて一々見てねーし、見たくてやってる訳でもねーから」
大谷は驚いて言った。
「え、じゃ何のためにやってるんだよ」
「むかつく女子に対する制裁に決まってるじゃん。お前のスケベなんぞ知るかよ」と山本。
その時、少し離れた席でそれを聞いていた水沢の表情が曇り、やがて立ち上がると、珍しく怒った顔でつかつかと山本の前に来た。
そして悲しそうな顔で山本を睨み、無言でいきなり自分のスカートをたくし上げた。
山本は驚いて「何やってんだよ」と言ってスカートをつまんだ水沢の手を払った。水沢は言った。
「私、もし女子のパンツが見たいだけなら、必ずしも悪くないと思うの」
側に居た男子達は慌てて「いや、悪いと思おうよ、さすがに」
だが水沢は続けて言った。
「けど、山本君がやってるのは、ただの嫌がらせだよね。それはいけない事だと思うの」
それに対して山本は言った。
「じゃ、女子が男子に嫌がらせするのはいいのかよ。特に宮下なんかさ、キモいとか何だとか好き勝手言ってるけど、ああいうの悪いと思ってないだろ!」
「そ・・・それは・・・」と水沢。
水沢は返事に詰まった。返す言葉が無い。悲しそうに俯き、ポロポロと涙をこぼし始めた。
山本が語気を強めて「泣けばいいと思ってるのかよ」と言うと、小島が立ち上がって「山本いい加減にしろ」と怒鳴った。
水沢は、そのまま出口に向かって駆けだし、教室を後にした。宮下がそれを追って教室を出た。
宮下は、廊下で泣いている水沢に「小依ちゃん、あんなの気にしちゃ駄目だよ」と言って、水沢の肩に手を置こうとした。
だが水沢は、振り向いてその手を払いのけ、「宮下ちゃんなんて大嫌い。あっち行ってよ」と彼女を睨んで言った。
教室では、山本と小島の睨み合いが続いていた。
「小依たん泣かせた。小依たんに謝れ」と怒鳴る小島に、山本は「表に出るかよ」とにらみ返す。
「上等だ」と叫んで山本に詰め寄る小島を、鹿島が制止した。
鹿島は「山本の言ってる事は間違ってない。けど・・・」と言うと、山本の方を向いて「水沢さんに言うべき事じゃないと思うぞ」と言った。
山本は「別に水沢を責めてる訳じゃない。けど、間違った事を言ったら正すだろ」
鹿島は「嫌がらせは止めろと言うのが間違ってるとも、俺は思わない。男子に暴言吐く事に対してなら、他にやりようを考えろって事じゃないのか?」
小島は廊下の方を見て呟いた。
「小依たん・・・」
廊下の壁にもたれて俯く水沢に、小島が近付いて「小依たん、これ」と小さいチョコレートを差し出した。
「甘い物を食べると元気になるよ」と精一杯の笑顔を向ける小島に、水沢は「ありがとう、小島ちゃんは優しいね」と笑顔でそれを受け取った。
それを食べている水沢に、小島は「あのね、山本もきっと解ってくれると思うよ。だって小依たんはこんなに可愛いから。可愛いは正義だ」
それを聞いて水沢は笑った。「いいの。山本君が言ってる事は本当の事だもん。それに山本君ってお子ちゃまだから」
元気を取り戻した水沢は「じゃ、教室に戻るね。小島くん大好き」・・・そう言ってその場を離れた。
「小島くん大好き・・・かぁ」と小島が惚けていると、その後ろから山本が「何にやけてんだこのデブは・・・」と言って小島の尻を蹴った。
小島はギクリとして振り向く。
「山本お前・・・ってかさあ・・・お前、あれ見て何とも思わないのかよ」と小島。
「知るかよ。それに、どーせ俺はお子ちゃまですから」と山本。
その後一週間が過ぎ、二週間が何事も無く過ぎる頃、自分の席で退屈そうにしている山本の所に、大谷が来て言った。
「山本~、そろそろめくり勇者が発動してもいいんじゃないのか? 勇姿が見れなくて、いい加減禁断症状だよ~」
山本はうるさそうに言った。
「知るかよ。俺だっていつまでもガキじゃないんだ。あーいうのはもう卒業だ」
少し離れた席でそれを聞いた水沢は、嬉しそうな表情で立ち上がり、駆け寄って後ろから山本に抱き付いた。
「山本君、解ってくれたんだ。嬉しい」と水沢。
山本は慌てて「離れろよ。別にお前に言われたからじゃなくて、高校生としての自覚をだな・・・」
宮下はこれを見て、大声で「こら山本、小依ちゃんから離れろ」と言ったが、周囲の女子は「まあまあ、もうスカートめくらないって言うんだから」と言って宮下を宥めた。