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おどり場の中条さん  作者: 只野透四郎
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第119話 文芸部へようこそ

県立大学で入学式の後のオリエンテーション期間の三日間の午後に行われる新歓祭。

様々なサークルがステージや大講堂で自分達の活動をアピールする。また、多くのサークルは校内各所でブースを設置する。

そうした所を村上達五人に桜木も含めた六人は一緒に巡った。


秋葉は旅行サークルのブースを見て目を輝かせる。

「温泉巡りとか、するのかな?」などと期待して話を聞くと、金持ちの子弟が多いとの事。

「ああいう所と付き合うと、金銭感覚がおかしな事になりそうだな」と村上が笑った。



ボランティアサークルのブースを見て津川が言った。

「あそこは近づかない方がいい、中味が過激派と繋がってるとか」

「何か過激な事をやるのか?」と芝田。

「鉄パイプ振り回してあちこち襲ったりするんだよ」と津川。

「鉄バイブとな?」と、芝田が何やら妙な勘違い。

桜木も「それで襲うとか、犯罪だろ。何でそんなのが堂々と活動してるんだ?」


「昔は学生的にヒーロー扱いされてたらしい」と津川の解説が続く。

「そんなのヒーロー扱いしちゃ駄目だろ」と桜木。

「まあ、うちにも"めくり勇者"とか言って煽った奴居たけどね。で、誰を襲うんだ?」と芝田。

「警察署に突っ込んだりしたらしい」と津川。

「突っ込むって婦警さんに?」と芝田。

「過激派が襲うのに男女関係無いだろ」と津川。

「男も襲うのか? それは嫌だな」と芝田。


そんなやり取りに、村上があきれ顔で言う。

「お前等。変な勘違いしてるだろ?」

「何の話?」と不思議そうな顔の中条。

「これだから男は・・・って話よ」と秋葉は笑って言った。



そこを離れて少し歩くと、別なサークルのブース。

「哲学研究会ってのがあるぞ」と芝田。

「あそこは半径5m以内に近付くなって話だ。中身は新興宗教らしい」と津川。

「それは怖いな」と桜木。



通りの右側に、いかにも肉食系な男子学生が二人で勧誘をやっているブースがある。

「あの人達、勧誘っていうよりナンパみたい」と秋葉が笑って言う。

「睦月なんか狙われそうだな」と芝田。

秋葉と中条に左側を歩かせて盾になったつもりの村上と芝田は、二人の勧誘に右腕を掴まれた。


「お兄さん、いい子紹介しますよ。うちのサークルに入ると、ヤレます」と勧誘の人。

「いや、そういうの要らないです」と村上。

しつこい勧誘を振り切って、そこを離れる。

「ナンパっていうよりポン引きだな」と桜木が笑った。



歩きながら芝田がぽつりと言った。

「ところで、体育会系とかはどうする?」

「芝田は肉体派だから、いいと思うよ」と村上が笑う。

「肉体派って・・・、俺を馬鹿だと思ってるだろ」と芝田。

「テニス部とか、女子にモテるんじゃない?」と秋葉も笑う。

「いや、そういうの要らないから」と芝田。



しばらく歩くと「経済活動研究会」というサークルのブースが見えた。

津川が「ちょっと待っててくれ」と言って、一人でそこに入り、しばらく話をした。

やがて出てきて秋葉に言う。

「昨日、経済学部のコンパで誘われたんだけど、いろんな企業の活動に関わって実地を学びながら、就職でのコネを作ったりアルバイト先を紹介されたり、って所なんだが、話、聞いてみる?」

「津川君は興味あるの?」と秋葉。

「元々、就職のために入った大学だからね」と津川。


それじゃ・・・と言って秋葉もそこに行って、しばらく話をした。

「どうだった?」と村上。

「候補の一つって事で考えて見る・・・って言っておいたわ」と秋葉。



その後、映像研やパソコン部のブースに寄った。

アニメファンの集まりの映像研には芝田も村上も惹かれたが、アニメ絵が描けない彼等は馴染めそうにないと感じ、そこを後にした。 



三日目に六人は予定通り文芸部のブースを訪れた。


「あら、村上君、久しぶりね」とブースの奥から声をかけたのは、彼が中条と別れた時期に二日ほど付き合った斎藤千鶴だ。

「斎藤さん、この大学の人だったんだ」と村上。

「真言君、その人、誰?」と怪訝な顔で聞いたのは秋葉だ。

「その人が中条さん?」と斎藤は秋葉を見て笑う。

「彼女は秋葉さん。友達の彼女だよ」と村上。

「で、こっちが私の彼の芝田君」と秋葉は芝田の腕を掴む。

「するとこの人が中条さんね?」と斎藤は中条に言った。


「斎藤さんは文学部ですか?」と中条が聞いた。

「そうよ。今年から三年。上山教授の現代文学論のゼミに居るわ。あなた達の事は岸本さんに聞いてるわよ。中条さんは後輩って事になるわね。よろしくね」と斎藤。

「文芸部は小説を書いたりするんですよね?」と中条。

斎藤は「そうね。私は書くわよ。そして互いに読んで批評したりするの。もしかして、あなたも書くの?」

中条は「書き始めた所です」と言い、隣で戸惑っている様子の桜木を見て「もしかして桜木君も?」と言った。

「俺も、書きます」と桜木。



村上は桜木を気にしている中条を見て、その肩に手を乗せて笑顔で言った。

「桜木は俺達と高校は一緒じゃないんだけど、文学部で里子ちゃんと一緒になったんで。俺達は文学部じゃないから・・・」

「まあ、里子の文学部での保護者っていうか」と芝田が笑いながら言った。

「保護者って・・・」と桜木は慌てる。

「ごめん。図々しかったよね?」と申し訳無さそうな中条。

「芝田ってそういう奴だから」と村上が笑う。

桜木は慌てて「いや、迷惑とかじゃなくて、むしろ昨日今日合ったばかりなのに、そこまで女の子に信頼して貰えて嬉しいというか」


「しかも彼氏の居る女の子に」と秋葉が笑う。

「そこは関係無いと思うが」と芝田が言う。

「いや、大事な事よ」と秋葉。

「どう大事なんだよ」と芝田。

「知らないけど」と秋葉。

「あのなぁ」とあきれ顔の芝田。

自分をそっちのけに冗談交じりに盛り上がる三人を見て苦笑する桜木。中条がそれを見て笑いながら彼の上着の裾を掴んで身を寄せる。



「おや、お客さんキターって所か?」と言いながら、奥から上級生男子が出てきた。かなりのイケメンだ。

「住田君、今年は大漁だよ」と斎藤がはしゃぐ。

「俺達、魚かよ」と芝田が笑った。

上級生男子は嬉しそうに「いらっしゃい。みんな文芸部に入るんでしょ?」

「いや、そういう訳では・・・」と困り顔の津川。

「住田君、そんなにがっついたら、魚だって逃げるわよ」と斎藤。

「やっぱり魚なんだ(笑)」と芝田。


そして斎藤は村上を指して、言った。

「住田君、彼が村上君だよ」

「君かぁ。斎藤さんと二日間だけ付き合った元彼って」と住田。

「真言君、どういう事よ」と秋葉は不審顔で村上を追及。

「あのね、睦月さん、里子ちゃんと別れた時期があったでしょ?」と焦り顔の村上。

「いや、何で秋葉さんが怒るのよ」と斎藤が笑う。

「何だかこの人達、四人で付き合ってるみたいなもの・・・らしいですよ」と桜木は笑って言った。


「って事は、これからは桜木君も含めて五人で・・・って事になるのかしら?」と秋葉。

「えぇーっ?」と桜木は慌てる。

「睦月、桜木が怯えてるじゃないか」と芝田が笑った。

「いや、怯えて・・・って」と困り顔の桜木。

「大丈夫よ桜木君、痛くしないから」と今度は秋葉が笑って言った。

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