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2話 うちの用心棒は意地悪だ

 私はエイミー=アルドリッジ、今は亡きアルドリッジ家の生き残りだ。

 アルドリッジ家は小さいながらもいくつかの街を治める地方領主の家だった。

 治めてるのは、首都から遠く離れた辺境の地域で、麦などの農作物がよく取れ、田舎にしては発展していた。


 父上は領主には向いていないくらいには優しい人で、あまり税の取り立ても真面目にしていなかった。

 そのため、貧乏貴族と社交界では笑いものにされていたが、民衆からは慕われており、近所の農家が野菜などをよく持ってきてくれて、世間話をしていた。


 あまりの民衆との距離感の近さは、今考えれば領主として危機意識に欠けていたと思うが、私はそんな父上も領地に住んでいる人達も大好きだった。


 それがあの日、一夜にして私の人生は一変した。

 6年前の出来事で、私はまだ6歳だったけど、今でもはっきりと思い出せる。


 燃え盛る屋敷、重なるようにして倒れる父上と母上、そして血塗れの剣を持ったピエロのような白い仮面をした男。

 私は目の前の光景が理解できず、剣を持って近寄る仮面の男を眺めることしか出来なかった。


 仮面の男は剣をゆっくりと見せつけるように持ち上げ、私へ向かって振り下ろしたその瞬間、たまたま父上が行き倒れている所を拾って食事を与えていた男が割って入って助けてくれた。


 私を助けてくれた行き倒れの男は傷を負いながらも、私を連れて、武器を持った集団に包囲された屋敷を逃げ出してくれた。


 私はその日以来、復讐をするためにその男を雇い、()()()として旅を続けている。


 僕は彼に本当に感謝している。


 命の恩人で、子供である僕を6年間見放さずに育ててくれた。


 その彼の名前は、アラキ=カゲミツ。

 遥か東方より来た戦士。

 たしか自分の事をオチムシャとか言っていた。


 夜のように深い黒色の髪と目、その黒髪は短く切り揃えられているが、襟足のみ伸ばして紐でくくっている。

 肌の色が私達より濃く、見慣れない変わった容姿をしているが、鋭い目つきとか、通った鼻筋とか、よく見れば整った顔をしている。


 魔法は使えないが腕っ節は強く、相手が魔法使いだろうが、騎士崩れだろうがあっさりと制圧してしまう。


 昔はケンダマとかいうおもちゃを木を削って作ってくれたり、眠れない僕を子守唄を歌って寝かしつけてくれた。

 子守唄は彼の故郷の歌らしく、何を言っているのか意味は分からなかったが、不思議と心が落ち着いて今でも口ずさむことがあるくらいだ。


 そんな頼りになる彼だが、最近僕の扱いが雑になっているのを感じる。

 

 例えば今日、僕は落としたのか擦られたのかはわからないが、財布を無くした。

 アラキは僕に対して一人で探してくるように言ったかと思えば、僕を囮にしてチンピラをおびき出し、そいつらから財布を奪い取った。


 結果的には元々財布に入っていたお金以上の稼ぎを得ることができたわけだが、彼はなぜ僕を危険な目に合わせるような真似をしたのだろうか。

 いくら僕がお金をなくしたからと言って、仮にも雇い主を囮にするか?


 僕とアラキはお金だけの関係だ。

 でも、僕は彼と6年間を共に過ごし、育てられ、守られてきた。

 当然、僕は彼をただの用心棒だと割り切れるような存在ではなくなっていた。


 それだけに、昔と比べて雑になった彼の僕に対する扱いは、もしかしたら僕は彼に嫌われてしまったのかと不安にさせる。


 両親から報酬は貰っていると言ってずっと仕えてくれていたが、もしかしたらそのお金が尽きそうなのだろうか。

 もしそうであるのなら……


 またお金を払えば大事にしてくれる?

 

 僕はふと浮かんだその考えを頭を振って忘れようとした。

 大丈夫、僕と彼はお金以上のつながりがあるはずだ。

 例えお金がなくたとしても、アラキは僕を捨てるようなことはしない。


 そうやって自分の中で結論付けようとするが、胸の内に生まれた焦燥感や恐怖はなかなか消えてはくれない。


 そのせいだろうか。月明りに照らされてうっすらと見えるアラキの姿が、自分と彼の希薄な関係性を表しているようで、目を離せばいなくなってしまいそうな錯覚を覚えた。

 僕はベッドへ潜り込もうとするアラキをじっと見つめる。


 そうすれば彼が少なくとも今はここにいる事が実感できた。


「どうしましたか?」


 そんなどうしようもない私にアラキは気付いてくれた。

 その顔は、昔、子守唄を歌ってくれた時と同じだった。


「アラキ……手、繋いで寝ていい?」


 そんなアラキを見て、気付けばそんな子供っぽいお願いをしていた。


「いいですよ。お嬢様」

「ありがとう……」


 アラキと手を繋いで同じベッドへと入った私は、ようやく安心することができた。


 少なくとも、この手を握っている間、アラキが私の前からいなくなることはない。

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