7.
「何だか難しい顔をしているな。カリムと話し込んでいたが、何か言われたのか?」
「い、いえ、あの‥そういえばまだお礼を言っていなかったわね。いいお店を紹介してくれて、ありがとうシェイド。それに、貴方のお陰で何とか予算内に納まったわ。本当に感謝しています」
「いや、そう改まって言われると、何だか照れ臭いな。ところで、立ち入った事を聞く様だが、さっき買ったのは君の義姉達の物だと言ったね?」
「ええ。義姉様達の物よ。ザワージの時に使いたいんですって」
「君だってザワージに参加するだろ?君の分は買わないのか?」
「私はいいのよ。私みたいなのが選ばれる訳ないから、買っても宝の持ち腐れよ。それに、こんな見た目じゃあ飾るだけ無駄ね。白髪みたいな髪に、苔みたいな瞳ってよく言われるもの」
「何だって!?誰がそんな事を?」
シェイドは驚いた様子で、アイシャを見つめた。
何故そんなに驚くのか分からないアイシャは、キョトンとしながらその訳を尋ねた。
「どうしてそんなに驚いているの?義姉様達もカランの町の人も、大抵私を見るとそう言うわ。お陰で私は自分が不器量である事を早くから知れて、分不相応な装いにお金をかける必要もなく、経済的に助かっているわよ?」
「不器量だって!?呆れたな‥アゼル族の民族優位主義が、ここまで差別的な見方をしていたとは‥。だから”私なんか”という言い方をしているんだな。成る程‥自己評価が極端に低いのも頷ける」
「えっ?どういう事?」
「君は偏った物の見方をする環境で育ったから、本来君が受け取るべき賛辞を知らずにいるという事さ」
まるで自分には誇れる何かがある様な言い方をシェイドはしたが、何故そんな言い方をするのか分からず、アイシャは首を捻った。
「まあいい。ここはカランと違って正常な判断で君を見る。これから君は嫌と言う程、賛辞を受けるだろうな。あまり有り難くないんだが‥」
「あの、さっきからシェイドの言っている意味が理解出来ないんだけど?」
「今は分からなくていいさ、その内分かる。それじゃ買い物も済んだ事だし、最初の目的通り物件探しに行こうか?」
「え、ええ、そうね、元々それが目的ですものね」
「何だい?他にもまだ用事があるのか?それに店を出てから考え事をしている様だが、買った物に問題でもあったのか?」
「い、いいえ、買い物は十分すぎる程の物が買えたわ。私が考えていたのは‥そう!貴方の事よ。ほら、私は貴方の顔を見た事がないでしょ?一体どんな顔をしているのかなーと思って」
「俺の顔?へえ‥俺に興味を持ってくれたんだな。確かにこのまま顔を見せない訳にもいかないが、街中で覆面を取るのは都合が悪い。そこで一つ提案なんだが、実は君に見せようと思って、ある物件を探しておいたんだ。今からそこへ案内しようと思うが構わないか?そこでなら俺も、人目に触れず覆面を取れる」
「昨日の今日でもう探してくれたの!?驚いたわ‥。でも‥そういう事なら是非、案内して頂こうかしら。貴方の顔に興味があるのは事実だし、物件探しこそ今日の目的だったんですもの。ただ一つ、きっちりしておかないといけないのは、貴方は対価を受け取らないと言ったけど、それでは私の気が済まないという事よ。だからこれは仕事として、対価を払わせて貰えないかしら?」
「金銭的には困っていないんだが‥君の気が済まないと言うなら、別の物を要求するというのはどうだろう?」
「別の物?それはどんな物かしら?」
「君の目的が済むまでの間、俺と会う度に俺の希望を一つ叶えて欲しい。但し、君にとってはさほど難しい事ではない物にするよ。これでどうだい?」
「それでは貴方が割に合わないんじゃないかしら?やっぱり対価を支払った方がいいと思うわ」
「いや、俺にとっては対価より十分に価値があるんだ。だから対価の代わりにこの要求を飲んでくれないか?」
「‥‥分かったわ。本当は世話になりっぱなしで、心苦しいんだけど」
「気にしなくていいさ。俺は君といる事を楽しんでいるんだから」
シェイドはそう言って悪戯っぽく片目を瞑ってみせた。
この好意的な態度には、正直戸惑ってしまう。
昨日から時々こうやってからかって来るが、こんな風にされた事は今迄なかったし、アイシャにはその理由も分からないのだ。
シェイドが何を考えているのか、さっぱり分からないわ。
表情が見えないから、余計にそう思うのよね。
だけど一つだけ分かったのは、シェイドが頼りになるという事。
カリムさんもシェイドと知り合えた事は、幸運だったと言っていたわね。
私の知らない事情を知る人が、シェイドを推すという事は、それなりの理由があるという事だわ。
だとしたら表情を見た上で、話してみた方がいいのかもしれない。
どんな反応を示すかが分かるし。
そうね、元々雲を掴む様な話なんですもの、ダメ元で話してみよう。
「それじゃあ早速案内をお願い出来るかしら?」
「もちろん!大通りの向こうを少し入った所だ。道が混んでいるから、はぐれない様に俺の腕に掴まってくれ」
言われた通りシェイドの腕に掴まると、人混みを掻き分けながら、シェイドは大通りを渡って行った。
そこから裏路地に入り二つ角を曲がると、薄いピンク色に塗られた壁の住居の前に出て、その住居の白い扉の前で止まった。
「着いたよ。この家だ」
「この家?凄く可愛らしい家なのね。それに‥まだ新しいみたい」
「見た目ほど新しくはないが、何度も手を加えてあるから、そう見えるんだろう。さ、中に入ろう。中も見たいだろう?」
「ええ‥でも勝手に入っていいの?鍵もないと無理なんじゃ‥」
と、アイシャが言いかけた時、シェイドはズボンのポケットから鍵を取り出し、扉を開け始めた。
「勝手にじゃないから、遠慮なく見るといい」
「随分手回しがいいのね。ここの大家さんとは知り合いなの?」
「まあ、知り合いというか‥本人なんだが‥」
「ええっ!?待って、この家は‥貴方の持ち物って事?」
「‥そういう事に‥なるかな」
驚いたアイシャは、大きく目を見開いた。
またもやシェイドに対する疑問が、大きく膨らみ始めてしまった。
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