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アルドの花嫁  作者: 栗須まり
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6.

店主が品物を包み始めると、シェイドは店の奥の棚へ移動して、実用的な革のベルトを眺め始めた。

アイシャは包んでいる様子を見守りながら、店主と2人になったこのタイミングで、いくつか質問してみる事にした。

それは、もう一つの目的に関する事柄だ。


「えっと‥カリムさんは商売柄、自分でも異国へ仕入れに行く事があるのかしら?」

「ええ。やはり見る目がないと、良い物は手に入りませんからね。年に二回‥大体3、4ヶ月は出掛けますよ」

「いつもどちら方面へ行かれるの?」

「西方が多いですかね。アルドより東方だと道が悪く、気候の変化が激しいので」

西方と聞いてアイシャは目を輝かせた。

聞きたかったのは、西方のどこかの国の筈だからだ。


「あの‥私の様な容姿は、何処の国の出身だと思いますか?」

「お嬢さんの様なですか?ふむ、西方の顔立ちだとは思いますが、何処の国とは特定出来ませんな。おそらく西方の北ではないでしょうか?ダンハルクやオスレー、ストケルムなんかには比較的髪色や色素の薄い、お嬢さんの様な容姿の人々が多かった覚えがあります」

「ダンハルク‥オスレー‥ストケルム‥。あの、この三つの国の言葉の中で、エゼンタールという単語はありますか?」

「エゼンタール?申し訳ないですが、私はいつも通訳を雇っているもので、言葉は分からないですね」

「‥そうですか‥。そうですよね、普通に考えたらそうなるでしょうね‥」

「ふむ、どうやらお嬢さんには、何か事情がありそうだ。まあ、お嬢さんには2点もお買い上げ頂きましたし、何よりあの方のご紹介だ。知り合いの卸売業者に言葉が堪能な男がいますので、エゼンタールの意味を聞いてみましょう」

「本当!?ありがとうカリムさん!あの、ついでと言ってはなんですが、このペンダントを見て貰えませんか?」

アイシャはそう言うと、胸元から銀のチェーンに金色の指輪を通した物を取り出した。

チェーンはどこにでもある物だが、そこに通された指輪は金で出来ており、台座に当たる部分には、見た事のない模様が彫られている。

羽根の生えた獣が扉を守っている様な、特徴的なデザインだ。


「ほう!これは‥西方の貴族なんかが身分を表す紋章入りの指輪ですね。こういった指輪は手紙を出す際に、封蝋に押して使うんですよ。その封蝋を見れば、一目で誰からの手紙か分かるんでね」

「紋章‥ですか?それに貴族って‥」

「お嬢さん、これは何処で手に入れた物ですか?」

「手に入れたというよりは‥形見と言った方がいいでしょうね。私を産んだ母親が、育ての母に託した物なんです。カリムさんは宝飾品を扱う仕事柄、こういう物には詳しいかと思って‥」

「確かに詳しいですが、これは世に出回る物ではありません。こういった物は代々受け継がれていく物ですからね。しかしお嬢さん、形見というからには、お嬢さんを産んだ方は、それなりの身分の方かもしれませんよ」

「それなりの身分‥ですか?あの、これがどこの国のどの家の物であるのか、調べる事は可能でしょうか?」

「西方と言っても沢山の国がありますからね、個人で調べるには限界があるでしょう。ですがお嬢さんは運がいい。あの方と知り合えたのですから」

店主は言いながら、チラリとシェイドの方を見た。

それを不思議に思って、アイシャは聞いてみた。


「あの、それはどういう意味なんでしょうか?」

「ああ、説明不十分でしたね。というか、これ以上私が余計な事を言わない方がいいでしょう。おお、そうだ!失念しておりましたが、ダンハルク語はあの方も話せた筈です。ですからお嬢さん、その調べ物はあの方に協力して貰うべきですよ」

包み終わった品物を渡しながら、店主は笑顔でそう言った。

そんな事を言われては、やはり先程と同じ疑問が浮かんでしまう。


一体シェイドとは何者なんだろう?


護衛をしているという割には、おそらく貴族の身分を持ち、西方の国々の中でも交易の少ない、ダンハルク語を話せるという。

更に店主の口ぶりでは、指輪の出所を探すルートを持っていそうな雰囲気だ。

アイシャの事を謎だらけだなと言う、シェイドの方がよっぽど謎だらけだ。

そんな謎だらけの男を、果たして信用していい物なのかどうか‥

アイシャはシェイドに相談するべきかどうか、決め兼ねてしまった。

しかし今の所他の方法は見付からない。

何といっても知り合いのいないスワヒールで、他に頼れるアテもないのだ。

とはいえカランでも友人や知り合いはいなかったし、こんな風に指輪について相談出来る店主もいなかった。

カランの民はアイシャの事を”厄介者”と罵り、特別親しくなろうとはしなかった。

だから異国の隊商相手にしか、仕事をする事は出来なかったのだ。

その点スワヒールで出会ったこの店主は、1人の客として扱ってくれる。

アイシャは店主に丁寧にお礼を言うと、奥のシェイドに声をかけた。

取り敢えずこの店を出てから、シェイドに相談してみるべきかどうかを考えよう。

アイシャはそう思い、シェイドと2人で大通りへ向かって歩き出した。


読んで頂いてありがとうございます。

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