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アルドの花嫁  作者: 栗須まり
3/23

3.

宿に戻ったアイシャを待っていたのは、義姉達の理不尽な注文だった。

埃っぽいから湯浴みの用意をしろだの、腰が痛いからマッサージをしろだの、好き勝手な事を言っている。

アイシャはそれに逆らう事なく、従順に言われた事をこなしていった。

第二夫人はアゼル族至上主義で、その娘である義姉達もまた、アゼル族以外を認めない。

その為子供の頃からアイシャに対して、見下した態度を取って来た。

今回の旅ではアイシャの事を、使用人替わりにしか思っていないらしい。

それらを理解した上で、アイシャが身に付けた処世術は、従順な態度を貫く事だ。

『二週間後には自由が待っている』

そう思えば義姉達の仕打ちなど、いくらでも我慢出来た。

それに、2人の扱いには慣れている。

おだて方もまた心得ており、それによって自分の利益を生み出す方法も知っている。


2人の義姉が湯浴みを終えて、身支度を整える手伝いを頼まれると、アイシャは早速おだてる事にした。

「相変わらず一のお義姉様の髪は美しいですね。今日町で、透し模様が入った金細工の髪飾りを見かけました。きっとお義姉様の髪によく映えるでしょうね」

「あら、金細工ですって?どんな形の物なの?」

「楕円形で表に透し模様、裏に留め金が付いていて、髪を一つに纏められる物です。結い上げてあの髪飾りを留めたら、さぞかしお義姉様の髪は注目を浴びる事でしょう」

「まあ!アイシャ、明日早速買って来なさい!」

「よろしいのですか?私の見立てで?」

「ええ。アンタは見立てだけはいいんだから任せるわ。それに、ザワージ用にいくつか必要だもの。カランから持って来た物より、王都で売っている物の方が、品がいいに決まってるわ!」

「では、明日買って来ます」

するとアイシャと上の義姉のやり取りを見て、もう1人の義姉が不満そうに口を挟んだ。


「ちょっと、お姉様だけズルいわよ!抜け駆けしようったって、そうはいかないんですからね!アイシャ、他に私に似合いそうな物は見なかったの?」

「‥そういえば、二のお義姉様にピッタリな帯が売っていました。銀糸の縫取りに鮮やかな刺繍は、きっとお義姉様の細い腰に映えるでしょうね」

「決めたわ!私には帯を買って来て!私だってザワージ用が必要ですもの。年齢的に第二王子のお相手は、私がちょうどいいんですから。王子より二つも年上のお姉様と違って」

「何ですって!私は年齢制限の範囲内よ!25歳までなら参加可能なんですからね!」

「それでも若い方がいいに決まってるわ。だって下は15歳からですもの、お姉様とは7つも違うのよ。殿下の受け入れられる年齢は、25歳までって事でしょう?お姉様はギリギリだわ」

「25歳ならまだ3年あるじゃない。それに、15歳なんてまだ子供よ!殿下だって大人の女の方がいいに決まってるわ!」

「どうだか‥。まあ、お姉様は王太子殿下の時に選考から漏れたんだから、これが最後のチャンスだわね。せいぜい頑張って頂戴。選ばれるのは私だけど」

「今のうちに好きな事を言ってなさい。後で吠え面かいても知らないから」

フン!と2人はそっぽを向いて、火花を散らし合っている。

ザワージが近付くにつれて、2人は仲違いが多くなった。

最近では顔を合わせる度にこの調子で、アイシャもいい加減ウンザリしている。


まあ仕方ないわね、一のお義姉様にとっては、降って湧いた幸運なんだから。

元々今回のザワージには、二のお義姉様だけが参加する予定だったのだもの。


アイシャがこう思うのには理由があった。

現在のアルドには2人の王子がいて、王太子である第1王子のザワージは3年前に終了し、上の義姉はその時参加したが選ばれる事はなかった。

そこで今回は二番目の義姉だけが参加する予定だったのだが、上の義姉にも参加資格が与えられたのだ。

ザワージという制度がある為、アルドの王子には相手を選ぶ自由がない。

その為、なるべく王子の希望を取り入れるという、仕組みになっている。

今回行われる第2王子のザワージでは、25歳から15歳までの全ての娘という、年齢制限と規定が設けられていた。

お陰で20歳の二番目の義姉ばかりか、22歳の上の義姉、そしてアイシャも参加の対象となったのだ。


「あの、お義姉様方、必ずお似合いの物を仕入れて参りますので、軍資金を頂けませんか?」

「「ああ、そうだったわ!」」

2人はそれぞれ族長から持たされた、金貨の入った袋を開けた。

アイシャもいくらか用意して貰ったが、3人分は大変だろうと2人より大分少なく貰っていた。

「この位あれば足りるかしら?」

「いいえ、あと一枚必要です。やはりいい物ですからね」

「そう?カランより高いのね。それじゃあこれで」

「これでお義姉様方にお似合いの品が買えますね。明日の午後から行って参ります」

「朝から行けばいいじゃない。わざわざ午後にしなくても」

「午後の方がお店が沢山並ぶんです。今日見た物より、もっといい物があるかもしれませんから」

「そうなの?アンタと違って私達はきちんとした令嬢ですからね、そんな下々の事情なんて知らないのよ。まあいいわ、アンタに任せるから、必ずいい髪飾りを買って来なさいね」

「私の帯も必ずよ!」

「はい。ですが少々時間はかかりますよ?その間身の回りの事は、ご自分でやって下さいね。いい物を選ぶには、時間がかかりますから」

「「えー!ま、まあ仕方ないわね。その代わりきちんといい物を選びなさいよ!」」

「はい!必ず!」

自分達の物を選んで貰うなら仕方がないと、義姉達は渋々許可を出した。

アイシャは義姉達から受け取った金貨を、しっかり皮袋の中にしまって、ニンマリとほくそ笑んでいた。


上手くいったわ。

2人共おだてに弱いんだから。

追加で貰ったこの金貨は、私の蓄えに回してと!

後は残りの範囲内で買い物をしよう。

あ!値切れば余りも蓄えに回せるわね!

我ながらズル賢いとは思うわ。


昔から義姉達にいじめられる度に、どうすれば義姉達に悟られず仕返しが出来るか、考え付いたのがこのやり方だ。

“いつかカランを出て行く為に蓄えておく必要がある”

元々はそう考えたのがきっかけで、義姉達からせしめた金貨と通訳の仕事で、暫く食べていけるだけの蓄えは出来た。

差別的なアゼル族の中で、異国人のアイシャが生きていく為には、逞しくしたたかにならざるを得なかったのだ。


読んで頂いてありがとうございます。

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