11.
アイシャと別れたシェイドは大通りを左に曲がり、その先の路地を抜けて城壁の手前の小さな小屋へ向かった。
その小屋の横には林があり、そこには馬が二頭繋がれている。
近付いたシェイドが馬の鼻先を撫でると、馬は嬉しそうに鼻を鳴らした。
すると小屋の扉が開き、中からシェイドと同じ様な格好の男が顔を出して、不機嫌そうに口を開いた。
「随分とごゆっくりでしたね。夜を明かすかと思いましたよ」
「だから着いてこなくていいと言っただろう?俺は一人がいいと何度も言ったぞ」
「そういう訳にはいきません!供も連れずに出歩くなんて、あってはならない事なんですから!」
「お前は相変わらず頭が硬いな。もう子供じゃないんだから、自分の身は自分で守れる」
「貴方が何と言おうとも、私の仕事は貴方の従者です。もう7年もお仕えしているんですから、いい加減分かって下さいよ」
「分かった分かった、お前のしつこさは良く知っているよエジル。だからきちんと出かける事は告げているだろう?」
「告げてもいつの間にか何処かへ消えるんですからね、貴方は!確か最初はナフタルの町で、その次はカラン、その次はエフェスでしたっけ‥。今回は王都なだけマシですが。で?ウキウキしながら出かけた割に、何故そんなにガッカリしているんですか?」
「‥エジル、俺と初めて会った時‥どう思った?」
「はい?どうって‥質問の意味が分かりませんが?」
「俺は割と成長が遅かっただろう?だから‥初めて会った時、俺の事を‥その、ちゃんと男だと認識出来たかという意味だ」
「そういう意味でしたか。でしたらその質問にはお答え致しかねます」
「何故だ?」
「正直に言ったらアレなんで。私は怒られる覚悟が出来ていません。待たされた挙句怒られたんじゃ、割に合わないじゃないですか」
「怒らないと約束するから、正直に言ってくれ」
「その言葉は撤回出来ませんよ!じゃあ正直に言いますが、凄い美少女だと思いました」
「少女‥‥お前もか‥」
「いえ、美少女です。ちゃんと美が付いていますからね、単なる少女じゃありませんって。不謹慎にも思わず見惚れてしまいましたよ、あの時は。えっ!?どうしたんです?しゃがみ込んで?」
シェイドはガックリとしゃがみ込み、長い溜息を吐いている。
慌ててエジルもその横に膝をついて、シェイドの背中を摩った。
「激しくショックを受けただけだから、心配しなくてもいい。まさかお前にまで女だと思われていたとは‥思わなかったんだ」
「お前にまでって‥はは〜ん、さてはウキウキの元にもそう言われましたね?」
「‥ああ‥完全に女の子だと思われていた‥」
「プップププッ!完全にですか!いや、思わず笑ってしまいました」
「笑ったな?怒るぞ」
「ええっ!怒らないって言ったじゃないですか!」
「正直に言えとは言ったが、笑っていいとは言っていない」
「いや、ここは笑う所でしょう?私は空気を読めますからね、笑いのツボをちゃんと心得ているだけですよ。それに、八つ当たりは良くないです。とばっちりは勘弁して下さい」
「ハァ‥悪かったな。諦めていた事が上手くいきそうになって、浮かれていたらこのザマだ‥。それでも‥俺はもう、諦めないと誓ったんだ。兄上のお陰でな」
「ええ‥時間はたっぷりあるんですから、焦る必要はありません。慰めになるかは分かりませんが、今の貴方は男の私から見ても、惚れ惚れする程いい男ですよ。そこは自信を持って下さい。加えてお立場を考えれば、どんな女性でも否とは言わないでしょう」
「そんな物に左右される相手では無いんだ。だから余計に惹かれるんだろうな‥‥‥。そうだエジル、至急調べて貰いたい事がある」
「至急?何をですか?」
「ダンハルク、オスレー、ストケルムの貴族の名前と、紋章の図柄を調べてくれ」
「ええっ!!かなりの数じゃないですか!一体何に使うんですか?」
「訳は戻ってから話す。ひとまず帰って、俺も仕事を片付けたい。3日後にまた会う約束をしているからな」
「うわーそう来ましたか。大体そういう仕事は私じゃなくて、イスハーク様に頼んだ方がいいと思いますが?」
「イスハークにはこれ以上頼めない。頼んだらこうやって出かけられなくなるからな。だからお前を見込んで頼むんだ。何でも話せるのはお前だけなんだから」
「ハァ‥そんな言い方をされたら、文句も言えませんよ。本当に私は損な役割ですねぇ‥」
「俺はお前のそういう所が気に入っている。さあ、急いで戻ろう!イスハークの頭に角が生える前にな!」
シェイドは馬に跨って、城壁沿いに走り出した。
慌てて馬に跨ったエジルは、文句を言いながらもシェイドの後を追った。
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