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アルドの花嫁  作者: 栗須まり
1/23

1.

別作品の「こじらせ王太子と約束の姫君」と、同じ大陸の別の国という設定です。

エルラント大陸の東方には、大陸の壁と呼ばれるハマン山脈が連なり、その足元には砂漠地帯が広がっている。

砂漠地帯にはアルドという王国があり、東方最大の交易都市として、広く西方にも知れ渡っていた。

そのアルドの王都スワヒールは、ハマン山脈に降った雨水や雪解け水からから成る清流が注ぎ、砂漠では珍しく豊富な水量を誇る都市である。


かつてのアルドはスワヒールの他に、7つの部族がそれぞれに都市国家を形成し、彼等はスワヒールの水を求めて幾度となく水争いを仕掛けてきた。

そんな砂漠地帯の混乱を収めたのは、300年前のスワヒールの族長シェイドであった。

彼は全ての部族を平定し、アルドという一つの国を建国したのである。

シェイドは強く優秀な男で、スワヒールの地下に巨大な貯水槽と7つの都市を結ぶ地下水路を建設し、これを使って水を送るという方法を考え出した。

これにより水争いは無くなったのだが、更に七つの部族との強固な繋がりを結ぶ為『ザワージ』という仕組みも作った。

『ザワージ』とは、七つの部族の族長の娘達の中から、アルドの王子の妻を水占いで選ぶ儀式である。

そして現在、ここスワヒールでは第2王子のザワージが、二週間後に行われようとしていた。


ザワザワと異国の隊商で賑わう王都の大通りを、アゼル族の娘達の乗った幌馬車が進んで行く。

「いい加減馬車に揺られるのは、もううんざりよ!何でこんなに道が混んでいるの?全然先に進めないじゃない!」

「お姉様、喚かないでよ!ただでさえ町は騒がしいのに、お姉様のヒステリックな声で頭痛がするわ!」

「何ですって!ふん!どうせアンタなんか選ばれないんだから、一緒に来なけりゃ良かったのに!」

「まあ!行き遅れのお姉様が、選ばれる訳ないじゃないの!」

族長の娘達は、ザワージに参加する為、わざわざアゼル族の都市カランからやって来た。

しかし彼女達は苛立ち、お互いを罵り合っている。

その横で静かに控えていたもう1人の娘は、見兼ねてつい口を挟んだ。


「お義姉様方、もう少しだけ辛抱して下さいな。宿はこの先を右に曲がった所だそうです」

「ふん!アイシャ、あんたこそ来なけりゃ良かったのよ。その白髪みたいな髪を見るだけでも鬱陶しいわ!」

「そうよ!アイシャ、あんたは馬車から降りて歩いたら?そうすれば軽くなって、馬車も早く走るんじゃない?」

「あら?いいアイデアね!アイシャ、そうしなさいな。あんたは足腰が強いんだから、歩いたって平気でしょ?」

「そんな!お義姉様‥」

抵抗する間もなく2人の娘は馬車を止めると、末っ子であるアイシャを馬車の外へ放り出した。

「待って!置いて行かないで!」

アイシャは叫んだが、幌馬車はお構い無しに進んで行く。

大通りの雑踏に一人取り残されたアイシャは、両手で顔を覆い肩を震わせた。

通りすがりの人々は、泣いていると思わしき娘を、興味本位でジロジロ見て行く。

だがアイシャは指の隙間から、冷静に義姉達の乗った幌馬車が遠ざかって行くのを確認していた。

そうしてすっかり見えなくなると、覆っていた手をパッと外す。


「なーんてね!あーせいせいした!」

けろっとした顔で両腕を空に上げると、う〜んと思い切り伸びをする。

「いい加減あの2人と一緒は、ウンザリしていたのよね。町も見ておきたかったし、ちょうど良かったわ!」

嬉しそうにそう呟くと、後ろから盛大に笑い声が聞こえた。

見ると全身黒ずくめの、頭から顔まですっぽり布で覆った、覆面姿の男性が腹を抱えて笑っている。

砂漠を旅する隊商には、この様な格好をする者は多いが、街中でこういう格好はあまり見かけない。

多分スワヒールに辿り着いたばかりなのだろうが、何がそんなにおかしいのかと、アイシャはキョロキョロと辺りを見回した。


「アッハッハッハ!異国の娘さん、俺が笑ってるのはあんたの事だよ!泣いてるのかと思って声をかけようとしたら、けろっとしてるんだからな。悪いけど、さっきの様子は全部見ていたよ」

「いきなり失礼ね貴方。人の事をそんな風に笑うものじゃないわ!それに、生憎と私は異国の娘ではなく、アルドの民よ」

すると男性は近付いて来て、興味深そうにアイシャを見た。

布で覆っているので顔は分からないが、背が高く鍛えられた身体つきをしていて、腰には剣を下げている。

そしてこの男性の辛うじて見る事の出来る瞳は、ターコイズの様な綺麗な青色だった。


「異国の娘じゃないって?その髪色に真っ白な肌で?」

「人の事を笑う相手に、これ以上話す必要があると思う?」

「ああ、悪かったよ。あんたがあんまり儚げで美しいもんだから、慰めようと思ったんだ。本当は笑うつもりも無かった」

「あんたじゃないわ。私には義母が付けてくれた、アイシャって名前があるの。それに、きちんと謝ってくれたんだから‥お世辞はいらないわ」

「お世辞だって?俺は本気であんた‥アイシャを美しいと思ったんだぜ?月の光みたいに綺麗な銀色の髪と、エメラルドの瞳なんて、異国人の多いスワヒールだって滅多に見る事はないんだから」

「もういいわ。要するに、珍しいって事ね。ねえ貴方、今の言い方だと‥スワヒールに詳しいみたいね。その格好から見て‥隊商の護衛をしているんじゃないかと思うんだけど、違う?」

「ん?あ、ああ、この格好か?君の言う通り隊商の護衛をして暮らしている。一番近いケリアの町からスワヒールまでを行ったり来たりさ。さっきオランドから来た隊商と別れたばっかでね。久しぶりに家に戻ろうとしたら、君を見かけた」

「やっぱり護衛をしているのね!それに、今別れたばかりという事は、誰にも雇われていないという事だわ。実は私、護衛兼案内役を探しているのよ。もし貴方さえ良かったら、私に雇われてみない?」

「君の護衛だって?突然何を言い出すかと思えば‥君は謎だらけだな」

「謎って程の謎は無いわよ。聞いてみたら大した事ないって思うんじゃないかしら?私の身の上話なんて、大して面白くもないし」

「ふ〜ん‥。でも俺は君に興味がある。仕事を受けるかどうかは、まずは君の話を聞かせて貰わないと判断出来ない」

「‥それもそうよね。いいわ、初対面で理由も話さず依頼するのは、マナー違反ですもの。でも私は限られた時間内で、色々な事を決めなきゃならないのよ」

「何にせよ詳しく話してくれないか?立ち話もなんだから、場所を変えよう。俺の後を着いて来てくれ」

アイシャは頷き、黒ずくめの男性の後を黙って付いて行った。

知らない町で知らない人を簡単に信用するべきではない。

その意味を知っていたアイシャは、いつでも逃げられる様注意を怠らなかった。


読んで頂いてありがとうございます。

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