表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/15

勾玉の魔導師 1

僕が生まれて1週間後、

母上様はご逝去なさいました。


生後間もない僕には、

母上様の温もりも声も姿形も

何も記憶に残ることはなく…


唯一 "僕" という存在だけが、

母上様が存在していたことを

僕に証明してくれています。



とある王国の

第一王子として生まれた僕は、

あらゆる環境が整えられ

異母兄弟の弟 第二王子と一緒に

優秀な先生の元

武芸・呪術・天文学・帝王学・文化教養等の

高等教育を受け、

衣食住に於いても何一つ不自由のない

裕福な暮らしをしていました。


先生の指導が優秀なのもあり、

僕は大抵のことを

率なくこなしましたが

その中でも 1つだけ

どうしても受け入れられず

拒絶してしまう科目がありました。


それは、

動物の殺生など

戦を想定した授業です。


武器の命中率を上げるため、

動くものをとらえる修練として

野山に生きる動物を 的にするのです。



なぜ我々人間の都合で

何の罪もない彼らの

命を奪わなくてはならないのか‥



狩猟に長けた先生は

いつもの事だと言わんばかりに

感情を揺るがすこともなく、

僕たち生徒の前で

野を駆け巡る

無邪気な鹿の親子の親を

鋭く射貫いて見せました。


その後

生徒の僕たちにも

やってみなさい、という先生は

まず最初に弟を指名。


弟は先生のそれに(なら)

動揺するそぶりもなく、

見事に命中させ

空を優雅に飛ぶ鳥を

地に落としました。




それから 何人かの生徒が指名され、

次々に射貫いていく。



そして僕の番が来ました。







僕はというと‥












棒立ちになったまま動かない僕に、

呆れた先生は 生徒の一人に

野兎を捕まえてくるよう命じました。



少し経って、

野兎の首の皮を掴んだまま

走って戻ってきた生徒は、

自慢げに先生に見せつけます。




満足そうに笑顔で頷いた先生は、

僕に向かって冷たく言い放ちました。





「首を折りなさい」





何だって?





信じられない‥




僕にはできない‥




この何の罪もない

健気な生き物の息の根を

僕がこの手で・・?




・・・






絶対に嫌だ





震える体を抑え、

その場から逃げるように

絡む足取りに戸惑いながらも

必死で走り出しました。



後ろから聞こえる笑い声…

生徒たちは僕を馬鹿にしている。




「第一王子は玉なしだ」

と。


なんとでも言ってくれていい






なぜ罪のない動物の命を

戦の模擬相手として

殺めなくてはならないのですか?






理解ができない






人間同士の争いだって、馬鹿げている








その土地にある資源がほしくて、

隣国同士で土地を奪い合う争いが

何百年と続いているのです。



なぜ




資源など

分け合えばよいではないですか。

なぜ奪う必要があるのですか。



権力や力で、

勝った負けたと繰り返すことに

一体何の意味があるのでしょうか?






理解ができない






裕福な生活の中で、

何一つ不自由のない"不自由"と

日々 葛藤していました。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ