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百合の花の妖精 3

「ヤマト殿下、

ご無事のご帰還

なによりでございます。」



そうして迎え

拝殿へと案内した。


俯いたまま

顔を上げないヤマトを…




茶を沸かし、

ヤマトの前に差し出しながら

旅の話を聞く。





すると

突然 姿勢を正したヤマトは、

膝を折り

手を付いて

頭を下げた。



「巫女、そなたの言うことを

一つも聴かず… 我は…我は…」




私から

何も言えることはない。


彼らの祈願は

叶え届けられることなく、

悲しみと後悔を残し

破り去られた。







「そなたの言葉を

素直に聴いていたら…

いや…

あの時

素直に聴ける心そのものを

我が持っていさえすれば…

あの健気で優しい妃を

失うことは

なかったのだろうか?

あぁ…

我は救いのない愚か者だ。」



痛みを知って

ようやく

自らの至らなさを知る。



失ってからでは遅いことを

ヤマトは今 身に沁みている。




失う痛みを知らない者が

国の命運を

守ることができようか。



妃は 分かっていたのだろう。

これでよかったのだ。






皇族として生まれた。






それは

ヤマトにとって、

才が災いし

窮屈であったことだろう。



妃は

前皇の時から

皇子を見知っていたはず。



ヤマトの危うさも

理解していただろう。


そして

いつか来るこの日を予期し、

とうの昔に

覚悟を決めていたに違いない。









妃は 海に身を投げて

命を捧げた。





驕り高ぶった

ヤマトを戒める、

大時化(おおしけ)の海。






愚かな人間の業を

飲み込もうとする

母なる海に。




ヤマトに代わって、

ヤマトと国の民を

身を呈して守ったのだ。




愛する者を

全身全霊をかけて守る。



これこそ

皇族としての

あるべき姿だ、と。




皇子としてのお役目を

全身で伝えたかったのだろう。





そうして

妃は海に沈んで命を終えた。









ヤマトは、

しばらくの間

姿勢を変えることもなく

泣き崩れていた。





悲しみの嵐を全身に受け、

その痛みに耐えられず

来る日も来る日も

一心に泣き続けていた。



その度に

鏡に向かう私に向かって

頭を下げていた。





鏡に祈りを捧げる私に

毎日飽きもせず、

悔やむ想いを

泣きながら訴えてる。



それはきっと

天啓に背いた罰だ と

せめて

姿形(すがたかたち)がある私に

そうする事で、

ヤマトの心に

いくらか救われる

"何か"が

あったのだろう。





そして ヤマトは、

心身の療養を兼ねて

私の守る この神殿に

居候することとなった。

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