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百合の花の妖精 2

私は人間だったことがある。





その人と

初めて出会った時、

彼は 一人の女性を連れていた。



その女性は、

ヤマトの妃だった。



桜色の着物が

とてもよく似合う

スラッとした大和撫子。



柔和な雰囲気で、

地位が高い事にも

特に鼻にかけることもなく、

皇居より離れに住む

田舎巫女の私にも

気さくで親しみがあった。



二人はこれから

海を渡るために、

安全祈願をしに

この神殿に

やってきたらしい。



ここは

天界と繋がる

ワームホールがある、

皇族しか

結界を通り抜けられない

隠された 神聖な土地。




祈願





巫女の私は

二人の旅の無事を祈るため、

本殿の鏡に向かって

儀式を執り行った。




そして天啓を受けた。

"命の覚悟をしなくてはならない"





降りてきた言葉に、

頭が真っ白になった。



…?




このままを伝えるには

情報が不十分だ。




落ち着いて…



もう一度集中し、

天啓に預かった。




"海を鎮めよ"




一体 何が起ころうというのか。




あの静かで穏やかな海で、

命の覚悟を決めるほどの

"何か"

が 起ころうというのか?



「殿下、

海に行き何をなさるのですか?」



まずは

大事を回避するべく道を

探るしかない。



向きを180度転換し、

私は二人の方に座り直した。




ヤマトは嬉々として答えた。



「ふん、運試しだ!

我は皇族に生まれた。

しかし

この有り余ったチカラと武の才は、

親兄弟からは

忌み嫌われ 恐れられた挙句、

我を皇宮から追い出したのだ。

故に こうして国を回り

未開の土地を拓いている。」



大層誇らしげに語るヤマト殿下。





その危うさに、

私は先を予期したが

続くヤマトの話に耳を向けている。




「ご覧の通り

戦うところ負け知らず。

皇族に生まれたことは

不運であったが、

それ以外は申し分ない。

人にはもう飽きた。

我は 自然と相対し申す。」





愚かな…




殿下の生い立ちが

心の行く道を

歪ませたのだろうか。




妃はこれを

なぜ止めないのか?



妃に問う。




「お妃様。

これに 貴女様は

いかがお考えですか?」


妃はにっこり微笑んだ。



「わたくしは、

皇子の仰せのままに

付いていく所存でございます。」





鏡が キラッと光った。

彼女の心は、本物だった。




この覚悟…



私はそれ以上を

聞くべきではないと理解した。




この世には

変え難い定めがある。




「殿下。

覚悟を決めて

海に向われていただきたい。

驕り高ぶった心は、

海にのまれかねません。

決してそのような

(よこしま)な心を海に持ち込まず、

身を清め

真摯な姿勢で

挑まれますように。」




しかし

高慢な態度のまま、

ヤマトは一切

聞く耳を持たなかった。



「問題ない!

何が起ころうとも、

この手でねじ伏せてくれる。」



ヤマトは

この先に待ち受ける全てを

この愚かな心で

受け止めるのか…




妃はにっこり微笑んだまま。

覚悟は既に備わっている。





あれから二人が海に出て

二月(ふたつき)が経ち、

再びこの土地にヤマトが現れた。







一人だった。


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