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勾玉の魔導師 3

夜が明けて、

雨は止みましたが

空には一面を覆う灰色の雲。


風はそう強くはなく、

髪の毛が柔らかく靡く程度です。




出陣の時





城下町の主要路を通り抜け、

僕を先頭にして

騎士一同は戦場へと赴きました。



民は、道の両側から僕たちへ

激励の言葉をかけてくれます。



「王子、初陣(ういじん)おめでとうございます。

どうか御武運を!」





何がおめでたいことか‥





僕の心もこの空のように

曇ったままでした。






陣地に着き、大将の座で

敵国を待つひととき。




冷静になって思う。




"戦うのは僕じゃない、騎士たち・・"


いや…

それ以前に 彼らは国民、

国の宝だ。




僕に至っては、

彼らの命の上に生かされてきた王子。




そして今

彼らの命を盾に僕はここにいる…





‥変ではないか?







僕自らが手を下さないだけで、

これから一体何人の命が

ぶつかり合い

殺し合い

生き絶えて行くでしょうか‥




僕が殺すのと

誰かが殺しあうのでは、

一体何が違うのでしょうか?




例えば

大将を早くに打ち倒せば、

両国の騎士たちも

無駄死にすることはなく

多くの命を救えるのでしょうか?



そもそも

敵国の大将は悪なのですか?



敵国から見たら

僕だって 悪 として映りましょう。





資源を独占する国の王子‥







これは 僕が望んだことではない。


でも 事実、

僕は この国の王家に生まれ

この国の繁栄によって

今日(こんにち)まで生かされている。




善とは何か

悪とは何か






僕はこの時

酷く冷静でした。






「騎士団長殿、こちらへ。」




僕の呼びかけに、

すぐさま はっ、という返事と共に

やってきた男に こう告げました。




「僕が先陣に立ちます。」





「「は??」」



騎士団長はもちろんのこと、

僕を取り囲む騎士たちも 皆

動揺している様子でした。




しかし 構っている余裕はありません。




「聞こえませんでしたか?

僕が先陣に立ちます。

団長殿は、僕に代わって

こちらに座っておいでください。」



参ります


そう短く発して、

馬に跨り前線へと向かいます。




あたりはしーんと静まっていて、

僕を乗せた馬の蹄の音と

僕の身を守っている金具がぶつかる

シャランとした音だけが響いています。









陣の先頭に到着し、

後ろに控える不安そうな騎士と共に

敵国の登場を待っていました。




暫くして





遠くに見える砂埃は、

彼らを知らせているかのよう。






僕は、

背を向けていた騎士たちに向き直ろうと

馬の手綱を引きました。






「皆の者、聞いてくれ。

僕が作戦とは違う行動を取ったこと、

申し訳なく思っている。

しかし

僕はこの期に及んでも尚

戦はしたくない。

お願いだ、みんな。

必ず生きてくれ。

僕のために 国のために

ここで死んだりしないでくれ。

お願いだよ、

みんなは僕の大切な家族なんだ。

みんな、ごめん・・

ありがとう。」



ざわざわ・・



騎士たちは、

一体どんな風にこの言葉を

受け取ったのだろう。






そろそろ時間だ





再び騎士たちに背を向け、

目を閉じて深呼吸をする。









僕はこの時













瞼の裏で 優しい光を見ました


























次に目を開いたとき、

全く身に覚えのない場所・・






綺麗な庭園…

ここに居ました。








あれは 夢だったのでしょうか?


それとも

ここが夢なのでしょうか?



僕は戸惑い、

暫く あたりを見回しては 首を傾げ、

記憶を辿ってみては 首を傾げ、

不思議な時を過ごしていました。











さぁ






何が現実なのか

何が夢の中なのか










未だにわかりません。












遥か昔

僕がここにやって来るまでの話です。





退屈させてしまいましたか?






なんて、ね。

ふふふ


僕は 一体 誰と話しているのでしょう。




我にかえると、

なんだか自分で自分のことが

可笑しく思えてきて

一人 クスクスと笑っていました。








トントン




不意に 背後から肩を叩かれました。


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