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勇者と元勇者が平和の世を行く  作者: 凪沙一人
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旅之九 常夜の春

「城を取り返して欲しいって依頼だ。退治して欲しいとは言われてないからな。」

 ノワもアマンダも修道院に入ったのはゼファーが魔王を倒す以前の事である。『魔物=魔王の手下』と教わってきたので、その魔王を倒した元勇者のゼファーが魔物である魔栗鼠を追い払うと言い出したのが意外だった。

「いや、魔栗鼠だけじゃない。… ありゃプランタンだ。」

「それって、プランタン・ニュイジャルダンですかっ! 」

 大きな声を出してしまったアマンダの口をノワが慌てて押さえたが、もう遅い。プランタンは修道院でも教わるくらい、名の通った魔物だった。

「確かに我はプランタン・ニュイジャルダン。貴様ら何者… 。」

 プランタンは、そこで言葉を止めた。居るのがバレてしまえば隠れている必要はない。ゼファーは魔物にとって有名人だ。

「ゼファー・ゼピュロス!? 勇者が残党狩りか? 」

「お前らが悪さをしなければ、ギルドに依頼出す奴はいねぇよ。復興に精一杯で、そんな余計な金は皆、無い。」

 ゼファーが魔王を倒した事によって、魔王軍の襲撃を受けた町や村は、ようやく復興に手をつけたばかりだ。それを妨げ、自分たちの手に負えないものは、魔物でも獣でもギルドに依頼をする。逆に復興を妨げないのであれば、生活費に回す方が先だ。

「あの魔王を倒した貴様が雇われ商売とは情けない。墜ちたものだな。」

「一つ訂正だ。今の俺は雇われちゃいない。勇者でもない。無職だ。」

 無職を、そう堂々とアピールされても、プランタンも困るというものだ。

「では、その無職のゼファーが何をしに来た? 」

「そいつは、この現職勇者に聞いてくれ。」

「へっ!? ひぇっ! 」

 急にプランタンの前に出されたものだから、すっかりミントも慌ててしまった。

「… 何の冗談だ? こんな小娘が勇者? これは、ひょっとして人間なら笑う所か? 」

「いえ、その、あの、信じられないかもしれませんが、冗談じゃなくて本当に勇者なんですぅ。」

 そんなミントの様子をマジマジと眺めたプランタンは頭を抱えた。

「いくら魔王が居なくなったからって、質が悪過ぎだろ? こんなんじゃオーク一匹倒せまい? 」

 確かに初めての依頼であったオーク退治をゼファーの後ろで見ていただけなので、ミントは痛い所を突かれた。

「えと、用件はR.ヴァイトさんからの依頼で、お城を返してください。素直に返してくだされば、手荒な真似はしません… ってゼファーさんが言ってます。」

「貴様、本当に勇者か? そもそも依頼者の名を魔物に明かしてもいいのか? 」

 思わず、しまったとミントは自分の口を押さえた。

「まぁいい。ヴァイトが残っていたとはな。そこの死霊騎士といい、小者は意外としぶといな。」

「そりゃ、ゼファーが小者を無視して魔王倒しに行っちゃったんでね。おかげで、この城も無事に残ってたって訳です。」

 その辺の事情は元魔王軍に居て詳しいガイストが口を挟んだ。

「ちょっと待て。すると生き残った我も小者と申すのか? 」

「ひぇっ。」

 思わずミントはゼファーの後ろに隠れた。

「勇者のくせにコソコソしおって。ここで始末してくれようかっ! 」

「おっと、ミントに手を出すってぇなら、俺が相手だ。」

 ゼファーは床に落ちていた枝を拾うと身構えた。一応は質屋に預けてある勇者の剣ほどではないが、まあまあの剣は持っている。だが、抜こうとはしなかった。ノワやアマンダは思わず顔を見合わせて首を傾げた。

「なるほど、一目で物理攻撃が効きにくいと読んだか。さすがだ。だが、そんなにその小娘が大切か? ただの足手まといではないのか? 」

「いいや、大切だよ。大事だよ。」

「魔王を一人で倒した男が仲間が出来て日寄ったか? 」

「仲間? こいつはなぁ、もっと大事な… 」

「もっと大事な? 」

 思わずミントは復唱して次の言葉を待った。

「もっと大事な… 飯の種だっ! 」

「何? 」

「やっぱり… 。」

 ハッキリと言い切ったゼファーに、プランタンは首を傾げ、ミントは肩を落とした。

「こんな男に魔王が敗れたとはな。だが我の歯が立たない魔王を無傷で倒したと云う貴様と争うのも得策ではないな。ただ、この悪意の異名を持つ魔栗鼠を野に放つ事になるぞ? 」

 戦闘力は高くない魔栗鼠だが、繁殖力はバカにならない。森から街に出るようになれば豊富な餌を得て爆発的に増殖しかねない。

「んじゃ、ここで駆除するしかないか。」

「ちょっと待て。何故そうなる!? それは拙いから話し合おうとはならぬのか? 」

 どうやらプランタンの思惑とは違う方向に話しが進みそうになって慌てたようだ。

「ほう、話し合いねぇ。どんな提案だ? 」

 完全に上から目線でゼファーはプランタンに話しを振った。プランタンとしては魔栗鼠が街に出ると困るからゼファーが話し合おうと言い出すと思っていたので、予定と立場が逆であり提案なんて考えていなかった。

「で、では我が借り受けると云うのはどうだろう? 」

「いっそ、買い取るってのはどうだ? その方が、ここで常夜の春を謳歌できるってもんだろ? 」

「そんな、まとまったお金は… 。」

「分割だよ、分割。俺たち人間より遥かに寿命が長ぇんだからよ。ずっと家賃払い続けるより買い取りの方が安くあがると思うぜ。なんならリースって事にして払い終わった時点で買い取るか手放すか決めてもいいんだぜ? 」

 結局、ゼファーに押し切られてプランタンは、この城のリース契約を結ぶ事にした。

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