旅之七 シスター・シスター
「取り敢えず、ミント。行くぞ。」
「え… !? あぁ、ハイっ! 」
ゼファーに言われて一瞬、何の事かと戸惑ったミントだったが、直ぐに兜と盾の事を思い出した。二つ目の城をクリアをしたら受け出す約束だった。老人の質屋に着くと何やら騒がしい。
「だから、こいつは、そんな端た金じゃ受け出せねぇのっ! 」
「そこを何とか。残りは必ずお支払いしますから。」
どうやら店の老人が客と揉めているようだ。
「爺、取り込み中、悪いが約束通り受けだしに来たぜ。」
「おぉ、丁度いいとこに。この嬢ちゃんたちが金貨十枚で勇者装備を受け出したいって無茶苦茶言うんだよ。」
見るとシスター姿の女の子が二人、立っていた。どうやら揉めていたのは、この二人のようだった。それにしても金貨十枚は無理がある。
「悪いが盾と兜は貰ってく。勿論、剣もいずれ受け出す。」
女の子たちはゼファーを睨み付けた。
「後から来て、何勝手な事、言ってるんですか。交渉は私たちが先です。」
金貨千枚以上の代物に金貨十枚で交渉もないものである。
「あのなぁ。金も無いのに交渉にもならないだろ? 」
「だから、お金なら少しずつ、お支払いしますから。」
「お前らが持ち逃げしないなんて保証ないだろ? 」
「私たちは聖職者です。そんな事は神に誓っていたしません。そもそも何者ですか。」
そう言って二人は冒険者手帳を突き出した。そこにはノワ・ルレ、18歳とアマンダ・ルレ、16歳。共に修道女とある。ルレという同じ苗字なのは姉妹だろうか。教団名だろうか。だが、そんな事にゼファーは興味が無い。
「俺は自分の入れた質種を受け出しに来たんだ。文句を言われる筋合いは無ぇ。」
「で… では、魔王を倒した勇者様と云うのは… 」
「あぁ、俺だ。」
それを聞いた二人は急に態度を変えた。
「お見それいたしました、勇者様。私たちの村をお救いください。」
「俺は元勇者。今の勇者はあっち。」
ゼファーが親指で指した先でミントが申し訳なさそうに手を振った。
「それに依頼ならギルドにしてくれ。 俺たちは、クエストが、まだ残ってる。」
別にクエストを掛け持ちしてはいけないと云うルールは無い。だが、抱き合わせで依頼を受けると、報償金をまとめ払いにして値切るギルドが横行したため、今では掛け持ちで受ける冒険者は殆どいなかった。
「それが… 依頼金が手数料にもならないとギルドで断られまして… 」
それはそうだろう。今時、金貨十枚では猫の迷子探しも頼めやしない。そんなに掛かる訳ではないが、引き受け手が居ないのだ。
「ねぇ、ゼファー。何とかしてあげない? 」
見かねたミントが割って入った。
「あのなぁ、魔王も居ない時代に慈善事業じゃ生きて… 今んとこは、お前のパーティーだ。好きにしろ。」
ゼファーが折れたのは、今ミントに臍を曲げられると飯の種を失うからだ。
「さすが、現勇者様っ! あらためまして姉のノワ・ルレ。シスターLv15です。こちらは妹のアマンダ。シスターLv13です。」
ノワに紹介されてアマンダが頭を下げた。どうやら姉妹で確定らしい。
「えっと、ミント・ミストレルです。勇者でレ… レベルは…1… です。」
期待した勇者のレベルが1と聞いて、思わず二人は絶句した。
「安心しろ。ミントが引き受けた以上は、俺が何とかする。こいつとはギブアンドテイクだからな。」
「ギブアンドテイク? 」
思わずアマンダが聞き返した。
「俺は仕事をしようと思っても、ジョブチェンジしようとするとレベルがMAXだと断られる。だが、全てのジョブ能力は使える。勿論、聖職者能力もお前らより上だ。こいつはレベル1とはいえ、上級職の勇者って肩書きがある。つまり、ミントが仕事を請けて、俺が仕事をこなす。それでギブアンドテイクだ。」
「なるほどぉ。魔王を倒した英雄や現役の勇者様が食うに困るとは、世知辛い世の中なのですね。」
しみじみとノワが頷いた。
「とはいえ、さっきも言った通り、今はクエストの途中だ。こっちが片付いてからな。それと飯と寝床くらいは用意して貰えるんだろうな? 」
「勿論です。出来るだけの事はさせていただきます。」
この出来るだけという言い方にゼファーは不安を感じたが、ミントは意に介していない様子だった。これは数字に見えない経験値の差と云うものだろう。王公貴族の出来るだけと、庶民の出来るだけは必然的に違う。まして金貨十枚で街に買い物に来るとなればルレ姉妹の村の財政事情も推して量れると云うものだ。
「ところで、お前らの村に勇者は居るのか? 」
「いいえ… 。勇者装備の在る村という噂を流せば、本当の勇者様が来てくださるのではないかと… 。」
噂だけなら実物は要らないのではないかとか、勇者のふりをした転売ヤーに騙し盗られるとかは、考えないのだろうかとゼファーは思った。まぁ、勇者しか装備出来ない代物だ。実物があれば装備させれば分かるだろう。それでも盗賊の的になるのは眼に見えている。
「それで、これからどうするんだ? 俺たちが戻るまで街で待つか、村に帰って待つか? 」
「お供しますっ! 」
姉妹は口を揃えた。やっと見つけた村の希望に逃げられては堪らない… とゼファーを見て思っていた。