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勇者と元勇者が平和の世を行く  作者: 凪沙一人
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旅之六 Bee Together

 1つ目の茨に囲まれ梟の鳴いていた薄暗い城とは、打って変わって2つ目の城は花に囲まれた丘の上に立っていた。

「なんか、とても吸血鬼の城には見えませんね? 」

 ミントには、おとぎ話のお城のように見えていた。

「お前みたいに単純な奴が居るから、魔物がこんな所にこんな城建てんだよ。」

「た、単純って… 」

 ミントは反論しようとしたが、ゼファーはそんな隙を与えてくれない。

「いいか。前の城と違って魔物の城には見えないからと訪れるお前みたいな単純な人間を捕らえては生き血を吸っていたんだ。逃げようとしても茨や鬱蒼とした森と違って城の塔からは丸見えだ。捕まえては連れ戻し餌にしていたんだ。」

 それを聞いてミントは背筋に寒気を覚えた。だが、その原因はゼファーの話しだけではなかった。

「なんか羽音がしませんか… ?」

 嫌な予感がしてミントはゼファーに聞いてみた。

「だから言ったろ、虫系なら、いい餌だって。」

 虫、ではなく虫系。つまりは魔物だ。

「な、何とかしてくださいよ。あたしはご飯のお供なんでしょぉ。」

「飯のお供でもなけりゃ、飯の友でもねぇ。おまんまの種だ。ちっ、仕方ねぇな。俺が話し、つけてくるからガイスト、少し下がって守っててやれ。」

 そう言うとゼファーは一人で城へと向かった。

「だ、大丈夫なんですか? 」

 ミントが不安そうな表情を浮かべていた。

「あぁ。こいつらはキラービーじゃないから。領域テリトリーの外までは追って来ないさ。」

 キラービーというのは魔王が居た頃は幅を利かせていた獰猛で野蛮な肉食の蜂の魔物だ。

「そうじゃなくて… 」

「ひゅ~っ。ゼファーの心配か? 」

「そういうんじゃありませんっ! あの人は、あたしにとっても、おまんまの種なだけですぅっだ。」

 ガイストには、そんなミントが少し照れているようにも見えた。

「まぁ、ゼファーは魔獣使い(ビーストテイマー)狩人ハンター漁師フィッシャー蟲飼インセクターなんかもマスターなんだから問題無いだろ。」

 そう、ゼファーは全職業がマスターなのだ。

「それで、妾にどうしろと言うのだ? この地は四季折々に花が咲き誇り、雨季は短かいが水源にも恵まれ、増えた蜂たちを養うのに丁度いい巣箱もある。人間には迷惑も掛けていない。何故、逐われねばならぬのだ? 」

 ゼファーの前には、一際大きい蜂の魔物が居た。

「その巣箱が問題なんだ、女王蜂クィーン。この城にはR・ヴァイトという所有者が居る。あいつは吸血鬼だから人間に迷惑を掛けていないってのは正しいんだけどな。」

「では、どうしても出て行けと? 」

 そこで女王蜂の複眼が青から赤になった。すると周囲に居た蜂兵たちの複眼も赤くなる。こういう処は魔物である。

「そう慌てなさんな。商談といこうじゃないか。」

「商談? 」

 落ち着きを取り戻した女王蜂の複眼が青く戻った。

「ここで集めた蜂蜜やプロポリスなんかを家賃代わりにヴァイトに物納するんだ。奴はそれを売って儲ける。お前たちは金なんか要らないから、手っ取り早いだろ? 」

「… それで事が丸く収まるのであれば。その交渉、頼めるか? 」

「あぁ。大船に乗ったつもりで任せてくれ。」

「おかしな男よの。その気になれば、我々を滅ぼすだけの力が有りながら、何故? 」

「こんな時代だ。魔物も人間も助け合ってもいいと思わねぇか? 」

「それが… 魔王を討った者の責任か。」

「フッ、俺はそんなに責任感、強かねぇってぇの。」

 こうしてゼファーは城を出た。そして城門に巨大な看板を設えた。そこにはヴァイト養蜂城と書かれていた。

「また、勝手な事して。」

「文句は言わせねぇ。それに、ヴァイトは儲かる。魔物は城を出ていかずに済む。俺たちは懐が潤う。オー… 」

「オールWin… ですね。」

「お、おぅよっ! 」

 ミントは伝書妖精を飛ばして先に事の次第をヴァイトに伝えた。それから街に戻ると妙に賑やかだ。行ってみるとギルドの前に行列が出来ていた。

「何があったんだ? 」

 ゼファーが訝しげにしていると、ミントが何かに気づいた。

「あれじゃないですか? 」

 ミントが指差した先に大きな看板が立っていた。そこには『ヴァイト養蜂城の蜂蜜事前予約受付』と書かれていた。

「こいつは、確認するまでもなくオッケーって事だよな。」

「ですよね。」

 ギルドに戻ると、ヴァイトが疲れ果てていた。

「あ、ちょっと待っててくれ。今、ちょうど一次受付を終えたとこなんだ。報償金の用意するから。」

「これでも飲んどけっ! 」

 前にも貰ったマムシとスッポンの血で出来た栄養剤をゼファーから受けとるとヴァイトは一気に飲み干した。

「くぅ~っ。相変わらずの不味さだが、助かる。」

 ヴァイトは立ち上がると奥から金貨千五百枚を持ってきた。

「やけに今回は素直だな? 」

「あの蜂蜜を独占で取り扱えるなら充分、元は採れるからな。最後の城も、宜しく頼む。」

二つ目の城までクリアしたが、ゼファーには三つ目の城の覚えがなかった。それもそのはず、三つ目の城はメインクエストから外れていた為、レベル上げを必要としていなかったゼファーはスルーしていたのだから。

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