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勇者と元勇者が平和の世を行く  作者: 凪沙一人
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旅之終わり

 バーとカーを連れ戻しアモンラーとラクシュミーは元の姿に戻った。紆余曲折はあったが、勇者ミントは、またしても神の依頼を成し遂げた事になる。知名度は上がり、当然のように依頼は増えていった。しかし、魔王の一件以来ミントは魔物討伐の仕事を受けようとはしなかった。

「なぁ、有名な勇者パーティーが魔物を討たないってのはギルドとしても断り難くてな。受けるだけ受けてゼファーに丸投げしてもいいんだぜ? 」

 ミントたちの窓口業務を請け負っているR.ヴァイトとしても仕事が山のように来ているのに大して稼ぎにならない小口ばかりしか請けないというのは困ってもいた。ただ、事情はボーマンから聞かされていたので強くは言わない。そんな状況に甘えてしまっている自覚はあるのだが、結局レベル1のまま帰ってきたので転職も出来ない。そんな時だった。ギルドに1人の子供が飛び込んできた。

「ママを助けてっ! 」

「落ち着いて。ママがどうしたの? 」

「街にスライムが沢山来て暴れてるの。お姉ちゃん、勇者なんでしょ? ママを助けてっ! 」

「ここに居てっ! 」

 反射的にミントは飛び出していった。助けるだけなら倒さなくても出来るかもしれない。

「行くぜ、ボーマン。ガイスト。」

 ゼファーがやおら立ち上がった。

「当然。親友を放っとける訳、ないじゃん。」

「言われなくても俺様は勇者ミントのパーティーメンバー死霊騎士ガイストだぜ。」

 街に出ると、そこいら中スライムだらけだった。見ると防御魔法1つ使えないミントは自分を盾にして子供の母親らしき女性を庇っていた。ゼファーはゆっくりミントの近くまでスライムを蹴散らしながら歩みを進めた。

「走れ。ギルドで子供が待ってるぜ。」

「は、はいっ! 」

 女性はゼファーの切り開いた道を一目散に走っていった。

「なぁミント。お前、何の為に勇者に成ったんだ? 」

「み、皆を魔物から守りたくて… でも魔物にも家族が居るとか考えた事、無くて… 」

 するとゼファーは小さく頷いた。

「んじゃ、レベル10まで頑張れ。そうすりゃ農民でも商人でも転職出来るだろ? 」

「で、でも… 」

「心配すんな。スライムって奴は単細胞の魔物だから親も子もねぇ。細胞分裂で増えて食い物が減ったら合体する。考える頭も無けりゃ心もねぇ。なんなら一匹見逃してやりゃぁ、そのうちまた、うじゃうじゃと現れやがる。群れに見えても一匹と思っていい。」

「一匹見たら、うじゃうじゃ現れるって… それって、まるでゴ○ブリみたいじゃないですか。」

 思わずミントは眉を顰めた。

「そうだな。魔物も害獣も害虫も適度に駆除しねぇと人間と共存なんざ出来やしねぇ。ボーマンやガイスト、ヴァイトみたいに話し合えるなら話してみてもいいが、そうでなけりゃ、殺るか殺られるかだ。」

 ゼファーに言われてミントは思い出していた。何故、ミントがレベル1のままなのか。最初の言葉の通じなかったオークを除けば、殆どゼファーが話し合いで解決してきたからだ。オーク戦の経験値は結局、倒したゼファーをベースに計算されガイストを含めて3分割された為、レベルアップに至らなかった。魔王を瞬殺する実力があっても、力ずくで解決しようとはしてこなかった。そんなお手本が目の前に居るのだ。

「あたし、戦います。正しき力無い者の剣となり盾となる為に。」

「うっわぁ、そんな臭い台詞、よく吐けるな? 」

 ゼファーのツッコミに、せっかく立ち上がったミントが転けそうになる。

「んもぅ、茶化さないでくださいよぉ。」

「悪ぃ悪ぃ。でも無理しねぇで俺やボーマンがデカいやつを片付ける。ガイストは中サイズ、ミントは取りこぼしをペチペチしとけ。」

「ペチペチ… ですかぁ? 」

 やっと、やる気になったミントとしては些か不満ではある。

「レベルが1なんだから仕方ねぇだろ? 千里の道も一歩から。塵も積もれば山となる。小さな事からコツコツと、ってな。地道な努力って奴が大切なんだぞ。」

 レベル1で魔王を瞬殺して、いきなりレベル最大になったゼファーに言われたくはない… とも思ったが、他のジョブレベルが最大だったという事は、もしかしたら其処までに多大な努力をしたのかもしれない。そう思ってゼファーを見たが、やはり努力という言葉にはえんゆかりも無さそうにしか見えない。

「大体片付いたな。ミント、あと一匹でレベル1つ上がりそうだぞ。」

「えぇ~!? これだけ倒して1つぅ~? 」

 ゼファーとボーマンのレベルが高過ぎるのだ。だから、たとえミントのレベルが1であってもパーティーの平均レベルは高くなる。そんな高レベルのパーティーが冒険者が最初に戦うようなスライムを相手にしても大した経験値稼ぎにはならない。

「ミントっ! 最後の一匹、そっち行ったよっ! 」

 プチッ… ボーマンの声に構えたミントの前で無情な音がした。

「え? 私、何か悪い事しました? ?? 」

 最後の一匹はR.テミスの足の下で果てていた。

「お、お邪魔しましたぁ~っ! 」

 何をしに来たのかも告げずにR.テミスは逃げるように去って行った。

「えと… まぁ、なんだな。多分、次の依頼あたりでレベルアップするんじゃねぇかな。な、な? 」

「お、おぅ。そうだよ。きっと次で上がるさ。」

 慌てたゼファーと、それに合わせたボーマンだったが、これから暫くゼファーの交渉術が炸裂しミントのレベルが上がるのは、まだまだ当分、先の事になるのだが、それはまた、別のお話し。


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