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勇者と元勇者が平和の世を行く  作者: 凪沙一人
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旅之三十二 魂のリフレイン

「さてと。そういう事ならセクメト、ミントを現世に連れ帰って貰えるか? これからバーを捜すとなるとタイムオーバーになるといけねぇ。」

 ゼファーが、こう言うからには魔術的に魂と霊では扱いが違うのだろう。バーはカーのように降霊術で呼び出すと云う訳にはいかないようだ。

「え゛~っ!? あたし独りでお墓の中で待つんですか? お墓ん中で独りにしないでくださいって最初にお願いしたじゃないですかぁ。」

 いかに肩書きが勇者と言ってもレベル1の少女が巨大な墳墓の中に独りで待つのは心許ないのは無理もない。

「ボーマン、ついていって貰えるか? 」

 ゼファーに言われてボーマンも多少不服ではあるが、状況は理解している。

「どう考えても、あたいが一番戦力になるんだけどな。まぁ、仕方ないか。ミント、行くよぉ。」

 ボーマンに促されてミントは何度も振り返りながらも現世に戻っていった。

「さぁて、バーの居そうな場所に心当たりは無いのか? 」

「それが分かったら、とうに捕まえている。」

 ゼファーに問われたカーが、そう答えるのも無理はない。そもそもが隠れんぼの最中だ。

「仕方ねぇな。オシリスんとこに案内しろ。」

「だから、バーと一緒に行かなぬと… 」

 カーとしてはオシリスからバーと一緒でなければアモンラーとラクシュミーの躰は返さないと言われているのだが時間が無限にある訳でもない。ここにはミイラ姿とはいえミーもラーも居る。オシリスも返してくれるかもしれない。そもそも魔王を瞬殺するようなゼファー(おとこ)相手に逆らうものではない。殴り飛ばされるくらいなら、まだマシ。こんな場所で徐霊でもされようものなら生き霊が死霊になるどころか生滅されかねない。自分の身を按じるならオシリスの所に案内した方が無難そうだと判断した。

「ここに… 」

「邪魔すんぞぉ。」

 カーが指し示した扉をゼファーはいきなり蹴り開けた。

「何者だ!? ここを九柱神、冥界のオシリスの館と… 」

 そこでオシリスは固まった。そして、一気に頭の中に思い出したくもない思い出が駆け巡った。冥界の王に走馬灯のように思い出を見せるのだから、余程の事があった… というか、したのだろう。

「相変わらず、冥界ってのは、だだっ広くて分かりにくい場所だな、オシリ。」

「いや、オシリじゃなくてオシリスだと… 」

 なんとも気不味そうにオシリスが訂正した。

「気の抜けた酢みたいなんだらオシリだって言ったろ? んな事よりミーとラーを元に戻せ。そしたら、すぐにでも引き上げてやる。」

「あのバーの捜索は… 」

 思わずカーが口を挟んだ。元々、ミーとラーの持ち込んだ依頼はバーとカーの捜索である。その理由がミーとラーを元に戻す為だったとしても依頼は依頼だ。信用商売の身としては、蔑ろにする訳にもいかなかった。

「あぁ~、そうだったな。取り敢えず順番が逆だけどミーとラーを戻せ。そしたらラーの能力ちからで何とか出来んだろ? 」

「いや、ここは冥界だからのぉ。」

 ラーが、やんわりと否定した。

「んじゃ、オシリ。お前なら何とかなんだろ? 」

 オシリスは再度、訂正しようとして諦めた。富と豊穣と幸運の女神(ラクシュミー)太陽神アモンラーバー生霊カーとオシリスもゼファーに掛かれば木乃伊ミイラに馬鹿とお尻に聞こえてしまう。そう聞こえるだけなのか、わざとなのかは本人ゼファーにしか分からない。神々にもゼファーに悪気があるとも思えなかった。それに神々でも手を焼いていた魔王を瞬殺した男である。今でこそ無職の元勇者だが、世が世なら英雄の列席に名を連ねていても可笑しくはない。

「神々にも不文律というか不可侵領域みたいなものがあってだな。死んだ者ならいざ知らず、生きている神となればバーとカーの領域なのだ。」

 オシリスの返答にゼファーは頭を掻いた。

「チッ、面倒臭ぇなぁ。そんでバーは何処に居るんだ? 冥界の事なら何でも分かるんだろ? 」

「それがだな… 」

 するとオシリスが口籠った。

「神なら神らしくハッキリ言えっ! 」

 むしろ神を一番、神様らしく扱っていないのがゼファーなのだが。

「生き返る為に必要だと言って… 魔王が連れ去った。」

 さすがにゼファーにも意外な展開に目を丸くした。

「はぁ!? 何で魔王が居るんだよ? 普通、あぁゆう奴は地獄とかに堕ちるんじゃないのかっ! 」

「他所はどうか知らんが、うちには地獄なんて所は無いっ! そもそも貴様が魔王を始末したから冥界に来たんだろうがっ! 」

 さすがにオシリスも反論した。確かにオシリスに地獄の概念は無かった。

「まてオシリス。魔王の心臓たましい真実マアトの羽根よりも軽かったのか? 」

「それが… 纏めて魔王軍が転生事前裁判に送られて来たものでアメミットが他の心臓を喰らっている間に逃げられました。」

 地獄の概念が無い代わりに真実の羽根より重い心臓はアメミットが貪り喰らい、その魂は転生出来なくなるのだが、喰らわれる前に逃げられたというのは前代未聞である。これにはミイラ姿でも分かるくらい、ラーが呆れていた。

「まったく… 何故、相談せなんだ? 」

「これは冥界の事なので、冥界で何とかせねばと。またセトにバラバラにされても、かないませんし… 」

 だんだんとオシリスは小声になっていった。

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