旅之三十一 破壊神の墓石
「あの、バーさんとカーさんはどちらにいらっしゃるんですか? 」
よくも悪くも、ミントはこういう場合に探りを入れるという事がない。バカ正直にストレートな質問をセクメトにぶつけた。これがセクメトには好感が持てたようだ。
「… 面白い人間だな? 大して強くもない… っていうか弱い。こんなに弱いのに、このセクメトを恐れる訳でもない。何者だ? 」
「えっと、ミント… ミント・ミストレルといいます。一応、勇者やってます。」
そう言ってミントはセクメトに冒険者手帳を見せた。
「勇者になって、かれこれ経つのに… レベル1のまま? てか、依頼は全部達成していて… 満額支払われているのに… 入手経験値がゼロ? なんで勇者なんか、やってんだ? 魔王も居ないんだし転職した方がよくないか? 」
セクメトの言うことも、もっともなのだが、これにはミントにも理由がある。まず転職するには今のジョブを最低でもレベル10まで上げなくてはならない。もう1つは勇者はミントが成りたくてなった職業ということだ。魔王討伐という目標は無くなってしまったが、それだけが勇者の仕事ではない… 筈だとミントは思っていた。具体的には、それすら模索しているのだが。
「ゆっくり話している暇は無いのだ、セクメトよ。人間の2人をいつまでも冥界に留めておく訳にもいかぬ。」
ラーの言葉にセクメトは頭を掻いた。
「親父殿。そもそも、あたしがバーとカーを隠したってのは濡れ衣だぞ? 」
「え? でもアヌビスさんが犯人はメスライオンだって… 」
するとセクメトの表情が変わった。
「あの犬っころめ。あたし等は、暇潰しに隠れん坊をしていただけさ。」
思わずゼファーとボーマンが顔を見合わせた。
「でもでも、ミーさんとラーさん以外の神様は戻したんですよね? 」
こういう時に素直に疑問をぶつけられるミントが居るのは助かる。
「あぁ。他の神さんたちは捕まったら戻してたんだけどな。鬼が1人だけ捕まえられなくて。まさか片方が親父殿とはねぇ。」
「お前ら… レクリエーションって鬼ごっこか? 」
思わずゼファーがツッコミを入れた。名の有る神々が鬼ごっこに隠れん坊とはゼファーも呆れていた。
「そうは言うがな。異世界の神々が共通で出来る遊びなんて、数える程しか、無いんだぞ? 」
多分、真顔で言っているのだろうが包帯ぐるぐる巻きのミイラでは表情までは分からない。
「神様のくせに遊ぶな… とは言わねぇよ。戯れに人類抹消とか言われても困るしな。けど節度くらいは保ってくれよな。」
別に人類抹消は戯れでやろうとした訳ではないのだが今回の件についてはゼファーたちを頼った時点で申し開きも無い。
「ま、こうなりゃ片方を引きずり出すか。」
「引きずり出す? 」
ミントが首を傾げたが、ゼファーは構わず魔方陣を描き始めた。
「あらよっとっ! 」
「ぬわったったった… 」
ゼファーの掛け声と共に魔方陣の中に転がりだした者がいる。
「誰じゃ、隠れん坊の最中に雑な降霊術なんぞ行っ… た… セクメト? カーはどうした? そっちのミイラは… アモンラーとラクシュミー!? … あ、元に戻すの、忘れとった! 」
それを聞いてラーは頭を抱えた。
「カー、忘れとったでは済まさぬぞ? 」
「あ、いや。バーを見つけたら、すぐにオシリスから取り返すから待ってくれ。」
カーは慌ててラーに謝った。
「カーさん、取り返すって? 」
ミントに質問されてカーは一瞬、きょとんとした。
「人間? あ゛ぁ~っ! ゼ、ゼファー!? お主じゃな、他の人間を冥界に連れ込んだり雑な降霊術を行ったのはっ! 降霊術師のクラスでマスターになった中で、こんな雑な術を行う奴は他には居らんからなっ! そもそも、冥界という場所はだなぁ… 」
「待て待て。」
いきり立つカーをラーが宥めた。
「この2人は… 」
と言ったところでガイストが自分も居るアピールをしていた。元々死霊なので冥界に居ても違和感は無い。
「この3人は… 」
今度は殺気のこもった冷たい視線を感じた。
「気の所為か… 魔王によく似た気配が… 」
カーも恐る恐る冷たい視線を感じた方へと目をやった。
「魔王の娘だからって文句あんのか!? こちとら急いでんだよ。早いとこミーとラーを元に戻しやがれ。」
なんとなくゼファーは自力で何とかしそうだが、ミントの方は長いこと冥界に置いておくのはボーマンとしても心配だった。
「そうそう。急がないと、このセクメト様があんたの墓石建てる事になるよ? 」
二、三歩飛び退いてバーは両手と首を激しく振った。
「ま、待て。待ってくれ。それじゃ生霊が死霊になっちまうじゃろ。それに、さっきも言ったがバーを先に見つけないとオシリスの所に行けぬのだ。」
話しによるとバーとカーはアモンラーとラクシュミーの体を安全な冥界の王オシリスに預けたのだが返還の条件として2人揃って取りに来いという。1人では偽者が来ても分からぬからと。
「んで、バーの行方はカーも知らないのかよ? 」
「知っていたら隠れん坊にならぬだろうがっ! 」
ゼファーの言葉にカーは言い返して見たものの、周囲の視線は冷たかった。




