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勇者と元勇者が平和の世を行く  作者: 凪沙一人
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旅之三 三城一魔の管理人

「すいませ~ん。依頼、終えてきましたぁ。」

「はいはい。伝書妖精から報告は受けてますよ。」

 ミントの声に奥から老人が現れた。

「や、ゼ、ゼファー!? 何故、ここに? 」

「前に会ったっけ? 」

 ゼファーには老人に見覚えが無かった。

「あぁ、こんな老いた姿になっているけど、俺様と同じく魔王の配下の吸血鬼、R.ヴァイトだ。」

「アルバイト? 」

 ガイストの説明にミントが小首を傾げた。

「違ぁうっ! 噛みつくヴァイトじゃ… ゲホッゲホッ」

 咳き込むヴァイトにゼファーが一本の小瓶を差し出した。

「飲みな。」

「すまんのぉ。昨日の敵は今日の友じゃ。」

 その小瓶をヴァイトは一気に飲み干した。

「うげっ、不味っ。なんだ、こいつは!? 」

「えっ!? 」

 ミントの視線に気づいてヴァイトは自分の顔を触ってみた。それから自分の手の甲を見た。鏡を見ないのは、どうせ映らないからだ。それでも、若返った事は実感した。

「マムシとスッポンの血で作った栄養剤だ。人間の血って訳にはいかないが効果あったみたいだな。」

 マムシとスッポンと聞いてヴァイトがゼファーとミントを交互に目をやったところでゼファーに頭を叩かれた。

「ところでヴァイト。もう少し実入りのいい依頼はないか? オークくらいじゃ飯食って宿泊ったら二、三日で終わっちまう。こいつにもう少し丈夫な防具を買ってやりたいんだが。」

「まったく、自分で魔王倒しちまった所為で無職になるってのは皮肉なもんだな。」

「何? 」

 ゼファーにはヴァイトの言った事の方が皮肉に聞こえた。

「そう怒りなさんな。こいつは、このヴァイト直々の依頼だ。受けてもらえるか? 」

「内容と報酬次第だな。」

「昔、俺が治めていた3つの城を取り戻して欲しい。報酬は城1つにつき金貨千枚。」

「夜王と恐れられたお前なら自力で取り返せばいいだろ? 」

「それがだな、ここの管理人のアルバイトを休むと聖職者どもが聖水と十字架を持って追って来るのだ。」

 どうやら、ここでも聖職者に狙われている魔王の元手下がいた。だからといってゼファーが責任を感じる事は一切無かった。

「よし分かった。金貨二千枚でやってやろう。」

「千二百っ! 」

「千七百。」

「千五百っ! 」

「いいだろう。ガイスト、場所は分かるな? 」

「分かるが… ゼファーも一度は行った場所だろ? 」

「そんなの、いちいち覚えてられるか。」

 ミントが今回の依頼用の伝書妖精を受け取るとギルドを出た。

「ギルドの提示額を吊り上げる人って初めて見ました。」

「そりゃ、ゼファーは聖職者もマイスターなんだから吸血鬼が逆らえる相手じゃないって。」

 ミントは少しヴァイトが気の毒に思えた。

「ねぇ、城までパッと移動出来ないの? 」

「だから、場所を覚えてないんだから、跳びようが無ぇんだよっ! 」

 ゼファーにしても跳べるものなら跳びたかった。すべてのジョブがマイスターとなると、あまり面倒な事を自力でする事は無い。持っているスキルで楽が出来るのだから。どのくらい歩いただろうか。さすがにミントも疲れてきた。

「なんか乗り物の召喚とか出来ないの? 」

「お前なぁ、馬とか驢馬とか召喚する魔法って見たことあるか? 基本的に召喚出来るのは戦闘用っ! 」

 確かに馬だの驢馬だのと家畜を召喚するというのは聞いたことが無かった。

「疲れたぁ~。」

 ついにミント入って座り込んでしまった。名義上、このパーティーは勇者ミントのパーティーだ。ミントが居なくては報酬が貰えないので置いていく訳にもいかない。

「ガイスト、背負ってやれ。」

「いや、あくまでも死霊なので生身の人間を背負うのは無理があるかとぉ。それに死んでこの方、剣より重い物は持った事がなくぅ。」

 ゼファーは頭を掻きながら面倒臭そうにミントに回復魔法を掛けた。

「どうだ。これで歩けるだろ? 」

 立ち上がってみると確かに足が軽い。疲れはすっかり回復していた。しかしミントは不満そうだった。

「思ってたのと違ぁうっ! ここは『仕方がない、休憩するか。』ってなるとこでしょ? 足は軽くなっても心はどんよりだわっ! 」

「ふぅん。面倒臭い奴だな。新しい勇者拾ったら、取り替えるぞ? 」

「ちょっ、それはなし。歩く。歩きますともっ! 」

 そう、そんじょそこらに勇者が落ちているとも思えないが、普通のパーティーでもゼファーの能力数値を知ったら引っ張りだこだろう。今のミントにとってはゼファーと別れるのは死活問題だった。ミントの足は軽くなったが道は暗くなった。そもそも夜王と呼ばれた吸血鬼 R.ヴァイトの城である。暗くて当たり前なのだ。足元の草も茨に替わり小鳥の囀ずりは梟の鳴き声に替わってきた。それでも変わらぬゼファー。恐る恐る歩を進めるミント。妙に元気なガイストだった。

「いやぁ、昔と変わらない。今の城主も暗いのがお好きなんですかねぇ。」

「そういや、こんな辛気臭い城に来たような気もするなぁ。」

「あ、あのぉ… あたしのレベルで来ていい所なんでしょうか? 」

「魔王より強ぇ奴なんて、そこいらには居ないから、離れなきゃ大丈夫だろ。」

 やはり、ゼファーから離れる訳にはいきそうもないとミントはピタリと後をついていった。

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