旅之二十九 神隠し?
ミーとラーの説明によれば、ラーたちの神々の元へ賓客として招かれたミーとレクリエーションとして誰が誰だか判らないよう皆で同一体型のミイラに移って戯れていたのだが、残りがミーとラーだけと云う処で元に戻す役目のバーとカーが行方不明になったというのだ。何しろレクリエーションと言っても神々のやる事、人間の常識に収まる範囲ではない。神々でも見つけられないものを人間に探してくれと言うのも無茶な話ではある。だが、ゼファーも人間はおろか神々や魔物の常識にすら収まらない存在である。R.テミスというたとえ残念と呼ばれていようとも、女神の依頼を解決したという実績もある。これ以上の適任者は思いつかなかった。
「そんじゃ木乃伊の馬鹿探しに出掛けるか。」
「これ、ゼファー。今、何と申した? 」
「ミー、ラーのバー、カー探しだ。何か気になったのか? 」
「そ、そうか。いや、なんでもない。」
ミントにとっては見慣れた光景だったが、神々には何か釈然としなかった。相手が神であろうが魔物であろうが人間であろうがゼファーにとっては関係ない。とにかくラーの案内でレクリエーションの会場となった場所へと向かった。
「ガイストさんは、いいなぁ涼しそうで。」
進めども進めども続く砂漠でミントはポツリと言った。
「いえ、皮も肉も無いのでダイレクトに骨が焼ける感じです。」
「何、言ってんだ。見た目は骨でも死霊なんだから焼けたりしねぇだろ? 」
「その死霊が炎天下を歩く事が、どれだけ大変だと思ってるんですか? 」
ゼファーに言われて言い返したガイストも結構、つらそうだ。
「ミー、豊穣の神なんだろ? 雨とか降らせられねぇのか? 」
「私は領域が違いますから。」
さすがに他の神々の世界で能力を示す訳にはいかないらしい。
「ラー、ここには雨の神ってのは… 」
「居ない。一度、他所の神を迎え入れた事があるが、何故か戦の神になりおった。以来、雨の神を置こうとした事は無い。」
ゼファーが言い終える前にラーが答えた。他の神を融合すると神格化した元が変わってしまうと云う事はあるが、この場合、神でさえも雨を降らせる事を諦めたようにも見える。
「おぉ、見えた見えた。あれがレクリエーション会場に使った金字塔だ。」
「プッ。相変わらず神々って輩は金ピカ成金趣味らしいな? 」
ラーの指差した先に在ったのは黄金に輝く金字塔だった。ボーマンからすれば神々の建物=黄金のイメージなのかもしれない。
「いや、これは元々人間が自分たちの王墓として築いた物でだなぁ… 」
「げっ… 神様が人間の墓で遊んでたんですか!? 」
思わずガイストが嫌そうな反応を見せた。死霊としては死者の冒涜は許しがたい。
「ま、待て。墓といっても数百年も昔に人間の盗掘に遭い、中はもぬけの殻、空き家も同然。お前たちの家のようなものだ。」
「お言葉ですけど神…様。私たちは、ちゃんとレイちゃんから譲り受けたんです。」
確かに家の中から遺体を運び出して、その家に住んでいると云うのは見ようによっては似ているのかもしれないが、気の持ちようが違う。たとえ神様でも見た目2頭身ミイラに言われたくはなかった。
「うぅむ… やはり、この姿では威厳も説得力も無いか… 」
鏡が在る訳ではないが、ミーの姿を見て自分も同じ姿なのだと思うとラーも唸るしかなかった。
「何でもいいけど先、入るぞ。」
ボーマンからすれば元が墓であっても気にしない。寧ろ神殿などよりは、よほど気が楽と云えた。中はといえば外の暑さが嘘のようにひんやりしていた。寧ろ何かが出そうなくらいに肌寒い。
「何かゾクゾクしませんか? こう背筋が凍るというか悪寒が走るというか… 」
「それ、死霊に聞きます? 」
ミントに聞かれてガイストも答えに困ってしまった。
「にしても、ミーとラー以外に神の気配ってもんがしないな? ここにはもう居ないか… 神隠しだな。」
「神隠し… ですか? あの… それって神様が子供とか隠したりするんじゃ…? 」
ミントの疑問にゼファーは首を横に振った。
「神が隠すのも神隠し。神を隠すのも神隠し。まぁ、太陽神アマテラスや豊穣神デメテルみたいに自分で隠れる神も居るけどな。」
「太陽神に… 豊穣神… ですか。」
思わずミントは2体のミイラに視線を落とした。
「わ、我々は隠れたりせんっ! 」
別世界の神なのでミーも同意していいものか迷った。
「まぁ、魂、生霊を隠すにしろ自分から隠れるにしろ、この世じゃない可能性が高いか。ミントは留守番だな。」
「え? あたしだけですか!? 」
「俺は霊能者もマスターだからな。皆は魔物と神だし。」
「えぇ~っ! こんなお墓の中に独りにしないでくださいよぉ。何とかならないんですかぁ… 」
情けない声をあげたミントだったが方法も特に思い当たらない。
「太陽神ともあろう者が何とも情けない姿にだな? 」
そこにはジャッカルの頭をした人の姿が立っていた。
「アヌビス? 何故、お前が此処に? さては… 」
「早まるな。俺は、ミイラを守る神として神々の余興なんぞに使われた可哀想なミイラを取り戻しに来ただけだ。犯人はメスライオンだ。」
それを聞いてラーが短い手で頭を抱えた。




