旅之二十八 お化け屋敷?
「いいんですか? 」
ゼファーの言葉にアマンダは不服そうだった。
「まだ、成仏したくなさそうだからな。あの家の守護霊でもやって貰うさ。こちとら死霊と一緒にパーティー組んでんだ。幽霊の1人くらい、どうって事、無ぇよ。」
ゼファーから、そう言われてしまうとアマンダもノワも返す言葉が無い。
「二人とも、いいよな? 」
「はぁい。」
「お、俺様は別に構わん。罠避け要員がもう1人くらい増えたところで… 」
レイは即答したがガイストには多少、動揺が感じられた。死霊なので顔色迄は判らないが。
「そいつは無理だな。レイには家の守護霊をして貰うって言ったろ? 外に出て罠に掛かるのはガイストの仕事だ。」
「そ、そうか。そうだったな。」
ゼファーやミントに罠確認要員にもってこいだと売り込んだのは、他ならぬガイスト自身だ。ともかく、葬儀を執り行わずに埋葬だけなので死塚のゴーゼンが手早く済ませた。
「んじゃ、新居に帰るとするか。」
「えっ? そんな簡単にリフォームって終わらないと思いますけど? 」
ゼファーの言葉にミントは首を傾げた。中に入ったのはゼファーとゴーゼンだけだが外観からでもリフォームには数ヶ月は掛かりそうに見えた。
「そりゃ人間がやったらな。だが、あの不動産屋は魔物だ。」
「それに、あたいも住むって言ってあるんだから、超特急の最優先事項って事。」
魔物の中には一晩で城を築く者もいると聞く。民家の一軒家くらい、あっという間なのかもしれない。それも魔王の娘が住むとなれば尚更だ。その気になれば人間の建築業など失業してしまいそうだが、魔王が倒れたからといって、魔物に衣食住を任せるほど、人間は魔物を信用していなかった。ゼファーたちが家に戻ると、前で覚えのある顔が何やら話し込んでいた。
「わぁ、私が買った時よりも立派になってるっ! 」
家の前の二人よりもレイが気になったは、そっちだった。
「ボーマン様が住まわれるのだ、当たり前だろう。」
「それより、なんでカトルが居るんだ? ホワイトベルにでもフラれたか? 」
「う、うるせぇっ! フラれるとこまで進んでねぇやっ! 」
不動産屋と話し込んでいたのはR.テミスの伝書妖精となったクォーターエルフのカトルだった。どうやらまだ、ホワイトベルと交際まで漕ぎ着けていないようだが、それを自ら暴露してしまって顔を赤くしていた。
「そ、そんな事よりお前らに客だ。R.テミス様の命令でR.ヴァイトの所に連れて行ったら、なんやかんやで此処に居ると聞いて案内した。あとは本人たちに聞いてくれ。じゃあな。」
ホワイトベルの件が、余程恥ずかしかったのか、カトルは直ぐに行ってしまった。
「なんやかんやって… なんでしょうね? 」
「なんやかんやは、なんやかんやだ。」
ミントの疑問にゼファーはそう言って家に向かった。結局、ミントの疑問は晴れずに首を傾げていた。不動産屋も物件の引渡しを終えると逃げるように姿を消した。扉を開けるとゼファーは立ち止まった。
「あんたらが客? 」
ゼファーの目の前に居たのは身長50センチメートルほどの2体の小太りのミイラだった。
「死霊に魔王の娘に幽霊の次はミイラか? ここはお化け屋敷か? 」
「コホン。今はこのような形をしておるが、我々は神だ。」
一匹のミイラがそう語ると、もう一匹のミイラも頷いた。相手が神様だと言って、今さら慌てたり態度を改めるようなゼファーでもない。
「まぁ、残念な女神の知り合いらしいから、そうなんだろうな。どうせギルドに寄ったって事は依頼なんだろ? 人に何か頼もうってんなら、ちゃんと名乗って貰おうか? 」
普通なら天罰でも下されそうな態度だが、そうもならない。魔王を瞬殺したという肩書きは伊達ではない。
「我は太陽神アモンラー。」
「妾は美と富と豊穣と幸運の女神ラクシュミー。」
それを聞いて思わずボーマンが吹いた。
「よく自分で美とか幸運の女神とか言ってて恥ずかしくないな? 」
「一応、神様なんだから失礼だよ。」
ミントに言われて堪えてはみたが、やはり吹き出しそうなのでボーマンは席を外した。元々、魔族と神では互いに気が合わない。
「んで、そのミーとラーが何の用だ? 」
「ミーと… 」
「ラー? 」
思わずミイラたちが困惑した声をあげた。
「その形で神の威厳も無いもんだろ? 」
「失礼しまぁす。」
不意にミントがミーの頭にリボンを着けた。
「何をする!? 」
「すいません、見分けがつかなかったものですから。」
ミントにそう言われてミーとラーは互いに顔を見合せ、全身を見回してから軽く互いに2、3度頷いた。
「た、確かに。それで依頼なのだがカーさんとバーさんを探して欲しい。」
「母さんと婆さん? 」
「いや、生霊さんと魂さんだ。」
「なんとなくミイラとラーとカーとバーってのは繋がるが… 何でミーまでミイラ姿なんだ? 」
「魔王が居た頃は貧困、不況、不作、と人間たちは何かにつけて祈りを捧げてくれたものですが、最近は信仰心も薄れ神々同士も手を取り合わざるをえない状況。親睦をはかる為にレクリエーションを開催したのですが… 」
ここでも「魔王の居た頃は」かとゼファーは溜め息を吐いた。




