旅之二十七 怪しい不動産屋
「お待ちしておりました。」
馬車の脇にはシャナの従者ゴーゼンが待っていた。
「え? どうしてですか? 」
ミントにはゴーゼンが其処に居る理由が判らなかった。
「これでも死塚ですからね。我々の村の墓地に埋葬するとなれば僕の仕事ですから。」
なるほど、確かに初めて会った時に墓堀人だと名乗っていた。
「プランタンさんとベン・Kが知り合いだそうでして。それに、貴殿方の要件であれば、シャナ様もシスターたちも是非とも協力して差し上げたいとの事ですから。」
ゴーゼンは的確にミントの疑問に答えてくれた。
「では参りましょうか。」
一同を馬車に乗せるとゴーゼンは馬車を走らせた。だが、外の景色を見ていたボーマンが中から馭者台のゴーゼンに声を掛けた。
「村に向かうのと道が違うぞ? 」
「はい。ベン・Kが不動産屋を取り押さえている頃ですので。」
ゴーゼンの話に依頼人は首を傾げた。既に建物の場所が判っているのなら、不動産屋に用はない筈だと思っていた。
「あ!? 権利書を返… うぎゃっ! 」
縛り上げられた不動産屋が依頼人の顔を見るなり、飛び掛かろうとしてベン・Kに踏み潰された。
「ベン・K。いくら不動産屋が魔物でも潰れてしまいますよ? 」
「お、いけねぇいけねぇ。」
ゴーゼンに言われてベン・Kも慌てて足を退けた。
「一度売ったものを返せって、どういう事ですか? 」
どうやら依頼人には状況が飲み込めていないと踏んだゼファーが不動産屋に歩み寄った。
「いったい、あの家で何人死んで何回売ってどれだけ稼いだ? 」
「お、俺が殺した訳じゃ… むぎゅっ! 」
不動産屋は再びベン・Kの足の下となった。
「いいか? 魔王の居た時代じゃねぇんだから、一度売った物件の持ち主が逝ったら次に売るなんて事は人間の世の中じゃ通らないんだぞ。」
土地と建物の権利書を用意したくらいだから不動産屋も魔物とはいえ、そんな事は承知している筈だ。
「取り敢えず、案内しなっ。」
ボーマンの一言に不動産屋はペコペコと頷いた。やはり魔物にはゼファーよりボーマンが言う方が効果的らしい。
「なんか、思ったより傷んでるな。」
建物に着いたゼファーの第一印象の声だ。勝手に依頼人が亡くなって間もないと思い込んでいたが、どうやら結構な間、迷子になっていたようだ。
「こいつは俺とゴーゼンだけで見てくる。皆は外で待ってろ。」
「え、そんな。私も行きます。洋服とか、開けてたりしたら恥ずかしいじゃないですか!? 」
ゼファーに待つように言われた依頼人が慌てたがゼファーは溜め息を吐いた。
「建物の痛み具合からみて、開けてるとしたら腸ぐらいなもんだ。それでも行くかい? 」
「え… 遠慮します。」
依頼人が引き下がり、不動産屋は縛られたままの状況でゼファーとゴーゼンだけが建物に入っていった。
「・・・どうやら、気の遣い過ぎだったようですね。」
「そうでもねぇさ。勇者だ、シスターだとかいっても、こんな姿はショック受けるかもしれねぇだろ? 」
依頼人の遺体はすぐに見つかった。腸が開けるどころか綺麗に白骨化していた。踏み外したのであろう踏み台も朽ちている。
「お優しいんですね。でも、死霊騎士がパーティーに居るのにですか? 」
「そういや、いたな。」
建物の外ではガイストがくしゃみをしていた。
「風邪ですか? 」
「いや、呼吸器官も肺も無いので、そんな筈はないんだが。」
ミントに心配されてガイストは首を捻っていた。そこへ建物から棺を担いでゼファーとゴーゼンが出てきた。
「おい、不動産屋。本当にお前が手に掛けた人間はいないんだな? 」
「あ、当たり前だっ! 」
「土地家屋の権利書は手に入れた。名義変更は俺がする。お前の詐欺行為は魔王が生きてた頃の話だし人間も手に掛けてないなら、見逃してやるからリフォームとメンテナンスを永久無料で請け負え。」
「永久無料って、そんな殺生な… 」
ゼファーも無理を承知で言っている。だが、首を縦に振らせる切り札がある。
「あたいも住むんだから手抜きすんじゃないよ? 」
「は、はいっ! それは勿論っ! 」
やはり魔王亡き後も魔物にとって魔王の娘という肩書きは絶大なようであった。不動産屋もボーマンに言われると二つ返事で承知した。
「ようし、それじゃ村に行って埋葬すんぞ。」
ゼファーたちは不動産屋に見送られて村に向かった。
「皆さん、お久しぶりです。」
村に着くとシャナやルレ姉妹が待っていた。
「よ、よう。」
「あ、はい。」
同じ顔を付き合わせてボーマンとシャナは気拙そうに挨拶をした。
「で、葬儀はするのか? 」
「いえ、埋葬だけで。」
「いけませんっ! 」
ゼファーの問いに依頼人が答えるとノワが声をあげた。
「ちゃんと葬儀式を執り行わなければ、その御霊が天に召される事は出来ませんっ! 」
「えぇっと、そんな敬虔な信者でもないんで… 埋葬して貰えればいいかなぁとか… 」
依頼人の様子にガイストがソワソワしていた。
「なら、除霊しますよ? 」
「まぁ待て。なぁ、名前は? 墓に書くから。」
「レイです。」
ゼファーに聞かれて依頼人が名乗った。
「幽霊のレイか。判り易くていいや。」
「いや、最初から幽霊だった訳じゃ… 」
「ノワ。レイは俺が預かる。で、いいな? 」
ゼファーの視線の先でガイストが頷いていた。




