旅之二十六 怪しい物件
ゼファーの言った通り、プランタンは待ち構えていた。予想と異なっていたのは前回には居なかったボーマンが一緒に来た事だった。
「こ、これはこれはボーマン様。このようなむさ苦しい場所へ、ようこそお越しくださいました。」
「・・・誰だっけ? 」
魔物にとってはボーマンは魔王の娘。そしてシャナと間違える事はあってはならない。しかし、プランタン・ニュイジャルダンは修道院でも教わるくらい、名の通った魔物だとはいえボーマンからすれば、その他大勢の1人に過ぎなかった。
「え、えぇと… 幽霊の家探しの件でらっしゃいましたね。」
プランタン自身も直接会うのは初めてだったが少しは知られているかもと淡い期待をしていたのだろう。だが、魔王の娘がいちいち会った事もない魔物たちを覚えているような神対応をする筈もなかった。
「調べはついてるのか? 」
「当たり前であろう。我を誰だと思っておる? 」
あからさまにボーマンとゼファーでは接する態度が違う。しかし、ゼファーはそんな事は気にしない。
「どうせ、この幽霊を俺たちに押し付けた後に魔栗鼠でも使って必死に調べたんだろ? 」
「ひ、必死になど、なってはおらぬ。我は勇者ミントならば話しを聞いてくれるやもしれぬと提案しただけだ。そ、それに貴様にも、この城の件では借りがあるからな。」
態度からすればゼファーの言った事は図星のようだ。それにゼファーはR.ヴァイトの城をプランタンとリース契約を結んだ際にギルドから報酬は受け取っているので貸しを作った覚えはない。だが、相手が勝手に借りがあると言うのなら、しっかり返して貰うつもりでいた。
「で、場所は何処なんだ? 」
ゼファーに問われてプランタンは羊皮紙に描かれた地図を差し出した。
「おそらく、この村が、その幽霊の言う教会のある村だろう。そして、少し離れた所にある、これが幽霊屋敷だ。」
「変な言い方はやめて貰えますかっ! 」
プランタンの言い方に文句を言ったが、事実、この依頼人は幽霊である。それに、そもそも事故物件である。幽霊屋敷もあながち間違いではない。
「なんか、見た事がある気がする村ですね。 」
地図を見ていたミントが呟いた。
「… 確かに見覚えあるな。っていうか、これ立地条件マイナスじゃね? 」
ボーマンにも見覚えがあった。
「俺様みたいな死霊騎士からすれば教会が在るだけでもマイナスだってぇのに… 」
好評価だったのが何やら雲行きが怪しくなってきた。
「どうしたんですか? 出発前は事故だけどいい物件だって言ってくれてたじゃないですか!? 」
依頼人からすれば建物を譲渡する事で引き受けて貰った案件である。つまり建物の評価価値が無くなれば依頼を断られかねないので必死だ。
「この村に何かあるのか? 」
急に不平不満を言い出したのでプランタンも不思議に思ったのか、尋ねてきた。
「俺たちが前に来たとき、貧乏臭いシスターが二人居たろ? あの二人の村だ。」
「なんだ。知り合いの居る村なら、なおさら問題無かろう? 」
プランタンが首を捻ると、その疑問にボーマンが答えた。
「あの村には… シャナが居る。」
ボーマンの、この一言で、後はお察しという奴である。プランタンも納得した。ただ肝心の依頼人には何の事だけさっぱりわからない。
「いいじゃねぇか、シャナが居たって。まだ、ごちゃごちゃぬかす奴がいたら、俺がぶっ飛ばしてやるよ。」
「ゼフ… 」
「ダメですっ! 」
少しばかり、はにかんでボーマンはゼファーの名前を呼ぼうとしたのだが、ミントの声に掻き消された。
「なんだ、ミント。妬きもちか? 」
「そ、そんなんじゃありませんっ! 魔王を瞬殺するような人が、ぶっ飛ばしたりしたら人間だろうと魔物だろうと、ひとかたまりもありません。事故じゃなくて事件です。」
「そんなに目くじら立てるなよ。小皺が出来るぞ? 例えだよ、た・と・え。」
「ゼファーさんの場合、時々、冗談だか本気なんだか分からなくなるから危ないんですよ。だったら目くじら立てさせないでください。嫁の貰い手が無くなったら責任とって貰いますよ? 」
「おいミント。いくら親友でも抜け駆けは見過ごせないぞ? 」
「え? … あ!? そ、そういう意味じゃなくてぇ… 」
ミントもボーマンに突っ込まれて自分が何を言ったのかに気づいた。
「ま、今日のところは、そういう事にしとくよ。お前の事だ、それでも、この幽霊を助けたいんだろ? 」
ミントも小さく頷いた。
「だったら、いいじゃないか。ここはお前のパーティーなんだからさ。お前が行くと決めたんなら、あたいらはついていくよ。」
「ありがとうっ! 」
思わずミントに両手を握り締められてボーマンも少し照れていた。
「よぉっし。話は決まったな? そんじゃ幽霊の遺体を見つけたら埋葬して貰わなきゃならねぇし、ルレ共んとこに行くぞ。」
「お世話掛けます♪ 」
物件評価が下がった時には、どうなる事かと不安になった依頼人も、どうやら、このまま引き受けて貰えそうなので一安心していた。そして城を出て洞窟を抜けると一台の馬車が待っていた。




