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勇者と元勇者が平和の世を行く  作者: 凪沙一人
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旅之二十五 迷子の魂

「あのぉ… どなたか。どなたか私の声が聞こえませんかぁ。」

 不意に宿屋の窓の外から声がする。といっても、この部屋は二階だ。普通は、そんな事はある訳ないと思うのかもしれないがガイストは自分も死霊である。窓に近づいてみた。襲う気であれば声も掛けずに壁をすり抜けて来るだろう。それをしないのは敵ではなさそうだと思ったが念のため窓越しに声を掛けてみた。

「こんな夜更けに何用かな? 」

「あぁ、良かった。私の声が聞こえるんですね。」

「え、まぁ。」

「入ってもよろしいでしょうか? 」

 ガイストも少し考えたが一人部屋だし危険性は無さそうだと判断し、部屋に入る事を許可した。

「きゃあ、お化けっ! 」

 ガイストの姿を見て声の主が驚いた。

「いや、お化けじゃなくて死霊だから。もっと言うと、あんた今、ほぼ同類だから。」

「あ… そうでした。すいません。まだ慣れてなくて。」

 それを聞いてガイストも溜め息を吐いた。

「はぁ。って事は自分が死んでる自覚はあるんだよね? 祟られる覚えは無いんだけど、こんな所に何の用? 」

「それがその… ぶっちゃけ幽霊ってお金なんか持ってないじゃないですか? ギルドにお願いも出来ず、どうしたものかと迷っていたら、こちらにお人好しの勇者が居るから相談してみればと… 」

 結局、ガイストも対応に困り皆に相談した。

「誰に相談しろと言われたんだ? 」

「プランタンと仰る方です… あ、相談しろと言われたんじゃなくて、相談してみればと提案されたんです。そこんとこは間違わないよう伝えてくれと。」

 プランタン・ニュイジャルダンといえばR.ヴァイトの3つ目の城をリース契約した魔物だ。

「あんな岩山の洞窟に何しに行ったんだ? 」

「最初は雨宿りのつもりだったんですが、洞窟に入ったらお城が見えたので、今回件の力になって貰えないものかと伺った処… 」

「あたしたちを紹介されたのね? 」

「…はい。」

「おい… 受ける気か? 」

「だって可哀想じゃないですか。」

「替われ。」

 ゼファーはミントを下がらせた。

「取り敢えず案件を聞こうか。」

「わ、私の遺体を見つけてください。でもって葬ってください。」

 思わずゼファーは眉を顰めた。

「何でまた。家族は? 」

「ほら、私って天涯孤独(ぼっち)引きこもり(ヒッキー)じゃないですか。誰も見つけてくれなくて。それで見つけて貰おうと幽霊になって外に出たら迷子になっちやって。外出なんて慣れない事はするもんじゃないですね。」

 じゃないですか、と言われても知った事ではない。

「大家とかは? 家賃が止まれば来ないか? 」

「あ、持ち家です。前の持ち主が魔物に襲われたっていう事故物件だったんですけどリフォームも済んでたし超激安だったんですよ。一度、魔物に襲われた家はまた襲われるとかいう噂があったんですけど契約成立直後に魔王が倒されたとかいうラッキーみたいな。まぁ、私自身は事故死って言っても事故って見つけて貰えなかったんだから孤独死みたいなもんで、そこはアンラッキーって感じですけどね。あ、そうだ。見つけてくれたら、あの家あげちゃいます。土地や家の権利書は空き巣にも見つからない所に隠してあるし、誰も騒がないって事は、私が死んでる事に誰も気づいていないと思うし。」

 なんとも悲惨な話しをあっけらかんとしてくる。

「立地は? 場所は分からなくても近くに店とか? あと間取りだな。」

「立地… 確か、すぐ近くの町? 村? に教会があったはずだから、そこに埋葬してくれれば、いいです。短い間でしたが、自分で買った家に愛着もありますし。あ、地縛するつもりは無いんで安心してください。間取りは6LDK。バス、トイレ別。アティック、サービスルームにウォークインクローゼット付きだよ。」

「・・・事故物件とはいえ、よく買えたな? いいのか、そんな物件を簡単にくれるって。」

「気にしない気にしない。勿の論よ。だって売ってもお金貰えないし使えないし。てか売れないで身内が居ないから没収とかされそうじゃん。だったら、ちゃんと住んでくれそうな人に讓った方がいいじゃん。」

 なんかタメ口になってるけど… ま、いいか。依頼人は葬って貰える。俺たちは家が手に入る。悪い話しじゃない。」

 それまで黙って聞いていたボーマンが口を開いた。

「幽霊に所有権はあるのか? 下手すりゃ墓代払って家は接収とかなるんじゃないだろうね? 」

「心配するな。宅建も弁護士もマスターだ。」

 そう、ゼファーは全ての(・・・)ジョブがマスターなのである。故に全ての仕事に伸び代が無く転職も出来ない訳だが。

「それじゃ、出発すんぞ。」

「え? あても無いのに何処に行くんですか? 」

 ミントとしては手掛かりが無いのであれば依頼人に家を売った不動産屋を探すのが近道だと考えていた。

「そんなの、プランタンの所に決まってんだろ? あいつが俺たちを紹介したって事は俺たちが押し掛けてくるのを覚悟している筈だからな。行ってやらないとあいつにも悪いだろ? 」

 本当にゼファーが悪いと思っているかどうかは別としてゼファーの事を知っているプランタンなら押し掛けて来る事を想定していても不思議は無かった。

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