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勇者と元勇者が平和の世を行く  作者: 凪沙一人
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旅之二十四 裁く者

「何か仰々しいお出迎えだな。」

 ゼファーの眼前には多数の人間が森の手前で待ち構えていた。

「R.ヴァイトさんからの伝書妖精によると、人狼が狂暴化したって噂で頭数を集めただけで、まだ人狼に被害は無いそうです。」

 ミントのの言葉にゼファーは苦笑した。

「いや… 被害者は、ここに居る。」

 そう言ってランの頭をポンポンと叩いた。

「そうですね。ラン君の仲間にも被害が出ないうちに私たちで辞めさせましょうっ! 」

 ミントの言葉に頷くとゼファーとボーマンが前に出た。すると、その横に天空から一人の女性が舞い降りて並んだ。

「R.… テミス様? 」

「一緒にしないでもらおう。我は判神テミスの陪神にして法を司りし分神、L.テミス。」

「司法の女神様? 」

 ミントから見た目にはR.テミスとそう変わらない。どちらも判神テミスの分神なのだから仕方がない。

「ようするに… あれだ。残念じゃない方だ。」

「あぁ、残念じゃない方の女神様なんですね。」

 ゼファーの言葉にミントは妙に納得した。

「言われてみれば、残念じゃない感がそこはかとなく感じられます。」

 ガイストも調子を合わせたつもりだが、L.テミスには何か引っ掛かる。

「その… ◯◯じゃない方というのは辞めて貰えぬか? 」

「仕方ないだろ? まともに出来て当たり前の神様が残念だなんてインパクトあるからな。」

「残念だからこそ、人目… いや神目も憚らずに頼みに来た訳か。人間臭さが人間の親しみを誘うのだろうな。だが我は普通・・の神である。我が天秤はこちらに傾いた。そこの人間共よ、これから正義の鉄槌を下す。命が惜しければ去るがよい。通告はした。」

 L.テミスの声が届くと森の手前の人影は一人、また一人と消えていった。その中の一人だけ、L.テミスが呼び止めた。

「何処へゆく? 」

「そ、そりゃ女神様の通告に従いまして、ここから去ろうと。」

 するとL.テミスは、その者を睨み付けた。

「お主、魔王を倒したのだろう? 何故、我を怖れる必要がある? 」

 L.テミスの天秤は偽物を暴いていた。

「な、何でバレたんです!? 」

「神は全てをお見通しです。そもそも魔王を倒した本人を目の前に恐いもの知らずにも程がある。」

「まさかっ! 」

 偽者はゼファーを見て腰を抜かした。

「そ、そうだ。あんた魔物に命狙われてんじゃないのか? 力んなるぜ。」

 命乞いを始めた偽者にミントも呆れた。

「もう、観念してください! 」

「煩ぇ、ガキっ! 」

 確かに偽者からすれば、17歳のミントはまだ子供に見えただろう。

「あたいの親友マブダチに喧嘩売るなら代わりに買うぜ? 」

 整った顔立ちだが、角も翼も尻尾もある。

「そもそも魔王オヤジを瞬殺したような奴に喧嘩売るほど魔物はバカじゃねぇよっ! 」

「お… 親父? 」

「此の者は魔王の娘です。」

 偽者も驚くしかない。大概に於いて他人のパーティー編成など知るはずもない。ましてやパーティーリーダーが勇者でもレベル1となれば気にも止められないのが普通である。まさか本物の魔王を倒した男と魔王の娘を引き連れているとは思いもしなかった。挙げ句、女神まで現れては逃げ道は無い。ミントの言うとおり観念するしかなさそうだ。

「一つ、魔王を倒せし勇者を騙った罪。一つ、罪無き人狼を襲いし罪。一つ、偽りの人狼凶暴化の噂を流布したる罪。一つ、人と魔物に無益な争いを生み出さんとした罪。神判・完全有罪確定ギルティ・ジャッジメント。」

「くそぉ。お前が魔王を倒しちまうから、俺たち冒険者は仕事が無くなったんだぞっ! 」

 偽者も開き直りを見せた。

「そりゃ、そうだろうな。倒した俺も無職なんだから。でも、お前らはまだ転職出来るだろ? 俺なんか転職しようが無いんだぞ。ギルドの運営、城の管理人、養蜂、魔物たちだって聖職者に怯えながら真面目に働いてんだぞ。他人の所為にしてんじゃねぇよ。」

 すべてのジョブがマスターであるが故に仕事につけないというのは、ある意味、究極の器用貧乏かもしれない。

「では、連行します。」

 偽者はL.テミスによって連れていかれた。

「さすがに今回はWin-Winって訳にいきませんでしたね。」

 L.テミスの後ろ姿を見送りながらミントが呟いた。

「なぁに、L.テミスは役目を果たせた。人狼たちは凶暴化の疑いが晴れた。俺たちは依頼完了で報酬が手に入る。あいつも反省してやり直せばWinな人生が待ってるかもしれないだろ? 」

 どんな神罰が下るかは知らないが、具体的な被害はランの怪我だけである。そんな厳しいものにはならないだろう。

「お前もご苦労だったな。」

 ゼファーの声にカトルが姿を現した。

「なんだ、気づいてたのか。」

「お前だろ、R.テミスからの頼みをL.テミスに伝えたのは? 」

「まぁ神々が自分の領域テリトリーを出る事はなかなか無いからね。」

「お陰で人間、ぶん殴らないで済んだ。R.テミスにも礼を言っといてくれ。」

「後で取り消すなよ。うちの女神様、滅~多に誉められる事、ないから喜ぶぜ。」

 カトルが自分の事のように嬉しそうに言った。

「これで残念な女神様もWinですね。」

「ミントの一言でチャラだな。」

「あ゛~っ! 今の無し。カトル君、聞かなかった事にぃっ! 」

 ゼファーにからかわれて、ミントは必死に謝っていた。

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