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勇者と元勇者が平和の世を行く  作者: 凪沙一人
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旅之二十三 人狼狩り

「おいおい、俺たちの獲物を勝手に横取りしないでもらいたいねぇ。」

 其々、武器を片手に複数人の男が現れた。だが、ゼファーは慌てず騒がず剣を一閃した。

「キャァッ。」

 思わずミントが目を覆った。男たちのズボンが足元に落ちていた。

「え!? 」

「なっ!? 」

「い、一端、引けっ! 」

「覚えてろ。俺たちには魔王を倒した勇者様がついてるんだからなっ! 」

 男たちはズボンを手で押さえながら這々の体で逃げていった。

「追わなくていいのか? なんなら、あたいが… 」

「いや。どうせ、下っ端だ。放っておけ。それより・・・魔王って、そんなに何人も居たのか? 」

 ボーマンの問いにゼファーが問い返した。

「あん? いや、あたいのクソ親父だけの筈だよ。新しい魔王が誕生したなんて話しも聞かないしね。」

「だよな。俺も偽者が出るほど有名になったかな。」

「魔物の中じゃ、その顔を知らない奴はいないくらい有名だけどね。人間界じゃ顔が売れてないんじゃないのかい? 」

 頭を掻くゼファーにボーマンが冷静に突っ込みを入れた。

「そんな冷静にしてる場合じゃありませんっ! その偽者さんたちが今回の悪さの原因だったら、罪押し付けられて御飯が食べられなくなりますよっ! 」

「そいつは拙いっ! 」

 御飯が食べられなくなると聞いてゼファーもヤル気を出した。

「あいつら行ったぞ。いつまでも人狼が狸寝入りしてんじゃねぇぞ。」

 ゼファーがそう言うと人狼の少年は起き上がった。

「み、皆さん、えと、あの、その… 。」

 周囲を見回して人狼の少年はパニクっていた。魔王の娘と死霊騎士。それに勇者と元勇者。たった今まで人間に追われていた身では戸惑うのも無理はない。

「安心して。あたしたちは吸血鬼のR.ヴァイトさんに頼まれて人狼さんたちを助けに行くところよ。」

「きゅ、吸血鬼が? なんで? 」

 ミントは事実を話しただけだったが、やはり人狼を吸血鬼が助けようとするなんて俄には信じられないのだろう。

吸血鬼あいつらにしてみたら長年の仇敵が、こんな狩られ方をするのが我慢出来なかったんだろ。ま、細かい事、気にしないでお前の仲間を助けに行こうぜ。」

 確かに、こうしている間にも仲間が危機に陥っているかもしれない。ゼファーの言うとおりだと人狼の少年も思った。

「坊主、名前は? 」

「ラン。勇狼ヨンランっ!」

 元気そうに答えたが、すぐにお腹が鳴った。

「ま、取り敢えず腹ごしらえだな。ミント、今ある材料で何か作ってやれ。俺はガイストと追加食材の調達に行ってくる。ボーマン、留守は頼むな。」

「さすがですね。戦力としてボーマン様と御自分を分ける。種族として人と魔物を一人ずつ分ける。男女も分けて料理される方を残すと自然にこの人選になりますもんね。」

 ランはゼファーの選択に感心していた。

「そんなゼファーさんが、そこまで考えてるなんて… っていうか、あたしは料理する人じゃなくて勇者なんですけど? 」

「え!? 賄いのお姉さんじゃないんですか? 」

 普通に、真面目に、ガチでランに驚かれてミントは頭を抱えた。

「ラン、あたいの友達ダチを虐めないでもらえるかな? 」

「え!? ボーマン様の… 友達? 」

 魔王の娘が勇者を友達と呼ぶ。もう、ランには何が何だか分からなくなっていた。一方のゼファーは先ほどの偽者一行に待ち伏せをされていた。

「どうやら人間に相手してもらえなくて魔物と手を組んだのか、情けない。さっきは剣では負けたけどな。今度は僧侶もいるし魔法使いもいるからな。」

「あの… 」

 僧侶と聞いてガイストがニ、三歩下がった。やはり死霊騎士にとって聖職者は天敵である。

「へぇ、そりゃ凄いや。なら、遠慮しなくていいんだよな? 」

「何が遠慮だ。喰らえっ! 」

 魔法使いが火の玉を放ったがゼファーはデコピンでもするように打ち返した。ボーマンの魔力を片手で弾くようなゼファーにとって、魔法使いの火の玉程度、指先一つである。

「そっちが先に撃ってきたんだ。意味は分かってるよな? 」

 ゼファーが右手に火の玉を作ると男たちは慌てて逃げ出した。

「まったく。あれじゃ俺の偽者って奴も高が知れてるな。」

 右手の火の玉を握り潰すとゼファーとガイストは獲物を集めてミントたちの所に帰った。

「何か来たか? 」

「ん? ゼファーが居ないの見計らって来たんだろうけど、ちょいと脅かしたら逃げてったよ。」

「あれってちょっとなんですか? 」

 ミントの視線の先には焼き野原が広がっていた。

「怪我人出してないし、道も開けた事だし、いいんじゃね? 」

 五人は食事を済ませると人狼の森へと急いだ。どうやら実力は大した事は無いが人数だけはいるようだ。恐らくは魔王を倒した勇者が居るという情報に乗せられて集まったのだろう。その偽者一行も本物が向かっているとは露知らず、待ち構えていた。

「いいか、お前ら。あの魔王を倒した、この勇者が居る限り、俺たちが負ける筈は無いんだ。魔物の生き残りである人狼狩りを邪魔するような人間の風上にも置けないような奴らは退治するのが人間の為だぞっ! 」

「オォーッ! 」

 気合いだけは入っているようだった。

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