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勇者と元勇者が平和の世を行く  作者: 凪沙一人
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旅之二十 おうちへ帰ろう

「ゼファーさん、どういう意味ですか? 」

 ミントには状況が飲み込めていなかった。だが、ミント以外はゼファーの言葉とカトルの態度で全てを察していた。きょとんとするミントの額をボーマンは軽く指で弾いた。

「ったく、お子ちゃまだな、お前。こいつは狂言誘拐、駆け落ちだよ。」

「なぁんだ… って、駆け落ちぃ!? 」

「えっ、そうだったんですか!? 」

 すっとんきょうなミントの声に意外な反応を見せたのが誰あろうホワイトベルだった。

「ボーマン、こいつはカトルの片想いだよ。」

「うげっ! じゃあ、やっぱり誘拐じやん!? 」

「あ、いえ。同意してついていったので狂言誘拐というのは合ってます。ただ、駆け落ちというつもりはなくて。」

 こうなると、ますますミントには訳がわからない。

「おぉい、若きクォーターエルフのメンタルが崩壊するから、その辺にしといてやれぇ。」

 ゼファーの棒読みな声に皆がカトルを見ると顔を真っ赤にして頭を抱えて踞っていた。きっと、こんな深海でなければ走って逃げ出していたかもしれない。

「なぁ、カトル。お前も伝書妖精やってみないか? それならホワイトベルと一緒に居られるだろ? ホワイトベルだって残念な女神が心配みたいだし。お前がその気なら、妖精王と残念な女神には力ずくでうんと言わせてやるぜ? 」

「あのぉ… カトルの受け入れは構わないのですが… クォーターエルフのメンタルは気にしても女神のメンタルは気にしていただけないのですか? 」

 だがゼファーはお構い無しに話しを進めた。

「おっし。残念な女神が受け入れてくれるってよ。あとは、お前次第だ。なぁに、ホワイトベルだって、お前が嫌いなら、ついて行きゃしないって。脈はあるから決断しろ? 」

「そ、そうでしょうか? 」

 ようやくカトルが顔を上げた。

「なぁ、ホワイトベル。カトルと一緒でも問題無いよな? 」

「えっ、えぇ。R.テミス様が受け入れると仰るのでしてら異論はありません。」

「ほら、ホワイトベルも一緒に働きたいってよ。」

 だいぶニュアンスをねじ曲げている気はしたが、拒まれてはいないようなので、カトルもホッとしていた。

「ようし。R.テミス、帰るぞ。」

「そんな使われる時だけ、急に名前で呼ばれても… 。」

「何、言ってんだ? 俺たちにとっちゃ文字通り、お客様は神様だからな。」

 確かに今回、R.テミスは神だがギルドの客でもある。神扱いも客扱いもされていない事にR.テミス自身は納得していない。それでもホワイトベルを連れて帰るという依頼は果たされたので、いつも通りR.テミスの天秤は均衡を保っていた。そして海皇の元を通過し、妖精の里に戻ってきた。すると、前回訪れた時以上の大騒ぎだ。

「よ、よ、よ、よ、よ、妖精王様ぁっ! 」

「なんじゃ、騒々し… 。」

 妖精王の前には元勇者と女神と魔王の娘、それに現勇者と死霊騎士の他に伝書妖精とクォーターエルフまでもが一緒に居た。

「ゼファー。クォーターエルフをこの里に連れ込むとは、どういうつもりだ? 」

 ここぞとばかりにゼファーは見得を切った。

「妖精王オベロン。女神R.テミスの名においてクォーターエルフのカトルに伝書妖精としての許可を与える事を命じる。」

「な、なんじゃとぉ!? 」

 さすがにオベロンも驚きのあまり声が裏返ってしまった。そして、恐る恐る視線をR.テミスへと向けると小さく2、3度、頷いていた。

「いや、しかし… R.テミス様… 此奴はクォーターエルフですぞ? 」

「オベロン。カトルの出自なんて、どうでもいいじゃねぇか? あいつがまともに働きてぇって言うんだ。クォーターエルフに就労許可を出した、なんて歴史に残る妖精王になるぜぇ? 」

「し、しかしだな。彼奴が何かしでかしたら愚王として汚名を残す事になるのだぞ? 」

「そん時ゃ、R.テミスの所為にしちまえばいいんだよ。どうせ、今より下はねぇんだから。」

「なるほど。」

 意外と単純にオベロンは納得した。そもそもカトルが何かをした訳ではない。歴史上、大罪を犯した者がクォーターエルフだったというだけである。それ以来、クォーターエルフというだけで迫害され、オベロンは慣習に従っていたに過ぎない。実はオベロンはクォーターエルフを目の敵にしていたのではなく、デリケートな問題は先送りにしたかっただけなのである。だからこそ、手柄はオベロン。責任はR.テミスというゼファーの提案は渡りに舟であった。これで、今後、出自を理由に理不尽な態度をとらなくて済む。

「カトル。これで、お前も今日からホワイトベルと同じR.テミスの伝書妖精だ。」

「あ、ありがとうございますっ! 」

 カトルは許可証を受け取ると嬉しそうに大事に握りしめてホワイトベルとR.テミスに見せに走っていった。

「また、いつものWin-Winってやつですね? 」

「悪い奴がいなかったんだ。負ける役は必要ねぇよ。」

 ミントには、珍しくゼファーがまともな事を言ったように思えた。

「さ、みなさん。おうちに帰りましょ! 」

「ばぁか。俺たちに家は無ぇだろ。」

 この日ばかりはミントも馬鹿と言われても腹が立たなかった。

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